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小野耕資「グローバリストが農業を破壊する」(『維新と興亜』第9号、令和3年10月)

 国際社会は魑魅魍魎が渦巻いている。その結果珍奇な現象が起こることもある。以下時事通信の記事を要約する。
 国連食糧農業機関(FAO)など国連三機関は本年九月十四日に、世界全体で年五四〇〇億ドル(約六十兆円)に上る農家支援策のうち、八十七%は価格をゆがめたり環境に悪影響を与えたりして「有害」だとする報告書を公表した。こうした政策を維持すれば、持続可能な食料供給を実現できないとして、抜本的な見直しを各国に求めた。有害な支援策と指摘したのは、輸入関税と輸出補助金、特定の農産物生産を後押しする補助金である。「食料の貿易や生産、消費をゆがめる」ことにつながり、支援を特定品目に絞れば過剰生産や農薬の大量使用を促し、「環境に悪影響を及ぼす」と説明した。日本は支援策が多い国と名指しされており、日本のほかには韓国、チェコ、アイスランド、ノルウェーが多いとされている。
 関税や補助金が有害だなどというのは論外で、市場放任こそ正しいとする典型的な新自由主義的発想であり、許しがたい。
 その一方で、農家の収入の半分以上を政府の補助金から受け取っているとされるアメリカや、二〇〇四年以降農業保護策に転じ、WTOメンバー国から「農業に補助している」と非難されながらもなお手を変え品を変え農業補助を行っている中国が入らないのは全く解せない。
 国連食糧農業機関のいまの事務局長は中国人の屈冬玉氏である。屈冬玉氏はコメ農家に生まれ、園芸学を学びながらオランダで博士号を取得。帰国し内蒙古自治区の一つ寧夏回族自治区の副主席を務めた後農政に携わるようになり、二〇一九年から現職である。屈はFAO事務局長就任の際にデジタル分野を含むイノベーションを通じて農業と農村の持続可能な開発を推進しつつ、飢餓ゼロ、貧困撲滅を達成するために的を絞った迅速な行動を呼び掛けたという。
 農業のデジタル化、IT化は、いまグローバリストによって草刈り場となっている市場である。試みにインターネットで「農業」と検索するといい。「農業AIブレーン」だの「農業ドローン」だのといった広告宣伝記事で満ち溢れていることに気づくだろう。屈もまたそうした農業にたかるグローバリストに奉仕する人間なのだろうか? 米中を「農業支援策が多い国」から外したのは忖度ではないのか。
 そもそも基本的な食糧生産は補助金なしに到底なしえない事業だ。日本の農業は農家に対する補助が少なすぎるくらいだ。三橋貴明氏によれば、日本の農業の所得に対する税金の割合はわずか一五・六%。主要国最低だという。農業産出額に対する農業予算の割合は、日本が二七%と低く、関税も世界有数で低い。輸出補助金はない。日本の農業は保護されなさすぎていることはあっても保護のし過ぎなどない。
 こうした事実関係を踏まえずにこれまでも「日本の農業は保護されすぎている」などと言われ、農協改革やTPPが推進されてきた経緯がある。そして今回国際機関によってまたもやデマが流された格好だ。
 岸田首相は所信表明演説で、「農林水産業の高付加価値化と輸出力強化を進めるとともに、家族農業や中山間地農業の持つ多面的な機能を維持していく」としている。不充分な内容ではあるが、「農水省なんか潰してしまって経産省の第一次産業局にでも農政を任せた方がよっぽど農業を強くできる」などと言っていた河野太郎氏などよりはよほど話が通じそうだ。
 河野氏は総裁選のさなかにも農業について「人が寝ててもできるものは、もうロボットやAIにやってもらう」などと言って大いに批判を集めた経緯がある。岸田総理にはぜひ河野氏を反面教師にして、農政に河野氏や小泉進次郎氏、あるいは竹中平蔵一派のようなグローバリストを携わらせないことを期待したい。
 日本の食糧を守る。そのためにはグローバル化の見直しは必須だ。ぜひ新政権には農業を破壊するグローバリストの甘言に乗らず、食糧主権、食糧安全保障の見地に立った農政をすべきなのだ。

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