見出し画像

毒島刀也「核武装なくして自主防衛なし」(『維新と興亜』第15号、令和4年10月28日発売)

核保有していない国には、戦争する権利すらない


── 日本が自主防衛体制を確立するためには、核武装が必要でしょうか。
毒島 自主防衛の究極の目的は核兵器の保有です。核兵器なき自主防衛は画竜点睛を欠いた自主防衛に過ぎません。私は、核保有していない国には、戦争する権利すらないと考えています。ウクライナを見てもわかるように、核兵器がなければ一方的に攻められるだけです。
── 日本が核武装するためには、何をそろえればいいのですか。
毒島 すでにすべてそろっています。弾道ミサイルは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発している新型固体燃料ロケット「イプシロン」によってクリアしています。
 ただし、核兵器として使用できるウランあるいはプルトニウムが必要です。核分裂を起こすウラン235の濃縮度を20%以上に高めたものは高濃縮ウランと呼ばれますが、兵器として使用するためには90%以上に濃縮する必要があります。
 天然ウランの中には、ウラン235は0・7%しか含まれておらず、天然ウラン1トンからウラン235は7㎏しか採れません。そのため遠心分離機によって分離(濃縮)していきますが、青森県六ヶ所村にある日本原燃のウラン濃縮工場の規模では間に合わず、濃縮工場の増強が必要となります。
 一方、プルトニウムを核兵器として使用する場合も、ウランの場合と同じように、プルトニウム239を93%以上(兵器級)となるように分離精製しなければなりません。このため兵器級プルトニウムを分離精製できる原子炉「プルトニウム生産炉」が必要となります。プルトニウム生産炉には、黒鉛炉と重水炉があります。実は、かつて日本は、この両方の原子炉を稼働していたのです。黒鉛炉は、日本初の商業用原子力発電所でもある東海発電所です。
 1964年に中国が初の核実験を行うと、日本は1968年に内閣官房内閣調査室(現内閣情報調査室)が主導して『日本の核政策に関する基礎的研究』という報告書をまとめました。この報告書は、東海発電所を使えば「年間約100㎏のプルトニウム」が生産でき、少数のプルトニウム原爆の製造は可能と明記していました。しかし、東海発電所は1998年に運転を終了し、すでに廃炉作業が始まっています
 一方、重水炉は新型転換炉の原型炉「ふげん」です。ふげんはその後、実証炉に引き継がれる予定でしたが高コストのため計画が中止され、2003年に運転を終了しました。
 つまり、核兵器製造のためには、ウラン濃縮工場を増強するか、プルトニウム生産炉を再建設する必要があり、それには時間とコストがかかります。

参考になるイギリス型の核武装


── 日本の核武装については、技術的に可能だとしても政治的には難しいとされています。
毒島 日本が核兵器開発に乗り出せば、核兵器不拡散条約(NPT)体制から脱退しなければならなくなります。それまでに濃縮可能なウランとプルトニウムを確保しておく必要があるということです。同時に、国際的な制裁を考慮すると、短期間で濃縮を終わらせ、弾頭化し、実験をする必要があります。また、核兵器の開発を秘密裏に進めるには、防諜組織の創設が不可欠になるでしょう。
 例えば、太平洋の友好国で核開発を秘密裏に進め、それを日本に持ち込むといったアクロバチックな方法を考えなければ、核兵器開発を進めることは難しいでしょう。
── アメリカは日本の核武装を容認しますか。
毒島 容認しないでしょう。したがって、一時的に日米関係が悪化することも覚悟しなければなりません。アメリカという市場を失ってでも、核武装するという覚悟が必要です。そのためには、アメリカ以外に市場を確保しなければならないということです。
── 日本が核武装する場合、どのような核戦力を持つのが有効ですか。
毒島 日本の場合には、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)を搭載した原子力潜水艦を配備する形で、核抑止力を確保する必要があります。日本には、原子力潜水艦を製造する能力もあります。ただ、その維持には相当の手間がかかるのです。原子炉の核燃料棒の寿命を長くする必要があります。
 かつてスウェーデンも核兵器保有を検討したことがありましたが、運搬手段が確保できないこと、また国民世論を考慮して断念した経緯があります。日本の場合には、技術的、資金的にはクリアできますが、国民世論が最大の障害になるでしょう。
── SLBMによって核抑止力を担保しているイギリスのやり方は、日本の参考になりますか。
毒島 戦力を取捨選択し、保有する装備にメリハリをつけるという意味では、イギリスに学ぶべき点は多いと思います。イギリスは、海軍に戦力を集中し、空軍、陸軍は最小限の外征戦力を維持する以外はバッサリ削った「割り切った」編成をとり、核弾頭付きのトライデント・ミサイルを搭載した4隻のヴァンガード級原子力潜水艦を保有しています。イギリスは、核抑止力の確保を最優先しているということです。フランスもまた、潜水艦建造を優先するために、戦車や戦闘機の配備を10年単位で遅らせました。英仏のように、他の戦力がある程度貧弱になっても構わないから、SLBMを優先するという選択肢はあります。

核武装にかかる費用は4兆5500億円

ここから先は

1,867字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?