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時は心を癒やさない。『すずめの戸締まり』と『風の電話』から考える震災遺児と「生きる意味」の難しさ。

東日本大震災から12年、テレビでは特集番組が放送され、当時のことが鮮明に思い出されると同時に、震災を知らない子どもたちが増えていることも実感します。

毎年、この時期に東日本大震災にかかわる映画を何本か見ていますが、今年は何と言っても『すずめの戸締まり』でしょう。震災を全面に押し出した作品ではありませんが、震災で肉親を失った少女が主人公の映画です。

とりあえずこの作品の感想はこちらに。

たまたまですが、これとほぼ同じ設定の映画『風の電話』もみました。

大人になる震災遺児の心の中は

『すずめの戸締まり』の主人公鈴芽は4歳の時、片親の母が津波で行方不明になり、宮崎のおばに引き取られます。映画は約12年後、高校2年生になった鈴芽の数日間が舞台です。『風の電話』の主人公ハルは9歳の時、両親と弟が津波で行方不明になり、広島のおばに引き取られます。映画は約8年後、高校3年生のハルの数日間の物語です。

被災した年齢は違いますが、物語の時点では同じ高校生で、卒業後の進路を考える時期、つまり子供から大人になろうとしています。この先の人生をどのように描いていくのか、それを考えなければならない時期に来ているのです。

そんな二人ですが、ハルは見るからに生気がない少女で、暗い表情で日々を送っています。子供時代からまだ抜けきれず、おばに頼り切った暮らしをしているように見えます。鈴芽のほうは明るく行動力もあるので、対象的に見えますが、実は二人は同じ空虚を抱えていることが明らかになっていきます。

ポイントになるのは、鈴芽が「死ぬのは怖くない」という部分。鈴芽の行動をよく見ると、彼女は自分の生命に頓着が内容に見えます。自分が死ぬことよりも地震で沢山の人が死ぬことを恐れ、それが防げるなら自分が死ぬこともかまわないと考えています。

ハルは頼みのおばが倒れて入院したのをきっかけに一人で生まれ故郷の大槌へとヒッチハイクで向かいます。その旅の目的は明らかではありませんが、彼女の一番の望みは家族に会うことで、死ねば家族に会えるという考えも持っているのだろうと思います。

そんな二人が道連れと旅をする中で生きる意味を見つけていく、どちらもそのような映画なのです。

生きる意味を見つけることの難しさ

どちらもいい映画で見てほしいですが、特に『風の電話』は3年前の映画で話題になったわけでもないので、見ていない人も多いだろうということでぜひ見てほしい作品です。

この映画の中でハルが同年代のクルド人の少女と出会い、会話をするシーンがあります。難民として日本にやってきたのに父親が入管に1年にも渡って収監されているその少女は、そんな状況にもかかわらずハルに進路の話をします。この出会いがハルが外の世界の同世代たちが何を考えどう生きているのかを知る機会になり、自分を見つめるきっかけになります。

鈴芽も最初に訪れた愛媛で同世代のチカに出会います。彼女は家族で営む民宿の手伝いをしていて、鈴芽も自分の知らない生き方をしている同世代に出会うことで自分を見つめ直すことになります。

これを見て思ったのは、彼女たちは幼いときに親を失ってしまったことで自分の生きる意味を実感できなくなっているのと同時に、同世代の他の子供達よりも守られてきたことで大人になれず、先を見る機会が少なかったのだろうということです。

ただでさえ傷ついているのだからこれ以上傷つかないように守ろうというのは大人にとっては当たり前のことで、子供のうちは必要なことでしょう。でも、彼女たちが大人になって自分の足で歩いていかなければならなくなった時には、その保護を打ち破らなければなりません。

ハルはおばが倒れたことで否応なしにその外に放り出され、鈴芽は巻き込まれる形でおばの保護から外に出たことで、その一歩を踏み出しました。そして、外に出ても守ってくれる人はいて、その中で自分なりの生き方を見出していくのです。

それで考えたのは、心の傷は時が癒し、少しずつ立ち直っていくだろうと考えがちだけれど、実はそうではなくてなにかのきっかけで自分自身でその傷をなんとかしなければ立ち直ることはできないのではないかということです。それは被災者に限らずあらゆる人に言えることなのかもしれませんが。

震災から12年が経ち、社会は震災から少しずつ立ち直って来てはいますが、中には12年間、止まったままの時間のなかで変わらぬ傷を抱え続けている人もいるのです。私達が今ケアしなければいけないのはそのような人たちなのかもしれません。

特にこの二人の主人公のような震災遺児が大人になって社会に出ていくためには外からの支えと刺激が必要なことを、2本の映画は示してくれています。

東日本大震災から12年がたった3月11日、私は震災からまた一つ学びました。みなさんも年に一度のこの機会にぜひ考えてみてください。

子どもたちを支援する活動

記事はこれで終わりですが、そんな子どもたちを支援する活動を少し調べてみて「コラボ・スクール」の活動は応援したいものだなと思いました。

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扉画像(C)2020 映画「風の電話」製作委員会

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