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なんでマスクをしない人が多いんだろう?と思ってるあなたへ ー ジジェクの『パンデミック』を読んで気づいたこと

連休が終わり、感染者数がどうなるか多くの人が戦々恐々とし、テレビの“ニュースショー”では引き続き新型コロナウイルスのことに多くの時間が割かれています。

でも、なぜかリアリティが感じられないという人も多いのではないでしょうか。私もずっとそうでした。

ただ、少し前に身内が心臓の病気で入院したことでリアリティを感じるようになりました。入院したときに医者に「いまコロナにかかったらやばい」というようなことを言われたと言っていて、いわゆる「既往症がある高リスクな人」になったわけです。

そこで私は「コロナをうつしたらこの人は死ぬんだ」と思ってそこで急にリアリティが湧いてきたのです。

それまでもいろいろ想像力を働かせて「自分がかかっている前提で感染対策をしよう」と考えて、マスクをするのはもちろん、高リスクな人がいる場所には行かないとか考えていたのですが、それはあくまで仮想のもので、それが人の死につながるという実感は実はあまりなかったのです。

それが「身内の死の危険」によって急に現実感を帯びることになりました。

同じように新型コロナウイルスにリアリティを感じる人も多いと思います。近い関係の人がかかったとか、家族に医療関係者がいたりとか、自分が高リスクだとか、他にも様々な理由で。

そして、こうして現実感を帯びたことによって何が変わったのかといえば、それはさらなるストレスです。今の世の中には新型コロナウイルスにリアリティを感じている人と感じていない人がいて、感じている人にとっては感じていない人の行動がストレスになってしまうのです。

あなたが目にする「マスクをしない人」の多くはコロナウイルスにリアリティを感じていない人なのではないでしょうか。

そこでそのストレスに対処する方法はないだろうかと思って読んだのがスラヴォイ・ジジェクの『パンデミック』だったのです。

先日この本について書いた記事はこちら。

前回の記事には書かなかったのですが、補遺でジジェクは

私は、自分のアパートに閉じ込められ、読書と仕事に必要な時間が十分あるという状態が、好きだ。

と告白し、今回のコロナウイルスによる隔離について

日々の現実に大きな変化がない場合、コロナウイルスの驚異は亡霊のような幻想として経験される。だからこそ余計に強烈なものになる。

と語っています。

私も実は(前者については)そうで、仕事もほとんど家でしているので隔離自体はほとんど苦にならなかったのです。でもだからこそコロナウイルスが「亡霊のような幻想」として経験されるという発言にはハッとさせられました。つまりリアリティがないのに驚異としては存在している状態だったわけです。

さらにジジェクはラカンの「現実(reality)」と「現実界(the real)」の理論に言及し、簡単に言うとコロナウイルスを現実界の亡霊のようなものと位置づけ

この亡霊のような「エージェント」がわれわれの現実の一部になった瞬間(たとえそれがウイルスに感染したという意味でも)、その力が一局所に留められ、対応が可能な何かになる(たとえ戦いに敗れる結果だとしても)。

と述べています。

私が経験したのもこの「現実化」の一種であり、実は驚異が具体化したことで(心理的には)対応しやすくなったと言えるのだということがわかりました。亡霊のような漠然とした驚異から、身近な人が死ぬかもしれないという現実の危機へと変わったのです。

このことで対応しやすくなったとしても、ストレスが減るわけではないのですが、今の日本はまだ新型コロナウイルスが現実界から現実へと降りててきていない人が多い状況であると考えることで、自分の状況だけでなく社会の状況にも対応しやすくなった気がしました。

私にできることは新型コロナウイルスを現実の驚異と受け入れて自分がかからないようにそして人に感染させないように生活することしかないとわかったからです(前からわかってはいたんですが、腹に落ちたという感じでしょうか)。

コロナウイルスを亡霊のようなものとしてしか認識していない人の行動に気をもんでも仕方がないのです。私にはその人の行動を変えることはできません。できることはせいぜい直接話しをしたりしたときに自分の感じてることについて話したり、こんな文章を書いたりすることくらい。それだけでコロナが現実の脅威と感じられることはないでしょう。

これで「なんでマスクをしない人が多いんだろう?」という疑問の答えになるとは思いません。ただいえるのは、マスクをしない人の一部は新型コロナウイルスにリアリティを感じられない人々で、その人達には罪はないし、あなたはその人の行動を変えることもできないということです。

ならば、自分ができることをやるしかない。それは、マスクをしない人を非難することではなく、自分が感染しない、人に感染させないためにやるべきことをやること、そしてジジェクの『パンデミック』を読むことです。​​

Top Photo by Dan Burton on Unsplash


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