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ロシアか西側諸国か。『ウィンター・オン・ファイヤー』と『ウクライナ・オン・ファイヤー』を観て、悲劇の原因を考える。

ウクライナで今起きている「戦争」。報道を見る限り、ロシアが国際法に違反して主権国家に攻め込んだことは間違いなさそうだ。しかし、メディアが一斉にウクライナの肩を持ち、ロシアが一方的に悪いと喧伝すると疑いたくもなってくる。

もちろん戦争は今すぐやめてほしいが、こうなってしまった原因は何で、私達は何を信じ、誰を支援するべきなのか。双方の言い分を聞いて自分で判断したいが、リアルタイムで流れてくるニュースにはバイアスがかかり、それもなかなか難しい。

そこで、2013年から2014年にかけてのマイダン革命を描いた2本のドキュメンタリー映画『ウィンター・オン・ファイヤー』と『ウクライナ・オンファイヤー』(題名が似ていてわかりにくいが)をみて、考えてみたい。

*『ウクライナ・オン・ファイヤー』はNetflixで配信。Youtubeで公式のフル動画も観られるが日本語字幕は無し。『ウクライナ・オン・ファイヤー』は日本未公開、ニコニコやYoutubeに日本語字幕付きの動画が上がっている(監督がtwitterで「自由にダウンロードしてアップしてくれ」と言っているので、違法ではないと思いますが自己責任で)。

『ウィンター・オン・ファイヤー』とは

『ウィンター・オン・ファイヤー』(わかりにくいので以下『WoF』と書く)は、2015年に製作されたウクライナ、アメリカ、イギリス合作のドキュメンタリー映画で、ネットフリックスが配信した。

内容は、2013年11月から2014年2月までのマイダン革命(ユーロマイダン抵抗運動)を、抗議者の側から描いたもの。平和的な抗議活動がなぜ暴力的になり、警察の鎮圧を受け、死者を出すまでになってしまったのかを描いていく。

これはドキュメンタリー映画として、非常に優れた作品だと思った。運動に参加したごく普通の市民たちを次々と登場させ、これが市民運動であり、独裁的な権力によって不当に排除され、殺されながら、諦めずに革命をやり遂げるドラマが成立していて、見る側も感情移入しやすい。

ただ、3ヶ月あまりを描いただけのものなので、そこに至るまでのウクライナの状況やロシアとの関係についてはあまり言及されず、この出来事の歴史的な意味や、現在に至るまでにどのような意味を持ったのかはよくわからない。

『ウィンター・オン・ファイヤー』より

『ウクライナ・オン・ファイヤー』とは

『ウクライナ・オン・ファイヤー』(こちらは『UoF』と書く)は2016年アメリカ製作のドキュメンタリーで、オリバー・ストーンがプロデューサーに名を連ねている。

こちらは、ウクライナの歴史をたどり、第二次大戦中にはナチスの影響下でユダヤ人の虐殺を行ったことや、その民族主義勢力がソ連となった大戦後も残存し、ソ連に対してゲリラ戦を行ったことなどを描く。そして、その民族主義勢力は今も残存していて反ロシア武装組織として活動していること、そのリーダーがCIAの支援を受けてきたことなども描かれている。

そのうえで、マイダン革命の活動家の中に民族主義勢力が紛れ込んでいて、彼らが扇動者となって市民を暴力的な行動に駆り立て、そもそもは武装もしていなかった警察が暴力的に鎮圧せざるを得ない状況に追い込んだという論旨で革命運動を描いていく。

その論旨を組み立てる元になっているのが、オリヴァー・ストーンによるヤヌコーヴィチ元大統領と、プーチン大統領へのインタビューで、彼らの言い分をそのまま流し、その内容をある程度検証する映像を提供するという展開だ。

そして、マイダン革命が西側の工作の結果のもので、成功させるために無辜の市民を有る種の人身御供として差し出して成功させてものだという結論へと見るものを導こうとする。

『ウクライナ・オン・ファイヤー』より

どちらが真実を語っているのか

この2本の映画を見て、製作年を鑑みると、『UoF』は『WoF』の反論として作られたものだろうと察しが付く。だから題名も似ているのだろう。

確かに『WoF』は扇情的で、一方的な視点のドキュメンタリーだ。政治的な色を持つドキュメンタリーの多くは、なんらかの主張を込めているから一方的な視点によりがちで、そこはすこし冷静に見る必要があって、この作品にもその要素は有る。

私が一番気になったのは、ウクライナ国旗に混ざる赤と黒の旗だ。『UoF』ではこの旗は「民族主義組織」の象徴として扱われていて、実際、第二次大戦中から戦後にかけて活動した「ウクライナ蜂起軍」の掲げた旗だ。そしてこの「ウクライナ蜂起軍」をソ連は「ナチス協力者」として扱っていた。

そして、この赤と黒の旗を受け継ぐ人々が今もいて、それがウクライナにおける「ネオナチ」だとロシア側は主張しているし、『UoF』ではその歴史が詳細に語られている。

『ウクライナ・オン・ファイヤー』より

しかし、『WoF』ではこのことには一切触れていない。「これは市民運動で、自分たちを代表していると称する右派の政治家たちは役たたずだ」とすることで、右派やネオナチを自分たちから切り離しているようだ。調べたところ赤と黒の旗はロシアへの抵抗の象徴として一般市民にも使われるようになったそうだが、本当にそれだけだろうか。

ユーロマイダン抵抗運動の中に右派やネオナチが入り込んでいたことは間違いなさそうだ。ただ、市民運動として参加している人々にとっては無視できる程度の数であり、大部分はむしろそのような思想からは距離をおいていると考えられる。

そう考えると、ユーロマイダン抵抗運動の中心はやはり市民であり、『UoF』に登場するヤヌコーヴィチやプーチンの言い分を完全に信用することはできない。それに、『WoF』には一般市民が多く登場し彼らの言葉で出来事が語られているが、『UoF』に登場するのは権力者だけだ。鎮圧にあたった警察官の言葉でもあればもう少し信憑性が生まれたかもしれないが、それもなく、結果的に国家によって統制された報道くらいの信頼しか寄せられない。

『ウクライナ・オン・ファイヤー』より

『UoF』はこれに対して、市民の考え自体が西側の工作によって作られたものだと主張する。実際そうなのかもしれないが(確実にそうだと証明するには至っていない)、たとえそうだとしてもウクライナの市民にとってはそれがもはや真実なのであり、政治家はその声を尊重するしかない。それが民主主義なのだから。その点では『UoF』は反論に失敗したと言わざるを得ないだろう。

武力衝突は仕掛けたのは誰か

ただ、平和的な運動が暴力的になった理由については、『UoF』にも一理あると思えた。

ユーロマイダン抵抗運動は、ヤヌコーヴィチがEUとの連携協定に署名するよう求める市民の運動として始まった。その運動はもちろん非暴力で、非常に平和的なものだった。しかし、大統領府だかへの更新の途中、警察と暴力的な衝突が起きてしまう。

この決定的な瞬間、『UoF』では、扇動者が一方的に非武装の警察に攻撃を仕掛けてきたと描き、『WoF』では、市民運動側に謎のマスクの集団が突然現れ、警察と衝突したことで暴力的な衝突が生じたとされている。主張が異なるのは、この市民運動側で攻撃を始めた勢力を、『WoF』では政府側の潜入者と推測し、『UoF』では抵抗運動内の過激派(ネオナチ)だと主張している点だ。

『ウィンター・オン・ファイヤー』より

この部分では、『UoF』に分がありそうだ。平和的な革命を目指す市民運動の中に、暴力的な過激派が潜んでいて、衝突の場面で彼らが表に出てくる。彼らは武力によって政権を打ち倒すことを目指しているわけだから、抵抗運動を利用するのはかなりありえる戦術だろう。彼らの行動が西側諸国の工作だというのは眉唾だが、ウクライナ政府が武力衝突を起こそうとしたわけではないことは推測できる。

ただ、その後、集会でのヘルメット着用を規制するなど独裁的な法律を定め、最終的には医師や聖職者までも狙撃するような鎮圧方法を取るようになった政府を擁護することはできない。

『ウィンター・オン・ファイヤー』より

解決方法はあるのか

この市民の中にテロリストが紛れ込んでいることですべての市民が鎮圧のターゲットになってしまうという構図は今回の「戦争」にも見られるものだ。ロシアの侵攻理由は、ネオナチからロシア系住民を守るためというもので、まあ言いがかりのようなものだが、ウクライナに武力でロシアに抵抗する勢力がいることは間違いがない。

そしてこれは現代の多くの「戦争」に見られる構図でもある。よく言われるがアメリカとイラクの戦争でも、アメリカはイラクのテロリストを排除することが目的だった。だが、多くの市民が巻き込まれて犠牲になった。

アフガニスタンでもシリアでもパレスチナでも同じようなことが行われている。

そう考えると、今回の「戦争」を根本的に解決するには、まずウクライナ国内にいる武装勢力を無力化し、それからロシア系住民が多い地域の帰属問題を解決する必要があるのではないか。領土問題は簡単ではないが、結局はそれが火種になっているのだからそれを解決するしかない。NATOの問題はその火種の上のパワーゲームでしかない。

『ウクライナ・オン・ファイヤー』より

そしてもう一つ考えなければならないのはプーチンと今のロシアの体制についてだ。ただプーチンを排除すればそれがロシア国民と世界のためにいいことなのか、それを考えるにはちょっとまだ材料が足りない。

オリヴァー・ストーンは2015年から2017年にかけて何度もプーチンにインタビューしている。これを見なければ『UoF』が作られた理由と、ロシアの今後についてなにかわかるかもしれない。



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