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飛行機の本#23 とにかく飛行機への情熱(斎藤茂太)

北杜夫の兄で精神科医、エッセイストの斎藤茂太さん(モタさん)の飛行機エッセイ。人生相談などのエッセイが多いが、もっとも書きたかったのは飛行機のことだ思う。この人のヒコーキ愛は尋常じゃない。

北杜夫の「楡家の人々」は、私が高校生の頃に読んだ長編小説だが、この中にモタさんのエピソードが入っている。熱烈な飛行機大好き人間で、軍の飛行場をうろついて最新鋭機を見ようとしていて憲兵の家宅捜索を受け、逮捕されるという顛末だ。

戦後、精神科医になってからも飛行機に関するものはチケットから航空バッグ、コースター、トイレの石鹸、爪楊枝、飛行機の中で出されるワイングラスやコーヒーカップ、果ては酸素マスクやシートベルト、ゲロ袋など何でも収集した。シートそのものも手に入れたと書いてある。前の記事で取り上げた岡部冬彦さんとコレクションで競っていることが書かれている。航空バッグは執念で集めているが岡部冬彦さんにはかなわないと嘆く。岡部さんも、飛行機の中のビールコップ敷き(ドイリー)、ライター、灰皿、マドラーなども集めている大コレクターと恐れている。昔は、飛行機の中でもタバコが吸えたのだ。この本には数ページごとに、タグ?の写真がカット代わりに載っている。章のタイトルの所にはおおば比呂司さんの飛行機が描かれており、まえがきは深田祐介さんという布陣だ。

父である斎藤茂吉(精神科医で歌人)が留学していたドイツへその足跡をたどる紀行文がしっとりした文章で面白かった。また、ときおりユーモラスなおおげさ表現が出てくるが、北杜夫のどくとるマンボウシリーズでの表現に似てしまっている。おそらく意識していないのにいつのまにか似てしまったのだろうと推測する。あとがきは、そんな感じ。

「ヒコーキにさえ乗って入れば私の心は最高の安らぎのなかにあると人は思うかもしれない。だがそうはいかない。実のところを言えば、機上の私は最高の苦しみのなかにあるのだ。ウの目タカの目で目を光らせ、一瞬の油断も許さぬ最高の緊張のなかに私はいるらしい。・・・これはどうやら強迫的なストレスといっていいようだ。だが「適度なストレスがないと人間はダメになる」とストレス学説のセリエ先生が言っているから、私はこれからも遠慮なくストレスを求めるつもりだ。神よ、女房よ、許し給え。」

このような本を読んでいると幸せになる。

ドイツ博物館の航空部門を見学する話が出てくる。フォッカーD7やブレリオ機、ユンカースJU52、メッサーシュミットBf109、Me163、Me262などを見て回る。私も先年、憧れていたドイツ博物館に1日過ごしたことを思い出した。いっしょにいった長女が興奮して説明する私の話を冷静にしかし突っぱねるでなく受け止めてくれた。もう6〜7年近く前だ。

とにかく飛行機への愛情
斎藤茂太
三笠書房  昭和54年



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