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戦争を知る本#9「戦艦大和ノ最期」(吉田満)

ちょっと確かめたいことがあって、久しぶりに読み直してみた。一番最初に読んだのは少年版ノンフィクションシリーズで出されたもので小学校6年生のときである。

読み直してみると、いろいろな場面が最初に読んだ時の強烈な印象とともに思い浮かんでくる。たとえば、血糊と肉片でぬるぬるしたラッタルの様子とか救命艇のへりにつかまろうとしている手を軍刀で切り落とす場面など、子供だった自分は何日も夜眠れなくなった。

白洲次郎との関係も読み直してみて確認できた。吉田満は、この本の元になる原稿を一日足らずで書き上げる。書けとすすめたのは、吉田の父と疎開仲間だった吉川英治。吉田が体験した戦艦大和の話を聞いた吉川は、「書くのは自分自身に対する義務であり、また同胞に対する義務でもある」と言ってすすめたのだ。この原本の書写しを読んだ小林秀雄が青山次郎や梅原龍三郎と共に発刊しようとしていた『創元』という雑誌に載せようとするが、GHQの検閲にひっかかり出版できなかった。そのときGHQとの交渉に白洲次郎がかかわったのだ。これが縁で、小林秀雄は白洲次郎の食客になり、青山次郎と白洲正子のケミストリーも生まれることになったのだ。

さて、内容だが、今読んでも古さを感じない、壮絶であり、心臓をドキドキさせる迫力がある。文語体で書かれていることが、かえって緊張感をあたえる。ノンフィクションというよりも完成度の高い文学作品として評価されている。三島由紀夫も「日本人がうたつた最も偉大な叙事詩」と評している。

美しき許婚のいる学徒出陣の森少尉の嘆き
「俺ハ死ヌカライイ 死ヌ者ハ仕合セダ 俺ハイイ ダガア奴ハドウスルノカ ア奴ハドウシタラ仕合セニナッテクレルノカ
キット俺ヨリモイイ奴ガアラワレテ、ア奴ト結婚シテ、ソシテモット素晴ラシイ仕合セヲ与エテクレルダロウ キットソウニ違イナイ
俺ト結バレタア奴ノ仕合セハモウ終ッタ 俺ハコレカラ死ニニ行ク ダカラソレ以上ノ仕合セヲ掴ンデ貰ウノダ モットイイ奴ト結婚スルンダ ソノ仕合セヲ心カラ受ケル気持チニナッテ欲シインダ
俺ハ心底悲シンデクレル者ヲ残シテ死ヌ 俺ハ果報者ダ ダガ残サレタア奴ハドウナルノダ イイ結婚ヲシテ仕合セニナル 俺ハソレガ、 ソレダケガ望ミダ ア奴ガ本当ニ仕合セニナッテクレタ時 俺ハア奴ノ中ニ生キル、生キルンダ・・・」

三島由紀夫は、この本について「死を前に、戦士たちは生の平等な条件と完全な規範の秩序の中に置かれ、かれらの青春ははからずも「絶対」に直面する。この美しさは否定しえない」と述べている。凄まじい戦闘の場面での死と死と向き合う若者の生への渇望とがページをめくるたびに出てくる。