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ロッキードP38ライトニング(1939)

 1930年代の後半、ヨーロッパでは戦争の予感が日毎に増しているときにアメリカ陸軍ではロクな戦闘機がなかった。P-35とかP-36など、およそドイツ空軍の戦闘機とまともに戦えそうもない。自国主義を強く打ち出し、中立をあくまで保とうとしていたアメリカであったがさすがにこれはマズいということで高速の戦闘機開発に乗り出す。長距離爆撃機のB-17も実用化のめどが立ち、それを護衛する長距離戦闘機も必要にもなっていた。1937年に出された仕様要求が、「最高速度は640km/h、上昇力は高度6500mまで6分以内、20mm機関砲の装備」である。ロッキードが提出した計画がモデル22で、これがXP-38として採用されることになった。初飛行は1939年である。このときベル社もXP-39が採用され、P-39エアラコブラとして制式機になる。

 しかし、もともとP-38は敵戦闘機と戦うことを考えて設計されたわけではない。『双胴の悪魔P-38』(マーチン・ケイディン、矢嶋由哉訳、朝日ソノラマ)にその経緯がかかれている。
 「私たちはP-38を戦闘機として知っている。しかし、実際には、P-38の任務として敵戦闘機を相手に戦うとして作られた飛行機ではなかったのである。明確に、そして簡単に言えば、P-38は爆撃機を迎撃する任務をもつ飛行機として誕生した。すなわち、敵の爆撃機を迎撃し、これを撃墜するため、ある空域で所望の時刻に強大な火力を相手に叩きつけるためのプラットフォームなのだった。だれひとりとしてP-38が戦闘機を相手とする空中戦に使用できると考えたものはいなかったし、P-38に戦闘機と同じような格闘機能を付与しようと考えもしなかったし、必要性も考えなかったのだ。最初から、この飛行機は空中に浮かぶ対空火器ということを意図したのであった。」

 つまり、最初は敵爆撃機を迎撃するために設計計画されたのだ。しかし、任務は逆転し、味方爆撃機を護衛するために使われたのである。


P38平面図

 P-38の最大の特徴は双胴、双発エンジンの機体だ。長距離飛行や高速度飛行をねらって双発戦闘機がたくさん作られた時代であるが、双胴体というのは大変珍しい。ヒューズの開発したレーサー(H-1)があるくらいだ。双発戦闘機はたいてい複数の搭乗員がいて、後部銃座が設けられている。しかし、このP-38は、後部銃座などを設けず、高速を生かした単座戦闘機、つまり一人で操縦することに徹した。極限まで胴体もスリム化し、アメリカ機にはあまり見られない美しいデザインとなった。

 エンジンはターボスーパーチャージャー(排気タービン過給機)付きのアリソンV-1710で1425馬力を出した。これが2つ付くのだから早くならないわけがない。1939年の試験機XP-38は、最大速度676kmを出し、途中給油を2回行いながら7時間2分でアメリカ大陸横断飛行の新記録を打ち立てる。すぐにアメリカ陸軍が量産型の大量発注をかけた。イギリスにも輸出型が渡されたが、軍事機密としてターボが外されていた。このターボ抜きP-38は、上昇力も高高度性能も一気に悪化し全機キャンセルになる。

 前線デビューは1942年の対日本戦である。デビューした頃は、せっかくのP-38の特徴である高高度性能や高速を生かした戦闘をせず、零戦との低中高度で格闘戦を行なったためバタバタ撃墜された。日本軍では「ペロハチ」とか「メザシ」と呼んで侮っていた。しかし、その後は高速性を生かした一撃離脱戦法に切り替えると形成が逆転する。あっという間に攻撃され、あっという間に去っていくので、手に負えなくなる。P-38によって、太平洋戦線ではリチャード・ボング少佐(40機撃墜)やトーマス・マクガイア少佐(38機撃墜)などのエースを出している。
 また、航続距離が長いため陸軍機でありながら広い海域で戦う太平洋戦線で活躍することができた。山本五十六司令長官の撃墜のためのミッションも海軍機ではなく陸軍機のP-38が使われたのは、遠く離れたガダルカナルの基地から、700kmもの長距離を飛んで攻撃する作戦に使える飛行機が、P-38しかなかったということもある。第二次世界大戦の中でも重要なできごとだったので、山本五十六司令長官の撃墜に関する書籍は山ほどある。戦後、撃墜したP-38のパイロットについて疑念が生じ大きな騒動になった。そのためアメリカでも関連書籍が出されている。

 イギリス空軍から見放されたP-38であるが、アメリカも参戦することによってドイツへの侵攻作戦でB-17の護衛戦闘機として使われ出す。さすがにB-17を最後までエスコートする航続能力はなく、すぐにP-51マスタングにバトンタッチするのだが、武器搭載能力にも余裕があるため対地攻撃用の戦闘爆撃機として使われるようになる。最終的には1万機以上生産された。


Pー38H
全長 11.53m
全幅 15.85m
全備重量 9,600kg
発動機 ターボスーパーチャージャー付きアリソンV-1710 (1425hp)×2
最高速度 665km/h
武装 20mm機関砲×1  12.7mm機銃×4

> 軍用機図譜






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