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「消せない罪」 (リーグ第35節・鹿島アントラーズ戦:1-3)

 前半を終えた時点でのビハインドは3ゴール。

ロッカールームを出て、後半のピッチに向かっていく川崎フロンターレの選手たち。みな険しい表情だ。

そのうちの1人である河原創に鬼木達監督が歩み寄り、肩に手をかけて何やら指示をしている姿が目に止まった。そして最後は、河原の背中をトンと叩いてから送り出している。

「自信を持ってボールを受けて、散らしていけ」

 言われた言葉はそんな内容だったというが、言葉以上にそれを伝える鬼木監督の表情に鬼気迫る雰囲気が印象的だった。

ハーフタイムには選手たちに向かって「ビビってやるな!」とゲキを飛ばし、そして「信じているのは自分だけか?」と問うたことを明かした指揮官は、本気で試合をひっくり返そうとしていたのだ。

 その後半、河原創のプレーぶりは前半とは明らかに変わっていた。
狭い中央でもボールを引き出し、そこで相手を引きつけてサイドに展開する配給を精力的にやり続けている。

 試合後の河原は、口調が朴訥としているせいもあってか、一見すると淡々とコメントをしているように感じる。だがその言葉によく耳を傾けて中身を精査すると、強い感情が込められていることも珍しくない。

 この試合後のミックスゾーン。
後半は立て直しができた背景を本人に尋ねると、前半での自分の不甲斐なさを噛み締めるようにしながら、その胸の内にあったであろう感情を口にし始めた。

「オニさんに言われたのもそうですが、前半は自分がクソみたいなプレーしているなと思ったので、そこは何とか変えないといけないと思った。(ボールを受ける)怖さもある中でも受けて、できるだけ前を向いてプレーしようと思っていた。そこはチャレンジして、こういうプレーを増やさないといけないと感じていたので」

 例えば後半に訪れた52分の山田新の決定機。
抜け出したマルシーニョがニアゾーンに走った三浦颯太にパスを渡し、そこからGK早川友基を抜く折り返しを山田新に通した場面だ。無人のゴールにスライディングで流し込むだけで、誰もが入ったと思ったが、飛び込んだ山田の合わせたボールは逆側まで転がり、あろうことかそのままGKの手元に収まってしまった。

 誰もが頭を抱えたシーンだが、この一連の決定機で、絶妙な回転をかけてマルシーニョに届けたのは河原だった。中央で囲まれながらもパス交換で受け直しを行い、そこから素早く左サイドに展開している。決して簡単ではない類の起点のパスだった。

 ただ1点が遠く、終了間際に山本悠樹のFKで一矢報いるのが精一杯。追いつくことは出来なかった。

 いくつかのポイントはあったが、悔やまれるのは、やはり3失点を喫した前半に集約されるだろう。

 この前半に何が起こっていたのか。そこの原因は聞かなくてはならない。

こちらの問いに誠実に向き合いながら話してくれる河原創は、胸の内を探りながら、精一杯の言葉を絞り始めた。


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