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「SEASONS」 (ACLE MD2・光州FC戦:0-1)

うまくいってない時間帯に、チームとしてどうすべきなのか。

ピッチでは、そんな問いを突きつけられている時間が流れているように見えた。

前半、マンツーマンで襲いかかってきた光州FCのハイプレスに、川崎フロンターレの選手たちは困惑していた。試合後のミックスゾーンで証言する。

「マンツーマンはわかっていたが、思った以上にマンツーマンだった。僕が逆サイドに走ってもついてくるようなマンツーマンだった。そこを攻略するのに難しくて、時間がかかってしまった」(瀬川祐輔)

「思ったよりマンツーマン。もうちょっとぼかしてくるかなと思ったけど、がっつりマンツーマンでした」(三浦颯太)

 チームが迷路に迷い込んだ時は、ピッチにいる誰かが方向性を示さないといけない。そして、それは攻守のリンクマンがやるべきだろう。具体的なポジションで言うと、ボランチだ。ボランチとはポルトガル語で「舵取り、ハンドルを意味する」と言うではないか。

 だから、彼らがなんとか解決策を見出すべきと思いながらピッチを凝視していると、15分過ぎぐらいに、ダブルボランチの山本悠樹と橘田健人がピッチで話し合うシーンがあった。プレーが途切れた瞬間、おそらくボールの動かし方や立ち位置について変化させるのだろうなと察するものだった。

 そこから始まったビルドアップでは、山本悠樹が最終ラインに落ちて3バックのような立ち位置を取り始めていく。ゴールキックだったので、ハイプレスにくる相手はエリア付近に構えていたが、山本悠樹を牽制するために前に出たので、中盤は手薄になっていた。

 それを見たGKチョン・ソンリョンがミドルレンジのパスを選択。左サイドの三浦颯太が保持し、橘田健人と展開していき、遠野大弥がペナルティエリアまで仕掛けてクロス。この攻めはCKになったが、流れの中からようやくチャンスの匂いが漂った場面だった。

 この時間帯から、山本悠樹は中央だけではなく、サイドバックやセンターバックの間などにポジションを取る動きを意図的にやってみるという駆け引きをし始めていた。その位置取りによって、相手のマンツーマンの守備陣形がどう出るのかを観察しているようにも見えた。

相手がマンツーマンでついてくるならば、届かない位置にボランチが降りて、どこまで降りてくるのか試しながら、マンツーマンを困らせてやろうというわけだ。かつての中村憲剛や遠藤保仁がよくやっていたポジショニングの駆け引きでもある。

 要するに、チームがうまくいかない時間帯に、山本悠樹は道標を示そうとしていたのだ。彼なりに、チームをなんとかしようとしていたのがわかる振る舞いだった。

 悔やまれるのは、この変化をつけ始めた直後に失点につながるミスがチームに起きてしまったことだ。

 18分、山本悠樹が落ちて、高井幸大、セサル・アイダルの3枚でビルドアップし始めた局面で、味方に出した高井のパスミスが相手に渡ってしまったのである。高井幸大とセサル・アイダルの間のエリアにパスを通され、たまらず後ろから倒してしまった。

 次の瞬間、無情にも響くホイッスルと、ペナルティスポットを示す主審のシグナル。このPKをアルバニア代表ヤシル・アサニに決められてしまい、痛恨の失点を献上した。

 うまくいかない時間帯が続き、なんとかしようと打開策を見出そうと動いた直後に、自分たちのミスから失点。結果的には、それが決勝弾となったわけで、そういう意味でも、アンラッキーなゲームだった。

 試合後のミックスゾーン。変化をつけようとしていた前半のあのポジショニングの意図を山本悠樹に聞いてみた。

「落ちて3枚にしたりして解決策を探そうとしていましたよね」と尋ねたところ、形の変化を加えること以上に、示したいものがあったと口にする。

「サイドバックを入れて3枚で作ったり、外に流れたりとか、(自分が)後ろに落ちて3枚とか。色々やりながらでも、『こういう相手に対してもやるんだよ』というのは、真ん中の選手が示していかないといけない」

 そういうことなのだ。前半の山本悠樹は、ポジショニングを変えることで味方にいくつかのメッセージを発していたのだ。

それは「それでも、やるんだよ」という姿勢である。滑らかな口調で試合を振り返る彼は、こう言葉を続けた。

「ミスは個人にもありましたし、チームとしてもありましたけど、それでもやるんだよという姿勢を見せないと。そういう相手に対してもやらないとなという意味も込めて、色々試行錯誤してました」

 実はこの4日前。
アルビレックス新潟戦後の同じ等々力のミックスゾーンで、山本悠樹は涙を浮かべていた。今季これまで試合にあまり出れず、それまでの苦しい思いを聞かれると、込み上げるものを堪えきれなかったようだった。

 だが、この日は違う。
劣勢が続く状況下において、「それでも、やるんだよ」という姿勢をチームの先頭に立って示そうとし続けた。

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