「長く短い祭」 (リーグ第28節・湘南ベルマーレ戦:2-0)
この試合前のオンライン囲み取材でのこと。
自身の古巣戦となる湘南ベルマーレ戦に向けて、瀬川祐輔がポイントとして語っていた言葉が印象的だった。
「勢いづかせないことが重要かなと思います。湘南は前から来るだろうし、何回か引っかかってしまうとどんどん勢いがついてくるので。相手に合わせるところと合わせちゃいけないところと、いろんな観点から試合を見ながら90分戦えるといいかなと思います」
瀬川が口にする「勢い」とは、ハイプレスで前から奪いに来る圧力のことだ。その「勢い」を加速させないこと。言い換えると、前から奪いに来る相手の足をいかに止めるのか。この湘南戦におけるキーポイントは、そこだったとも言える。
プレッシングをする相手の「足の止め方」はいくつかある。
例えば、足元の技術やグループでのコンビネーションで、その圧力を剥がしていくのも一つ。
「ボールを奪えない」と思わせるビルドアップで、相手の足を止めてしまう。従来の川崎フロンターレはこのスタンスである。ただ最近はこの作業で苦戦を強いられている。昨年の等々力では、後方からのビルドアップで湘南のプレッシングを浴び、ショートカウンターで失点を重ねた。湘南にシーズンダブルを喫したのも記憶に新しいところだ。
---9月24日。
今季公式戦4度目の対戦となった国立競技場での一戦。過去3戦とも違うゲームプランで、川崎は湘南の足を止める狙いを打ち出していった。
それは、前線のロングボール。
後ろで繋ぐのではなく、ボールを飛ばして前に届けてしまう。湘南が前傾姿勢で奪いに来るならば、その瞬間に相手の陣形をひっくり返す。その作業をボディブローのように打ち続けることで、プレッシングの足を少しずつ鈍らせていく。それがこの日の国立のピッチで鬼木監督が狙っていた「足の止め方」だった。
試合後の監督会見で、こんな言及をしている。
「前からのプレス、矢印のところですね。相手の勢いをつないで外すのもそうですが、前線で起点を作ることで、相手の本来のリズムを作りたいところをひっくり返していくような、そういうところを意識して今日は入りました」(鬼木監督)
湘南の「足を止める」だけではない。
この日のロングボールには、相手の前線と中盤の足を止めた上で、最終ラインに脅威を与えられる武器もセットに、指揮官は配置していた。
具体的には、レアンドロ・ダミアンと山田新の2トップである。
前線のターゲットマンとして頑張れるストライカー2人は、貪欲にボールを追い、屈強な体をぶつけながらポストワークで奮闘した。長いボールの土俵での勝負ならば、湘南守備陣に勝てる算段があったのだろう。
キックオフ直後、最終ラインまで来たパスを、車屋紳太郎はレアンドロ・ダミアンに目掛けて大きく蹴り出している。こうして味方も積極的にロングボールを供給していった。
「むこうがハイプレッシャーのゲームが得意なら、その足を止めてやろうじゃないか。うちはビルドアップだけじゃない。ロングボールゲームも出来るんだ。なぜなら…神奈川ゴール前の覇者・レアンドロ・ダミアンがいるからだ」
前線の2トップを生かすロングボールの狙いとゲームプランの輪郭が序盤に明らかになっていくにつれ、記者席にいた自分の心の中の木暮公延がそう呟いていたほどである。
実際、この試合の前半、レアンドロ・ダミアンのポストワークは圧巻だった。
10分、山根視来がクリア気味に蹴り出したボールを、中盤にいたレアンドロ・ダミアンが空中で競り合いながら、相手を弾き飛ばすようなボールキープ。競り合った奥野耕平だけではなく、フォローに来た中盤の平岡大陽によるプレスバックももろともしない力強さを示した。そこから瀬古樹、脇坂泰斗と繋ぐ。スルーパスを山田新が鮮やかに流し込んでゴールネットを揺らしている。川崎フロンターレの先制弾となった。
その後も、神奈川ゴール前の覇者・ダミアンは止まらない。
※9月26日に後日取材による大南拓磨に関するコラムを追記をしました。試合終盤は登里享平、山根視来と構成した3バックで守り切るタフなミッションをこなしたものの、「僕自身は大変じゃなかったです」とサラリと話していました。そんな彼が口にした2つの改善点をぜひ読んでみてください。
■「そこのライン設定は一つ課題かなと思います」(大南拓磨)。4試合連続完封勝利へ。大南拓磨が語った改善すべき2つのポイントとは?
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