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「Believe In Tomorrow」 (ルヴァンカップ準々決勝1stレグ・セレッソ大阪戦:1-1)

 853日ぶり、とのことだった。

何のことかというとフロンターレのサポーターが声を出して応援するのが、だ。

 この試合は「Jリーグ公式試合における声出し応援の段階的導入運営検証試合」となっていた。フロンターレのサポーターによる「声の応援」は2020年2月のJリーグ開幕戦以来なので、ちょうど2年半になる。

 一発目のチャントは何なんだろうか。
僕の興味はそこだった。アップが始まる時間帯に合わせてクーラーの効いた記者控え室を出て、少し早足でスタンドに向かう。

 フィールドプレイヤーに先駆けてGK練習が始まるので、まずは2人の登場に合わせてコールが起きていた。最初のコールはスタメンGKのチョン・ソンリョン。そしてセカンドGKの丹野研太と続き、最後に「フロンターレ!」のコールが4度響いた。

 少ししてからホーム側スタンドが、ワッと湧く。
セレッソ大阪のGK練習が始まるからだ。キム・ジンヒョンと清水圭介が出てきて大歓声が上がり、割れんばかりのジンヒョンコールが響いている。セレッソサポーターにとっても、声出し応援は久しぶりなのだ。きっと彼らもまた声でサポートできることを噛み締めていたのだと思う。

 いよいよフィールドプレイヤーの選手たちがアップに出てきた。キャプテンの谷口彰悟を先頭に、アウェイのゴール裏の前で皆で一礼してから、アップに散らばっていく。いつもの儀式だが、ここでサポーターからのチャントが響き渡った。

「俺達と共に 戦え川崎 青と黒の 勇者たち

俺達のハート 今日も熱くさせろ かわさき ゴールを狙え 」

 一発目は「Believe In Tomorrow」だった。
歌い出しの「俺達と共に」のフレーズが、「俺達の誇り」と歌っていたように僕には聞こえていた。

この4日前の浦和レッズ戦で見せた選手達の戦いぶりに対するアンサーとして、サポーターが最初に伝えたかったフレーズが「俺達の誇り」だとしても何も違和感がないと思ったからかもしれない。ただ繰り返すが、これは単に僕の聞き間違えである。

「Believe In Tomorrow」を4回ほどリピートした後、最後は「川崎フロンターレ!」コールで締めて、そこからは選手個人のチャントだ。

 ソンリョンのチャントから始まり、谷口彰悟とフィールドプレイヤーのチャントが続いていき、最後にベンチメンバーのレアンドロ・ダミアンまで総勢18人が歌い上げられた。

この2年半の間に入ってきた選手のチャントになると、どうしてもサポーターの声量も小さくなる。それは仕方がない。サポーターだって初めて歌う選手チャントなのだ。チャントというのはスタジアムで聞いて耳で覚えるものだと僕は思っているし、耳に馴染みのないチャントはどうしても自信を持って歌えないものだ。

2年半ぶりにサポーターの声が戻ってきた試合は1-1で終わった。

 試合後のミックスゾーン。
悔しさを隠しきれないキャプテンの谷口彰悟を呼び止めて、ゲームのポイントを振り返ってもらう。失点場面でクリアし切れなかった自分自身に対して、「ああいうのは絶対になくしていきたい」と、いつになく強い矢印を向けていた。

 ただ疲労困憊だった彼を責める気にはならない。
振り返ってみると、先週の水曜日には日本代表選手として韓国代表戦で90分フル出場。キャプテンとして優勝カップを掲げて川崎に戻ってくると、チームはまさかの緊急事態だ。中二日での浦和レッズ戦を90分出続けて、この中三日での試合もフルタイムでピッチに立ち続けた。真夏の猛暑で連戦に出続ける過酷さは、我々には想像ができないし、限界を超えていてもおかしくない。頭が下がる思いだ。

 そんな彼に、久しぶりの声出し応援で感じたものを訊いてみた。返ってきたのはちょっと意外な答えだった。

■「サポーターの声援もすごく聞こえました。そういうのが力になったと思います」(チョン・ソンリョン)、「元気が出ました。僕だけではないと思いますが、よりやってやろうという気持ちが芽生えた」(脇坂泰斗)。谷口彰悟からの意外な答え。そして、等々力に応援の声が戻ってくる日まで。

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