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「何があなたをそうさせた」(リーグ第4節・鹿島アントラーズ戦:1-2)

割引あり

 カシマサッカースタジアムでの鹿島アントラーズ戦は1-2で敗戦。

 川崎フロンターレが鹿島にリーグ戦で負けたのは、2015年8月以来。実に8年6か月ぶりとなります。2017年に始まった鬼木体制では初めての負けとなりました。

 不確定要素が多いサッカーという競技で、同じカテゴリーの強豪にこれだけの長期間に渡って負けなかったこと自体すごいのですが、それだけ長く負けなかったことには然るべきべき理由がありました。そして、今回負けたことにも同じように理由が存在しています。

鬼木監督は、試合後の監督会見で「マイボールになった時の判断の遅れ」を挙げていました。スタジアムも含めた相手の圧力に屈し、技術と判断の両方が原因でパスワークが乱れてしまったというわけです。

「マイボールになったときに判断の遅れもあり、ひとつ外すことができればオープンにできる場面が多々ありましたが、その一つ目で相手の圧を感じて、ずれてしまったり蹴ってしまったりしていました。また自分たちのフリーキックも前半からかなり遠くからセットしていたことも含めて、もっとボールを動かさなければいけないと思います。このスタジアムの圧に押されてしまったのかなと感じています」

 端的に言えば、これまで川崎が鹿島に勝ち続けていた理由と、今回負けた理由が、そこに集約されていると思っています。

 鹿島の守備は伝統的に強度が高く、組織的にもしっかりしています。球際にも強く、単純な崩しでは簡単には綻びを見つけることができません。その守備に対して川崎の攻撃は、アイディアを出した崩しや意外性を含めた「技術」で優位性を作ることで、鹿島守備陣を攻略していくというのが大枠の構図でした。鹿島が高い強度でボールを取りに来るからこそ、その力を利用して相手を外す。そこで隙を突きやすい相性の良さがあったんですね。フロンターレは「技術」で他のチームと差をつけてきたわけで、これは他のクラブにはない強みでした。

 そして守備の局面では、球際でとことんバトルする。古巣戦で気合いの入っている鬼木監督の檄もあり、選手たちも鹿島戦を特別な一戦として臨み、いつも以上にファイトするのが鹿島戦でした。

技術で上回り、球際で負けないこと。これに加えて、近年は「鹿島は川崎にずっと勝てていない」という相性の悪さを、相手が試合前から意識してくれるようになっていました。

いつしか、それがまるで呪縛のようになっており、「負けてもおかしくないような試合なのに、最後には川崎が勝っている」という結果も呼び込み始めていました。具体的には、2021年や23年のカシマスタジアムでの試合がそうですね。終了間際に宮城天のあり得ないゴラッソが炸裂したり、10人になっても逆転勝ちをしてしまうという、説明できないような「不思議な勝ち」が起きていました。

 しかし、そうした不思議な勝ちは毎回は続きません。
この試合の敗因の一つとして鬼木監督が指摘していた「マイボールになった時の判断の遅れ」ですが、その通りだと思います。判断が遅れるのは、技術と目が揃っていないからです。この試合ではゴール前でのボールを動かす技術、崩しに関する緻密さはなく、ペナルティエリア付近での決定機らしい決定機はほとんどありませんでした。パスワークは乱れ、相手の守備につかまってカウンターを受ける場面が散見されました。

 本来ならば、それでも「ボールを受けに顔を出す」、「マークされていても相手を外して受ける」、あるいはポジションを入れ替えながら「フリーになれる場所でボールを持つ」などの工夫をしながら、後ろからボールをつないで、優位性や違いを生み出していかねばなりません。しかし、現在のチームはその作業がなかなか出せません。鹿島守備陣を翻弄するような技術を発揮したシーンは、ビルドアップから崩した先制点の場面など、ごく僅かです。技術の違いを作れないのであれば、他のクラブ同様、鹿島守備陣の思う壺でしかありません。

 後半途中から出場した小林悠は、シュート0のままタイムアップを告げる笛を聞きました。シュートどころか、前線でボールに触る機会すら少なかった印象です。これではいくら小林でもどうにもなりません。困惑気味だった彼が言及していたのも、技術の指摘でした。

「鹿島のアウェーで応援がある中で、バチバチ来るという中で、敵がいても(パスを)出していかないといけないというのがフロンターレのサッカーだと思うし、相手に付かれていると出せないとか、そこのみんなの目を変えていかないと。(マークに)付かれているから出せないとか、そうなってくるとなかなか前に進んでいけないと思う。(ボールを)受ける方もそうだし、もう一回、当てて入っていくところを見つめ直してやっていかなければいけないかなと思います」

 小林が「目を変えていかないと」と話したのは、目が揃っていないからです。言ってしまえば、「止めて、蹴る、外す」という技術であったり、背中にマークをつかれているからこそ足元にボールをつけるという「フリーの定義」といった、このクラブが大事にしてきたマイボールの原則の話になるのですが、そこがどうにも揃っていません。

 そしてパスワークが乱れているのは、パスの出し手だけの問題ではなく、ボールの受け手であるレシーバーとの問題でもあります。

 例えばアタッキングサードでボールを受けるときや引き出す時に、ボールを受けるレシーバーの「相手を外す動き」が目に見えて少なくなっているのも事実でしょう。外していない状態でボールを受けてしまえば、その後のフィニッシュワークも余裕がなくなりますし、局面の守備強度の高い鹿島には絶好の奪いどころでしかありません。

 試合後、パスの受け手にも出し手にもなる名手・脇坂泰斗にそこの問題を尋ねてみました。パスワークが乱れた心当たりとして、彼は「目が合わない」と話してます。

「そこは準備だと思うんです。(ボールを)受ける前に、自分が受けようと思ったら目が合わない。そういうところは今日の試合がありました。とは言っても、出し手からすると、出せないポジショニングに(自分が)いたこともあると思う。そこは一つ一つのコミュニケーション、積み重ねがゲームに出ると思うし、トレーニングでやっていく必要があると思います」

 では、どうしてそうなってしまったのか。そして、どうやっていくべきなのか。そんな話をレビューの最初はしていきたいと思います。

※3月22日に追記しました。3連休明けとなった21日、45分程度のチームミーティングと、そこから約2時間のトレーニングを実施。通常より長く、いつもより細かい内容に言及されたというミーティングと、チームの方向性を明確にした練習メニューとなりました。それを通じて感じたこと、そして主将の脇坂泰斗が語った思いについて、約3000文字で追記しております。

→■(※追記:3月22日)「監督と2人で話してそういった意図が伝わったので、それをチーム全員で作り上げていければいいんじゃないかなと思います」(脇坂泰斗)。座り込んだままでいるのか。それとも立ち上がって、再び歩き出すのか。オフ明けの麻生でチームが示した方向性と、主将・脇坂泰斗が語ったこと。

ラインナップはこちらです。


では、スタート!

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