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「惑う糸」 (リーグ第25節・北海道コンサドーレ札幌戦:2-2)

 0-2で迎えたハーフタイム。

周囲にいた新聞系の記者たちは、「もし川崎フロンターレがリーグ戦4連敗を喫したら、いつ以来なのか」を調べ始めていた。

 試合終了と同時に提出する速報用記事のためなのだろう。

ナイトゲームは締切がかなりタイトなので、「予定稿」と呼ばれる記事を試合中に書き上げておく必要があるのだ。このまま川崎が負けた場合、「いつ以来のリーグ4連敗になるのか」というのは記事のトピックになるので、事前にデータを調べておくというわけである。

 前節のリーグ戦3連敗は、2015年8月以来となる8年ぶりだった。これがもし4連敗となれば、2011年シーズン以来になる。夏場に8連敗を喫した、「あの」2011年シーズン以来だ。

 記者席での僕は「後半があるから、まだわからないですよ」と強がって話していた。

 とはいえ、頭を抱えたくなるような内容の前半だったのも認めざるえないところだ。なにせ前半はシュート0である。

札幌が採用するマンツーマンディフェンスの前に、ビルドアップはなす術なく寸断され、ボールが前線にまで届かない。札幌キラーとして名高い小林悠は前線で孤立。後方からのロングボールに競り勝てず、足元に入るボールはことごとくカットされ、ボールにすらあまり触れていなかった。

 そして失点は2。
前線からのプレッシングがハマらず、高い位置からのボールの取りどころが作れない。自陣で押し込まれた展開で弾き続けるのが精一杯で、公式記録を見ると、前半だけで10本ものシュートを札幌に浴びている。いつ3失点目が生まれていてもおかしくない状態でなんとか耐えた、というのが正直な前半だった。

 攻守両面でここまでうまくいかない選手たちの姿を見るのは、正直、心苦しいものがあった。巻き返しをしなくてはいけないが、「では何をどう変えればいいのか」も、ちょっと思い浮かばない。周囲の記者陣が、リーグ4連敗の予定稿を書き進めておくのも当然の内容だった。

 頭の中でいくつかの「なぜ?」が浮かんだ前半で、もっとも疑問だったのは前線からのプレッシングがほとんど機能していなかったことだ。

 移籍後初出場になったGK高木駿の起用はややサプライズだったものの、コンサドーレ札幌が繰り出すビルドアップの形は、想定の範囲内だったはずだ。にもかかわらず、あそこまで守備がハマらないのはなぜだったのか。

 自分たちがトレーニングで準備していた形を相手に上回られたのか。それとも、わかっていても自分たちが対応できなかった問題なのか。

 試合後のミックスゾーン。
複雑な表情を浮かべていた小林悠にこの疑問をぶつけてみた。この試合では80分間ピッチに立ったが自身のシュートは0だった。

 彼は「うーん、そうですね・・・・」とじっと考えた後、「相手が上回ってきたというよりも、自分たちの力がまだまだ足りないのかなと思います」と自分たちの問題だったと口にした。

 夏場のこの暑さ。
そこでプレッシングのスイッチ役としてアクションを続ける作業は、彼自身もさぞかしハードワークだったはずである。

「後ろが余っている状態というか、前が追いかける距離が長かった。追っかけながら、『はまってないな』と思っていた。もうちょっと後ろから押し出してもらわないと」と、後ろにいる選手たちがうまく連動してこない難しさを抱えながら、ボールを追いかけ回していたと話す。

札幌のビルドアップの起点になるGK高木駿とスリーバックの中央にいる岡村大八に対して、小林悠は2度追い、3度追いで懸命に圧力をかけようとするが、ほとんどが空砲に終わっている。

「ボランチ(のパスコース)を切りながらセンターバックにプレスを掛けるんですが、GKも使われながらとなると、ちょっと一人で追っかけられる距離ではなかったです。(相手にサイドを)変えられた後に、後から出てきてくれるかなという感じだったんですが、後ろもシャドーの選手が気になっていたのか、なかなか前に出られなくて・・・・そこは全体をもう一回見てみないとわからないですけど、ちょっと難しかったですね」

負けたわけではない。ただ打開策を見出せなかった前半の内容に、唇を噛んでいた。

同じ質問を瀬川祐輔にも聞いてみようと思った。前半の展開では良さがほとんど出せず、ハーフタイムに交代となっている。左ウイングで先発した彼も、この試合の守備面を問題視していた。

「たぶん守備だと思います。攻撃に目を向けたいですけど、守備での距離感が悪かったし、前の選手を掴みに行く距離感が悪すぎました」

言葉を続ける。

「悠さんの二度追いする距離が長いし、守るスペースがありすぎたと思います。なかなか前に、狭いスペースに相手を追いやっていくことができなかった。今日は守備で後手を踏んでいる感じがありました」

 瀬川祐輔の役割からすると、基本は横に広がる札幌3バックの右ストッパーである田中駿汰の対応である。ただプレッシングで高木駿と岡村大八の2人を相手に奮闘していた小林悠に、自分がサイドから中央まで出て、加勢すべきなのか。前半途中からはそこの判断に迷っていたという。

「岡村くんのところまで僕が(プレスに)行くということは、僕の後ろにいるアサヒ(佐々木旭)でルーカス、田中(駿太)選手に数的不利になる。僕が岡村くんのところに行っていいのか。ずっと悠さんに2度追いをさせていたら、プレッシャーもかけにくくなった」

 サイドでの数的不利を承知で、中央の小林悠のサポートに行くべきなのか。試合中の瀬川祐輔が欲しかったものは、自分の判断を助けてくれる材料だったと言う。

※8月28日に後日取材により、佐々木旭に関する追記をしました。あの同点弾はいかに生まれたのか。本人の証言により解説してもらってます。

→「あそこに流れてくるなっていうのは思っていました。思い通りのボールが来たんでしっかり詰められて良かったです」(佐々木旭)。裏付けのある予測によって「そこにいたアサヒ」の同点弾。沈黙の前半と逆襲の後半にあったチームの違いとは?


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