「同点に追いつかれた瞬間、確かにメッシは笑っていた。」 カタールW杯決勝:アルゼンチン代表 3-3(PK4-2) フランス代表
カタールW杯が幕を閉じました。
決勝戦は前回覇者のフランス代表対アルゼンチン代表。
勝者はアルゼンチンでした。ワールドカップのトロフィーを掲げて、子供のように喜ぶメッシの姿がそこにはあって、日本は夜中というか朝方に近かったけど、やっぱりサッカーは素敵だなと思ったよ。
試合はアルゼンチンのリズムで進み、前半だけで2-0とリードする展開に。フランスのデシャン監督は、あまりにもうまくいかない前半の間に、選手の2枚替えを行う大胆な采配を見せています。
前半のうちに交代に動くことは、セオリーで言えば、褒められた采配ではありません。前半に動くことで、ハーフタイムで相手にその対策を練られる可能性も高まるからです。なので老獪な指揮官ほど前半終了まで動くのを我慢して、ハーフタイムにリセットして立て直すものです。例えばドイツ代表戦の日本代表・森保監督は、ハーフタイムまで我慢して後半から一気に巻き返しました。
でも、フランスのデシャン監督は前半の間に動きました。
セオリーには反している采配です。しかし「W杯決勝の大舞台で0-2をひっくり返す采配のマニュアル」なんてこの世には存在しません。フランスのデシャン監督といえば、前回のW杯でフランスを優勝に導いた名将です。
将棋の世界には「名人に定跡(じょうせき)なし」という格言がありますが、トップ・オブ・トップであれば、セオリーに縛らない一手を繰り出し、その一手を正解にしてしまうぐらいの凄みがあるわけです。デシャン監督のこの采配にはそれに近いものを感じましたね。
もっとも、この采配が好転したとは言い難いところはありました。
アルゼンチンの対人守備と集中力、そしてカウンター意識も素晴らしく、まるで隙を見せません。後半途中までのフランスは、シュート1本も打てないほどでした。後半途中からの僕は、「どう見てもアルゼンチンのゲームなので、これだけうまくいかないフランスの姿を見れるのも貴重な機会だな」と割り切って観戦していたぐらいです。
後半30分過ぎになると、もう勝利を確信したのか、フランスのプレスをいなしながら最終ラインでボールを回すアルゼンチンの時間帯に、スタンドから「オーレ!」の合唱が起きていたほどでした。
しかしその後、フランスに与えられたPKをエムバペが決めて1点差にすると、その直後にも再びエムバペが鮮やかなダイレクトボレーをゴールネットに突き刺す。
信じられないことに、わずか数分でフランスが追いついてしまったのです。
99パーセント確信していたであろうW杯トロフィーが、土壇場ですり抜けていくアルゼンチン。
同点の瞬間、テレビカメラはメッシの表情を映していました。そこでの彼は、なんと微笑んでいました。人はあまりにも理解できない出来事にでくわしたとき、逆に笑えてくるもんです。
延長戦でもメッシとエムバペが得点を取り合い、3-3のPK戦末、チャンピオンに輝いたのは、アルゼンチン代表でした。
喜ぶメッシの姿を見ながら、思い出したのが、2014年のブラジルワールドカップ決勝・ドイツ代表対アルゼンチン代表戦後の光景です。途中交代で入ったゲッツェが決勝点を挙げ、延長戦の末にドイツが勝利して優勝に輝きました。
あの試合後の表彰式が始まるまでの間、ピッチ上には歓喜の輪を作ってはしゃぐドイツの選手達と、その場で腕を組みながら佇んでいるアルゼンチンの選手達の姿がありました。
このとき、じっと悔しさを噛み締めているアルゼンチンの選手達の光景に、テレビ解説をしていた岡田武史さんがこんな風に切り出したんです。
「アルゼンチンの選手がじっとドイツを見てますよね。これ、見なきゃいけないんですよ。そして、スタンドにいるアルゼンチンの子どもたちがじっと見て、いつかは・・・とこの悔しさを次に繋げていくんです。これ、目を逸らしてはいけないんですよ」
じゃあ、そこからどうすれば良いのか。
それを学ぶことができるのも「敗者の特権」だと岡田監督は言います。
「負けたときこそ、学ぶべきものがありますよ。アルゼンチンは、これをどう考えるのか。メッシに頼ってほぼ2大会ですか・・・決勝までは来れたけど、結果は出せなかった。次ももう一回メッシにかけるのか。それとも、方向転換をするのか。アルゼンチンも考えどころじゃないでしょうか」
メッシがいてもアルゼンチンはW杯の頂に届きませんでした。それを受けて、その後のアルゼンチン代表がどう舵を切ったのか。
あれから8年後。アルゼンチンは、極論すると「メッシのためにみんなで頑張るチーム」を作り上げて優勝してしまいました。
この頂の登り方が最善策だったのかはわかりませんし、他の国には真似できない登り方だったけど、結局、正解にしてしまった。
おかげで、ますますサッカーがわからなくなってきたけれど、このわからなさがサッカーの面白いところなのだなと思う。それに、メッシが喜ぶ姿を見ていたら、あんまり難しいことを考えなくても、これで良かったんだろうなという気もする。
こうして幕を閉じたカタールW杯。眠くてたまらなかった一ヶ月だったけど、楽しかったぜ。
-------
日本代表戦のレビューはこちらで書いております。
ご覧いただきありがとうございます。いただいたサポートは、継続的な取材活動や、自己投資の費用に使わせてもらいます。