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「僕たちの決断」(ACL第3節・BGパトゥム・ユナイテッドFC戦:4-2)

 キッカーの脇坂泰斗が、自ら獲得したコーナーキックを蹴る。綺麗な弧を描いたボールは、競り合いに高く舞っていた大南拓磨の頭にピンポイントで届いた。打点の高いヘディングがゴールネットに突き刺す。

 これでスコアは4-1。
決めた大南拓磨は、これが川崎フロンターレ移籍後の公式戦初ゴールだ。この時点で78分。残り15分ほどであることを考えたら、勝利を決定づけるゴールでもあった。残っている作業はゲームをコントロールしながら、のらりくらりと時計の針を進めていくだけだったはずである。

 ところが、その再開となったキックオフ。
相手がゴール前に蹴り込んだロングボールを巡って「事件」が起きる。

 ゴールエリア内でGKチョン・ソンリョンが難なくキャッチした後、ボールに間に合わなかった相手のライアン・スチュワートは減速。ただ、急には止まれなかった。

 すでに胸にボールを収めていたソンリョンは、アフター気味に接触しそうな相手の勢いを察知し、ボールと自分をガードしようと右足を上げた。ライアン・スチュワートは、そのままソンリョンを避けようとせず接触する格好になる。

 二人がコンタクトした次の瞬間、ライアン・スチュワートは胸を押さえてもんどり打って倒れた。

 これを見たイラン人のモウド・ボニャリーハルド主審は、最初はこのコンタクトをノーファールとしている。

しかし副審からの助言があったのだろう。数秒ほど遅れた後に笛が鳴り、ペナルティスポットを指す判定を下したのだ。そして、チョン・ソンリョンに駆け寄り、イエローカードが提示された。

・・・????

 意味がわからなかった。
あまりにびっくりしたのか、主審に対して「えっ?えっ?」と目を丸くする山村和也の姿が映っている。日本で映像を見ていた僕らも、きっと同じ表情だったに違いない。現地の記者席にいたら、たぶん身を乗り出していたと思う。

まさかのPKを取られたソンリョンは、判定を助言したと思われる副審に向かって「WHY?」と連呼して抗議している。当然だろう。このレベルの接触でイエローカードとPKを取られてしまってはたまったもんではない。

ただ判定は変わらない。どうやら、相手選手に膝を立てたラフプレイと見なされたようだった(公式記録でも警告理由はC2:ラフプレイと表記されている)。

いや、いや、いや。この試合の基準で言えば、後半開始直後に橘田健人はチャナティップの上げた左足を腹部あたりに強くキックされたが、あれはノーカードだったぞ。相手がチャナティップだったこともあってか橘田健人は気にしない素振りを受けて立ち上がったが、あれはイエローカードに相当するはずで、一発退場もあり得たファウルだったはずだ。

 川崎フロンターレの選手たちは納得がいかない。
家長昭博が「オンフィールドレビューで確認してくれないの?」というVARのジェスチャーをしていたが、主審は耳を貸さない様子だった。味方に下された判定に、これだけ食い下がる家長昭博の姿も珍しい。それぐらい「明白な間違い」の可能性がある判定だった。

 結果、VARが介入したのか、主審がオンフィールドレビューに向かっていくような動きを見せる。「そら、VARが入るよな」と思った次の瞬間、モウド・ボニャリーハルド主審が向かったのはVARのカメラではなく、川崎フロンターレのベンチ前だった。どうやら第4審の提言があったようで、寺田周平コーチにイエローカードが提示されていた。

・・・いや、そっちかい。そして、オンフィールドレビューしないんかいっ!結局、PKの判定は変わらず、ビクトルが冷静にキックを沈めた。

 これで4-2。
試合時間はすでに残り10分となっていたが、この判定を巡る一連の流れで時計は止まっていたので、アディショナルタイムを入れると、まだ15分はありそうだった。ホームで残り2点差で15分ならば、相手も勇気が湧いてくる。息を吹き返すには、十分な追劇弾となった。

 楽勝モードが一変していく中、さらなるアクシデントが起きる。


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