ポイントガードとしての宮城リョータは、チームをどう動かしていたのか。:映画『THE FIRST SLAM DUNK』を語る(4回目)
Every Little Thingのボーカルである持田香織さんは、毎年、お正月に漫画『SLAM DUNK』を読むそうです。
本人曰く、「今年も熱く頑張ろう!」と自分自身に気合いを入れるための儀式で、新しい年を迎えるにあたって、そうやって自分の中の熱い気持ちを呼び覚ましているのだとか。自分自身も年に一度は読み返す儀式をしているので、すごくよくわかります。
本当にね。スラムダンクを見ると自分の熱い気持ちが蘇ってくるんですよ。
迎えた2023年。
何が嬉しいって、このスラムダンクを読む儀式を、今年は漫画ではなく映画鑑賞という形で実行できることです。
年末年始は実家(北海道)に帰省していたので、東京に戻ってきてから新年最初の『THE FIRST SLAM DUNK』鑑賞をしてきました。タプタプシールも欲しかったですからね。通算4回目となる、スラムダンクを決めてきました。いやー、エネルギーを注入してきましたよ。
『THE FIRST SLAM DUNK』も4回目。過去3回分のレビューはこちらです。
■宮城リョータを違う視点で鑑賞する
毎回テーマを持って観賞しているのですが、今回は主人公の宮城リョータを少し違う視点で鑑賞しました。
おさらいしておくと、なぜ彼を主人公にしたのかについては、井上先生がパンフレットのインタビューで語ってます。
原作では語られていなかった宮城リョータのキャラクターやその背景が掘り下げられているのが、この映画の特徴の一つになっています。
一方で、自分の観賞回数が増えていくにつれて、ある仮説が浮かびました。それは、宮城リョータというキャラクターの深掘りとともに、彼を通じて「ポイントガード」というポジションも、井上先生は映画で表現したかったのではないか、ということです。
というのも、過去のインタビューやバスケット選手との対談などを見返していると、井上先生がこんなことを話していたからなんです。
■篠山竜青選手との対談で明かした、ある心残り
それは川崎ブレイブサンダースの篠山竜青選手と井上雄彦先生のバスケ対談でのこと。2018年4月26日に公開された対談ですが、その終盤、篠山竜青選手からこんな質問が出たんです。
・・・・つまり、キャラクターとしてだけではなく、ポイントガードとしての宮城リョータももっと描きたかったという思いがあったようです。この視点は、意外と盲点でした。そして、このインタビューが行われた約4年半前というのは、映画製作に本格的に取り掛かったぐらいに時期でもあるのが気になりました。
言われてみると、司令塔としてゲームを作りながら、流れを読んでギアチェンジしたり、試合をコントロールする役割を表現するタイプのポイントガードはスラムダンクではほとんど出てきません。
神奈川ナンバーワンである海南の牧伸一は、ゲームの流れを汲みながら判断を変えるというよりは、自分発信で仕掛けながら流れを作っていくタイプです。ナンバー2の翔陽の藤真健司は、自分で仕掛けつつも、周りのビッグマンを生かすタイプ。宮城リョータも原作では「切り込み隊長」のフレーズをつけられています。
それっぽいのが(井上先生が触れたように)山王の深津で、彼はゲームの流れを読んで、相手の嫌なことを的確にやるタイプにも見えます。常に相手を見てバスケットをしてますし、相手が困るシチュエーションを作ろうという意識が強いですからね。ラスト15秒でも「深津のゲームメイクに託した」とのナレーションがあります。
あとは海南戦の陵南・仙道彰がポイントガードで起用された際に、ゲームメーカーとしての才能があることを示していたぐらいでしょうか。ただこれも海南戦限定でした。
そう考えると、井上先生自身、高校時代はポイントガードをしていたものの、ゲームの流れを汲んでプレーするタイプではなかったこと。そして(連載時の)20代は、チームを動かすような仕事のできるポイントガードを含めて、「深いところまで描けなかった」と思うのもわかります。
そして年齢を重ねた今、そこをもっと描きたいという欲求が生まれていることもなんだかわかるような気がしますし、今回の映画ではそこも宮城のプレーに盛り込んでいるのではないか、と思ったわけです。
■「宮城!しゃべらんか。黙ってプレーするんじゃない!」。ポイントガードにおけるコミュニケーションの重要性。
宮城リョータというポイントガードが、王者・山王とのビッグマッチで湘北というメンバーをどうコントロールしていたのか。そしてゲームをどう動かしていたのか。その視点で試合を読み解くと、この作品はまた面白いなと思ったんです。
実際、この映画では、山王戦や回想シーンも含めて宮城のポイントガードとしての変化と成長も垣間見れるようにもなっています。
例えば、湘北に入ったばかりの練習では、2年生のゴリから「宮城!しゃべらんか。黙ってプレーするんじゃない!」とコミュニケーション不足を指摘されています。ただ宮城は「そういうタイプじゃねぇよ、俺」と反発するだけでした。
練習ではゴリにピックビハインドパスを出すも、呼吸が合わずに失敗。ゴリから「そんなパスが必要だったか?」、「お前のプレーはチャラい!」と叱責されます。もちろん、宮城には宮城なりの狙いがあったので言い訳をしますが、受け手が反応できなければ、ただのパスミスでしかありません。
コンビネーションを覚えていくためには、お互いの理解が必要になっていきます。練習ではそこで言葉を介したコミュニケーションが必要になることもありますし、そこからアイコンタクトなどで意図を理解していくことで繋がっていき、試合中の動きにも膨らみが生まれていくわけです。
だから、ゴリはポイントガードの宮城に対しては、喋りながら(コミュニケーションをとりながら)プレーすることの重要性を指摘していたのだと思います。もちろん、ゴリの言い方にも問題はありますが(だいぶ・笑)、宮城も宮城で自分が輝くことしか考えていないタイプだったとも言えます。
両者に少なからず問題がある以上、2人は噛み合いません。新人だった1年生の宮城は試合には出ていないようでした。実際、3年生の引退試合では、1年生の宮城があまり出場できずに負けていく描写があります。
その試合では2年生のゴリは、ゴール下でボールを必死に呼び込むも、(3年生の)竹中からパスは出てこないことに苦戦していました。宮城はベンチでその様子に苛立ちながら「自分ならこうするのに・・・」というパスをするアクションをしています。
■「宮城はパスが出来ます」の言葉が、本人に与えた影響
そんなもどかしさをベンチで抱えながら湘北は敗戦。試合後、引退する竹中からゴリと宮城は「カタブツと問題児がうまくやれるわけがない」とロッカールームで嫌味を言われます。
しかし次の瞬間、ゴリが竹中にこう反論します。
「宮城はパスが出来ます」
(おそらく初めて)宮城本人の前でパスセンスを褒めます。この言葉を聞いた宮城は、驚きと嬉しさが入り混じった表情をするんですね。
パスセンスを褒められたことで、少なくともゴリとの信頼関係(原作では2年生の時点で宮城はゴリのことを「ダンナ」と呼んでいる)は変わったはずですし、宮城自身のプレースタイルにもなんらかの影響が生まれた場面だったのではないでしょうか。
そしてゴリから指摘されていたコミュニケーションの必要性。この山王戦では、成長した宮城が積極的に味方とコミュニケーションを取りながら、ゲームを勝たせようとする姿が描かれています。
■「俺たちならできる!」からのノールックパスまでの完璧な展開
残り1分、円陣を組んで「来いや、山王!!」と吠え、クライマックスに向かう場面は、まさにそうです。
宮城は味方を集めて「(山王のプレスは)自分を狙ってくるから、ハメに来たら流川が運ぶ。ダンナ(赤木)は流川を見ていて」と、相手のプレス回避をイメージを味方に入念に伝えています(これはラストプレーにつながっていきます)。
そして「俺たちならできる!」とリーダーシップを発揮し、キャプテンの赤木から円陣の声出しも託されました。「しゃべらんか。黙ってプレーするんじゃない!」と言われていた宮城が、自分から味方に声をかけてチームを勝たせようとした。ゴリからチームを託されることになる瞬間でもありました。
CMでも使われた「1、2、3、勝ーつ!!」に繋がり、宮城がこの作品の主人公であることを印象付けるシーンになっています。原作にはなかった、この映画の名場面でもありますね。
そしてこの「来いや、山王!!」の後に起きたプレーは、花道のブロックからボールを拾った宮城が、「いくぞ、流川!」と2人で速攻を掛けて、ノールックパスを三井寿に通して4点プレーにつながる展開です。ニクいですね。ゴリの「宮城はパスが出せます」の言葉が、この土壇場で生きるわけです・・・泣けますよ、これは。
■原作にはなかった、味方を落ち着かせる仕草による試合運び
他にも井上先生が描きたかったであろう「ポイントガードとしての宮城リョータ」の描写は散りばめられています。
後半には、背中を痛めた花道がリバウンドを取り損ね、そのルーズボールを流川が回収してから宮城に戻した後、彼がゲームのリズムを一息入れるシーンは印象的です。原作にはなかった、ボールを抱えながら深呼吸して、一回落ち着こうというジャスチャーを味方にしているんですね。
試合の流れを読みながら、うまくいってない時や、攻め急がないようにしながら、自分たちの流れに持っていくにはどうしたらいいのか。
ポイントガードというのは、味方にパスをつける時でも、その1本のさじ加減やそこに込めるメッセージ、あるいはちょっとした振る舞いで、試合全体の流れが変えていくこともできるポジションなのだと思います。そういうポイントガードらしい緩急をつけたゲームコントロールに気を配っている様子が伺えます。
あるいは、追い上げ時の「流れは自分たちで持ってくるもんだろうが」と3年生2人を叱責する場面も、試合の流れに敏感になっていることを示す場面ですね。
もちろん、山王戦における宮城リョータの1番の見せ場は、何と言っても後半のゾーンプレス突破です。
あの「いけー!」は主題歌と相まってテンションが何度見ても爆上がりしますし、物語としては、ついに宮城が過去を乗り越えたシーンでもあります。あの「ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!!」は何度見てもしびれます(ちなみにここも、少年時代に兄ソータからの「ドリブルやれよ」という教えが効いてますね)。
あのゾーン突破を最大の見せ場にしつつも、派手なプレーではないけれど、ちょっとした試合の落ち着かせ方や味方とのコミュニケーションで、「試合を動かす」とか「チームを動かす」。何より、心臓バクバクでも目一杯平気なフリをし続ける、冷静なポイントガードとしての宮城リョータ。
そういう部分もさりげなく盛り込んで描きたかったのではないか、と思いながら4回目は鑑賞していました。
「ポイントガードとしての宮城リョータ」という切り口で、この映画(というか山王戦)を読み解いてみると、色々と発見があるのではないでしょうか。
ということで4回目のレビューはこの辺で。過去のレビューもぜひご覧くださいね。
・・・そろそろ、グッズ第2弾を発売してくれー!!
ではではこの辺で。
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