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「前線と、それ以外。そして3人の証言者」 (ルヴァンカップ第5節・浦和レッズ戦:1-2)

 勝敗とは別に、このゲームのポイントを読み解く上で、話を聞きたいと決めていた選手たちがいた。

 それは前線の3トップ。
この日のスタメンは、センターフォワードに小林悠、右ウイングに山田新、左ウイングに瀬川祐輔という組み合わせだった。

今シーズン、スタートでこの3人の並びは初めてだ。この組み合わせには、どんな狙いがあったのか。そして実際の効果はどうだったのか。

背後に抜けるのが得意な3人なので、チームとして狙いを持ってやっていました」(小林悠)

「背後をまず狙う。そこは言われていました。あとは自由にやっていました」(瀬川祐輔)

「(背後の狙いは)試合前からあったので、そこのポイントには意識して入るようにしていました」(山田新)

 こちらの質問に、3人とも口を揃えたのは「背後を狙うこと」だった。そしてそれは最後尾にいる出し手側にも共有されていた。

 この日、スタメンに入ったGKチョン・ソンリョンが、立ち上がりから繰り出していたロングキックの狙いを明かす。

「今日はビルドアップにトライして入りました。浦和相手に対して、裏を意識しろと言われてましたし、自分の長所(のロングキック)も意識してました。シン、セガは走れる選手なので」

 開始わずか1分。プレッシングにきた相手を十分に引きつけてから、ソンリョンが前線に鋭いロングキック。これが前傾姿勢だった相手の陣形をひっくり返すボールとなり、右サイドの山田新の元に。

 山田がトラップした瞬間、川崎の3トップと浦和のセンターバックが2人だけ。3対2のカウンターを繰り出している。そこから左サイドの瀬川祐輔に展開し、ゴール前に。瀬川はシュートを選択せず、逆サイドから走り込んでいた小林悠がトラップからシュートを放つも、そのトラップがハンドだということでファウルの判定に。

 得点には結び付かなかったものの、開始早々に迎えた決定機。いわゆる、擬似カウンターが炸裂したのだが、両サイドバックがかなり高い位置を取るのは浦和の戦術であるが、そこをリスクを突いた攻撃だった。

 そのわずか1分後。
再びソンリョンのロングフィードから山田新に。山田はうまく落として、右サイドバックの大南拓磨との縦関係で攻撃のポイントを作っていく。右サイドで押し込む時間を作ると、そこからサポートに入ったシミッチに。ワンフェイント入れてから、斜めのクサビがゴール前中央に供給される。

そのパスを小林悠はスルーした。というか、ボールに届かなかった。小林は振り返る。

「ジョアンは僕を狙ったのだと思います。目があったので(笑)。瀬川の位置が良かった。最悪、瀬川が落として自分が打てばいいと思ってましたが、(瀬川が)振って入った」

 小林の足が届かなかった先にいたのは、左ウイングの瀬川祐輔。
巧みなコントロールから、ファーサイドではなくニアサイド、それもタックルに入っていた馬渡和彰の股の間を通すシュートでゴールネットに突き刺す。ファインゴールだった。

「ジョアンから(パスが)来ることは予想しながら準備して、相手の足に当たったのかな。角度的には僕のところに来ると思っていました。あとはファーストタッチと、ゴールまでのイメージは直感というか感覚的な部分でしたが、うまく入りました」(瀬川祐輔)

 開始3分の先制弾。
今季、負けた試合は全て先に失点した試合である。言い換えると、先制すれば、負けてない。だからこそ先制点が欲しかった。そう考えると、願ってもない先制弾だった。

 ところが。

ここからチームは難しい表情を見せていくことになった。本題はここからである。

「カウンターは最初は良かったですが、点をとってからボールを持たれて難しくなりました」

 先制後の展開に話題を向けると、瀬川祐輔の表情が曇った。
前半も15分が過ぎて、徐々に試合が落ち着いてくると、ゲームの主導権を浦和が握っていく展開になっていったからだ。

 本来であれば、先制しても追加点を畳み掛けていくのがこのチームの必勝法である。その畳み掛けができなかった。なぜだったのか。

※こちらは追記です。5月26日に、謎の練習生こと谷口彰悟に関するあれこれを、約2500文字で追記しております。→■「いや、苦しかったですよ。これだけ勝てないのはサッカー人生で初めてかなっていうぐらいだったので」。麻生グラウンドに現れた谷口彰悟に僕が尋ねた2つの質問。その翌日の鬼木監督によるショウゴ話。

・・・そもそも、謎の練習生と呼ぶ文化が誰から始まったのか、知ってましたか?という話も補足しておりますので、ぜひ。

■「思い切って僕とシンが前に出れなかったり、ハメ方のところでチグハグした」(瀬川祐輔)、「相手のボランチは2枚とも下がって、僕を囲むようにビルドアップしてきた。僕は嫌だなと思っていた」(小林悠)、「前から行きたい意思はあったけど、なかなかうまくいかず、(ボールを)前進される印象があった」(山田新)。ハマらなかった前半のプレス。試合の進め方に齟齬が起きていた前線と、それ以外。

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