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蕎野

お嬢さん、ここよろしいですか、いえいえようござんす、アタシは隅のほうで。ええ、結構です。

ではちょいと失礼してね、すみません、後ろ通りますよ。はいはい。ありがとう。

いやあ、ありがたいじゃありませんか、何がありがたいってネ、ここ名古屋でこのホッピーが飲めるところはとっても少ないんでね。

もちろんご存知ですよね、そりゃあ そうだ。伏見地下街の店員さんですもんね。

え?白と黒のどっちにする?
そうですか、それじゃ今日は白を頂きます。なんたって尾張名古屋は白で持つ、なんてことをね。

・・・、いえ、なんでもございません。聞こえなかったんなら結構です。

アタシはホッピーはネ、氷入れずに三冷ってのが好きでしてね、え?うちのも三冷だって?へえ、そうなんですか。

ホッピーは冷蔵庫から出したてで冷えてる、キンミヤが冷えてる、おや、でもジョッキは別に冷えちゃいませんね。
これじゃニ冷だね、え?貴女の接客態度がキンキンに冷たいから三冷だって?うまいこと言うね、こりゃ。参りました。

すみません、それじゃいただきますね、うーん、美味いですね、これはキンミヤですね。え?よくご存知ですねって、まあ、あなたのそのTシャツ、金宮ラベルのTシャツですもんね、まあ、それでね。どうってこたぁありません。

ところでお嬢さん、ホッピー1本を焼酎何杯で割って飲むのがいちばん美味しいのか、ご存知ですか?普通は三杯?そうですか、それがベストな濃度らしいですね。

三杯がベストならば三杯ぴたりと等分して飲むには、毎回このら瓶のどこの位置まで注ぐべきなのか、コレが問題ですね。

え?そんなことはいいからおつまみ?はあ、そうですねえ、そのホワイトボードにあるセロリの浅漬けを頂きましょうか。




ワタシは新日派ですからセロリアンブルーって言葉にね、新日派ってなんだって?なんでもないです。気にしないでください。もう話さない、話さないですから。余計なことはネ。

そりゃセロリアンブルーの肖像だ、ってネ、優しい辛くて♪貴女の〜♪、って、お嬢さん優しいですね、もうわけわかんない話はやめようね、うん。

ちなみにこれ正しくはプルシアンブルーの肖像ね、安全地帯の。

ところでプルシアンブルーってどんな色なのかね。いきなりそんな色言われてもイメージできないですよね。

え?紺青?よくご存知ですね。いやはや博識ですなあ。
なるほど紺とか青の。はあ、ゴッホ。あのゴッホさんの。
かの有名な星月夜の色、あの夜空の色なんですか。いやあ、勉強になります。
ゴッホゴッホ。いえ、風邪じゃありません。お気遣いなく。

棟方志功なんかはね、わだばゴッホになる。なんてことをね。

なんの話でしたっけ、ああ、セロリか。ありがとう、頂きます。

ここね、このお店のことですけどね、鶏料理ももちろん美味しいんですけど、やっぱり
蕎麦屋ですからね。蕎麦をいただかないとね。

アタシゃ蕎麦っ食いですからね。多少よそで何かしら食べてきた夜だってね、ちょっと満腹かな、と思ったくらいでも、無理をしてでもここの蕎麦は食べておかなくちゃいけません。

とはいえね、蕎麦っ食いは、こと蕎麦になるとするするって水のように何枚でもいただけるもんでしてね。

かと言って、大盛りを頼むのは粋じゃあありませんからね。一枚食べて、まだ足りないようならもう一枚頂く。そうじゃなくちゃいけません。


 
はいはいありがとう、いいね、このツヤね。わかりますよ、わかりますとも。

こりゃ良いそばだ。美味しい蕎麦ですよ。うん。
え?

はい、入り口にお客さん行列されてますね。
なに、混んでるんだからさっさと出ろってことかね。
ふむ。
さっきからアタシを見てるって?
そうかね、誰がアタシを見るっていうんだい?

つまりそりゃ

伏見だけに、WHO SEE ME?ってね、

はい。

お後がよろしいようで。

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