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夜のカフェテラス

馴染みの店にいつものようにふらりと顔を出したら、そんなに混んでもないのに、ママがこっち、こっちと。
いつもの端っこ席ではなく、カウンターの真ん中に呼ばれる。

訝しがりながら座るとお隣は妙齢のマダム。

ははあん、これは仕組まれたか?
恨めしげにママを見ると、知らんぷりしてビールをジョッキに注いでいる。

お隣に座ったマダムは、どうやら先ほどから周りのお客に無差別に話しかけてやや顰蹙を買っていたようで、ワタシは良いとこに現れた生贄の羊役らしい。

乾杯もそこそこに、
「わたしね、今絵画教室通ってるのよぉ」
とスマホの画面を見せてきたマダム。

はあ、夜のカフェテラスですね

「あら!わかる?ゴッホ」
ぐいっと身体を寄せてくる。

はあ、まあ。あ、あの、ちょっと、ち、近いです。

最近の絵画教室ってのは、よく知らんのだけれど、有名画家の作品を模写させたりもするものなのだねえ。習作というやつか。

「嬉しいわあ、わかってくれて。この辺の人誰も絵のことなんかわかんないのよぉ」
シラーっとする店内の雰囲気が怖い。

「飲んで飲んで、わたしのしらす」

しらす?!ああ、白州のことですか。じゃあ遠慮なく。


グラスに勢いよくドボドボ入れるので、いやいやそんなもったいない!てかそんな濃いの飲めませんから!と不本意ながらカウンターのウィルキンソンでこっそり割る。

かなり贅沢なハイボール。

ふと目を上げると、大将とママさんがカウンターの向こうからニヤニヤして見ている。
笑って見てないで助けてよ・・・。


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