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オールの小部屋から㉒ 雑誌づくり以外の仕事(前編)

 暑い日が続きますが、お変わりありませんか。
 GW中、noteを連続更新してみようと急に思い立ちました。
 今回は、オール讀物のPRをちょっと離れて、「編集部だより」らしく、雑誌づくり以外に私たちがふだんどんなことをしているのか、ご報告しようと思います。かなり慌ただしかったこの2か月間のカレンダーを振り返ってみることにします。 

 3月某日/『映画ビジュアルブック「陰陽師0」の世界』校了

 夢枕獏さん原作、佐藤嗣麻子監督・脚本の映画陰陽師0は、みなさんご覧になりましたか? われらが安倍晴明の陰陽寮学生(がくしょう)時代が描かれる、いわば原作小説陰陽師の前日譚。源博雅との出会いのシーンもあり、平安京を巻き込んだ壮大な「呪」の陰謀が描かれるいっぽうで、晴明と博雅との友情がはぐくまれていく過程を楽しむことができます。青春あり、恋愛あり、なにより迫力満点の「呪」のシーンが最高で、究極のエンタメ映画といってよいのではないでしょうか。原作ファンはもちろん、原作を未読の方も面白く見られるはずです。
 この映画の公式ビジュアルブック『「陰陽師0」の世界を、急遽、オール讀物編集部でつくることになりまして、1月の直木賞選考会が終わった直後から、直木賞発表号の編集と並行して、必死で制作に取り組んできました。映画公開に合わせて無事に完成! このビジュアルブックは、映画とはまた違った画角や距離感でキャストの表情をきりとっておりまして、貴重なシーン写真を数十点、贅沢に掲載しています。山﨑賢人さん、染谷将太さん、奈緒さん、板垣李光人さんたちキャストのファンの方は必見のビジュアルブックですので、ぜひ映画館や書店で手にとってご覧ください!

『映画ビジュアルブック「陰陽師0」の世界』(文藝春秋刊)

 3月某日/森バジルさん単行本打ち合わせ

 これは私(石井)個人の趣味的な活動でもあるのですが、昨年の松本清張賞作家・森バジルさんの才能に惚れ込み、受賞第1作となる書き下ろし小説の打ち合わせに参加したりしておりました(といっても、ゲラを読んで感想を言ったり、タイトル案を出したりするだけ=つまり楽しいだけの打ち合わせですが)。
 難航していたタイトルも、ついになんで死体がスタジオに!?と決定。6月後半の刊行に向け、目下、最後の直しに取り組んでいただいているところです。バラエティ番組の生放送直前、出演者のひとりがスタジオ内で死体となって発見され、プロデューサーとチーフADは、生放送を円滑に進行しながら同時に推理と捜査を進めていかねばならなくなるという、とんでもない青春バラエティエモーショナル本格ミステリが誕生しました。森バジルさんは、デビュー作ノウイットオール あなただけが知っているでも、5種のジャンル小説を同じ町を舞台に同時展開していく手腕が注目されましたが、この2作目でいよいよブレイクしそうです。どうか読み逃しなく!

森バジルさんと『ノウイットオール』(文藝春秋刊)

 ……といったふうに、オール讀物編集部のメンバーは、雑誌だけでなく、ときどき単行本の編集にかかわることがあります。デスクのHさんなどは、織守きょうやさんの新著『キスに煙』の編集をまるごと担当しておりました。『キスに煙』は愛情と嫉妬、疑心暗鬼と献身、衝撃と驚愕とが濃厚にブレンドされた織守さんらしい1冊です。書き下ろし小説の進行は、もちろん執筆された織守さんが一番たいへんですが、編集担当もひときわ身が入って心身ともに疲弊するもの。どうか恋愛小説好きのみなさん、ミステリ好きのみなさん、著者と編集者と作品を応援していただけたら嬉しいです。 

織守きょうや『キスに煙』(文藝春秋刊)

 3月某日/伊集院静さんお別れの会

 昨年11月24日に亡くなった伊集院静さん。お別れの会が、直木賞の贈呈式が開かれたばかりの東京會舘でおこなわれました。会場のスクリーンにはありし日の映像が流れ、伊集院さんの大きな声が会場に響いていましたので、来場者の中には、伊集院さんが「直木賞のパーティと間違えてやってきたのかと思った」と、涙を浮かべておっしゃる方も。400本の白いカーネーションに覆われた祭壇はじつに壮麗で、出席者のご挨拶もすばらしく、よいお別れの会になったと思います。司会は阿川佐和子さんがつとめてくださいました。

お別れの会で挨拶をする北方謙三さん(左)と司会の阿川佐和子さん(©文藝春秋)

 私、元担当として「お別れの会事務局」に加わりまして、講談社さんが幹事社代表でしたので、講談社の会議室に各社集まって打ち合わせを重ねてきました。文春の担当は報道対応。スポーツ界や芸能界からの出席者が多いため、当日はテレビ局でもとくに芸能関係の取材クルーが多くやってきまして、カメラの位置を決めたり、囲み取材の場所を決めたり、ふだん文学賞の報道対応ではあまりやることのない仕事をしておりました。
 お別れの会の第一部が終わったあとは、一般の方の献花も受け付けました。まだ第一部の式典をおこなっている最中から、東京會舘の1階エントランスには献花を待つ方々の長蛇の列ができていまして、並んでくださったみなさまには本当にありがたく、また申し訳ないなとも思いつつ、伊集院さんが多くの読者に慕われていたことを実感しました。こちらの一般献花には、私の妻と息子もやってきまして、カーネーションを祭壇に供えて手を合わせていました。息子はまだちいさい頃、伊集院さんにかわいがってもらったことをよく覚えていて、訃報に接したときは「お別れの会で『ありがとうの花』を歌う」と言っていたのですが、さすがに歌を歌うタイミングはなかったようでした(笑)。

お別れの会で展示されていた伊集院さんの作詞楽曲リスト(©文藝春秋)

 お別れの会は少し特殊な例かもしれませんが、編集者はこの手の会の事務局、幹事などをする機会がけっこうあります。オール最年少部員としておなじみのシマダさんは最近、ある担当作家のバスツアーの幹事として、旅行代理店との折衝を重ねていました。バスを何台手配して、どこで休憩して……と、電話だけ聞いていると、まるでツアーコンダクターです。ほかにもゴルフをする作家を担当していれば、コンペの幹事などもやる機会があります。 

3月某日/万城目学さん「エッセイの書き方」講座

 高校生直木賞に参加してくれた高校生を対象に、じつは私たち、年に2〜3回、読書会イベントを企画しております。その一環として、『八月の御所グラウンド』で直木賞を受賞したばかりの万城目学さんを講師に招き、オール2月号に寄稿していただいた新春随想「万城目学、クイズ番組に挑戦する」を課題テキストに、高校生向け「エッセイの書き方講座」を開催しました(主催者が言うのも変ですが、なんと贅沢な企画でしょうか!)。
 文章を書くときの初期衝動は「自分のことを書く」かもしれないが、読者に伝わる文章、読んで面白い文章にするには、その自分を「つきはなして見る」視点を獲得しなければならない――等々、とても実践的な内容に、私たちも思わずメモをとりました。高校生向けの講座にするために「小論文にも役に立つ」という触れ込みで案内したのですが、本当に小論文の役に立ちそうな内容で、先生方も感激されていました。質問も途切れることなく、終了後は参加者とお話ししながらのサイン会となり、高校生たちみんな喜んでくれて、私たちも本当にうれしいひとときとなりました。

万城目学さん(©文藝春秋)

 コロナ後、最近はこうしたイベントもリアル開催(オンライン併用)が主流となり、準備にも少々手間がかかります。司会進行は、万城目さんの担当が長いデスクのHさんがつとめ、充実の内容となりました。コロナ禍下の試行錯誤をへて、イベント運営の仕事も編集者の日常となった感があります。昔は「編集者は黒子」と言われてきましたが、これからは人前でしゃべる仕事もできないといけない時代になってくるかもしれません。また、若い編集者はおしなべてトークがしっかりしているとも感じます。


 ……といったところで、3月を振り返っているだけで、けっこうな分量になりましたので、以降は次回としたいと思います。

(オールの小部屋から㉒ 終わり)


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