オールの小部屋から㉓ 雑誌づくり以外の仕事(後編)
いよいよGWも終盤ですね。
本日は、かつて在籍した京都大学推理小説研究会の創立50周年大会に出席してきました。日帰りの慌ただしい京都旅でしたが、開催されたシンポジウムで、出身作家のみなさんの「犯人当て」論を聞くことができて、とても貴重なひとときでした。
「犯人当て」の、小説とは異なる特質を(そのライブパフォーマンス的な側面も踏まえて)きちんと捉え直すと、仕事の上でも楽しいアイデアが湧いてくるような気がして、定評ある名作をいくつか読み直そうと、いま、帰りの新幹線の中で考えているところです。
さて、昨日のつづきです。3月〜4月にかけての「雑誌づくり以外の仕事」をいくつか日記ふうにご紹介していきます。
3月某日/特製一筆箋を開発!
発売中のオール讀物5月号にてひっそりお知らせしているのですが、じつは今年の後半より、オール讀物が隔月刊誌となります。いまも年2回、直木賞発表号は合併号なので、ガクッと減ったなという感じにはならないと思いますが、とにかく夏以降、刊行のペースがゆっくりになります。そのぶん毎号を特大号とし、ページ数を増やし、ますます充実した企画をお届けしていこう! と考えております。変わらぬご愛読をお願いします。
さて、ここからが本題です。これを機に定期購読者を増やそう(すでに購読してくださっている方には、隔月刊になっても更新していただこう)と考えて、スペシャルグッズの開発に着手。年明けから、ひそかに制作を進めておりました。それが「文豪になれる」一筆箋です。
この新グッズはじめ、定期購読者向けの新サービスの数々については、あらためてしっかり発表したいと思っていますが、「文豪になれる」一筆箋とはそもそも何でしょう。みなさん、かつての文豪がオリジナルのマイ原稿用紙を使用して執筆していたことはご存じかと思います。自分好みの用紙、罫線、色、マス目の大きさなどを指定し、満寿屋などに注文する。用紙の隅に「◯◯◯◯箋」と作家名が印刷された生原稿を、文学館の展示でご覧になった方も多いのではないでしょうか。それを一筆箋でつくってしまおう、というのが新グッズの趣向です。かつての文豪や、現役の手書き作家が使用している原稿用紙を研究し、いちばん筆が乗りやすい形を追求しました。太めの万年筆でマス目を埋めていけば、気分はもう文豪。一筆箋に筆を走らせているうち、知らず知らず短編小説ができている――そんな用箋ができてしまったのです。
この一筆箋、オールを定期購読してくださる方全員にプレゼントします。どうか楽しみにお待ちください!
3月某日/海と民話シンポジウム
日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として始まった「海と灯台プロジェクト」には、オール讀物も協力し、多くの作家と全国の灯台を取材して「灯台を読む」というエッセイを毎号連載してきました。
さらにこれに関連し、一般社団法人日本昔ばなし協会が主催する「海ノ民話のまちプロジェクト」のお手伝いもさせていただくことになり、3月末、「『海ノ民話』から学ぶもの~作家・芸人・学者の視点から~」という公開シンポジウムが文藝春秋にて開催されることに。パネリストとして永井紗耶子さんが登壇されるというので、アテンドのお手伝いをしつつ、永井さんに民話についてのインタビューをさせていただいたりしておりました。そうしたら控室に、同じくパネリストであるAマッソの加納さんがいらっしゃったではありませんか(ミーハーなので嬉しい)。
文春には作家に籠もって仕事をしていただく「執筆室」があるのですが、加納さんはなんと執筆室でカンヅメになって原稿を書いた経験があるそうです。じつは加納さん、文藝春秋から新刊『かわいないで』が5月13日に発売されるのでした。ぜひチェックしてみてください!
3月某日/週刊文春の記者を取材
作家の取材をお手伝いするのも編集者の仕事です。詳細は控えますが、情報操作とSNSに関する小説を準備しているある作家の方と、週刊文春の記者を取材することにしました。テーマは「SNS地取り」。何か事件が発生して、たとえば容疑者の周辺を取材するとなったとき、従来だと、住宅地図を片手に自宅まわりの聞き込みをしたり、出身校を調べて同級生を探したり……という取材が一般的でした。現場近辺を片っ端から当たっていくのを「地取り取材」と言いまして、気合いと人間性があればなんとかなるので(ならないことも多々ありますが)、こうした取材は新人にまわってくることが多い。私も入社直後、週刊文春編集部でよくやりました。
現在では、もちろん「地取り」も大事だけれども、現場に行く前に(移動の新幹線や飛行機中で)「SNS地取り」をすることが一般的だそうです。これ以上、詳細は書きませんが、取材の手法もすっかり様変わりしていて、私自身、とても勉強になりました。
4月某日/新入社員研修と入社試験の面接
4月になると新入社員のみなさんが加わりまして、わずかの期間ですが文春にも「研修」があります。私、昨年から「文藝編集者の仕事」という題で講師を仰せつかってまして、2時間ほど話をしました。
デジタルメディア、PR、ライツ、ブランドビジネスなど社内では新たな仕事の分野が増え、利益の上げ方も変わりつつありますが、活字メインの編集現場はけっこうアナログ。なかでも小説の仕事は書き手あってのものですから、昔もいまもコアな部分は変わっていないかもしれません。「作家との出会い方」「原稿の依頼のしかた」「手紙の書き方」「FAXの送り方」「電話のかけ方」など、もちろん人それぞれなのですが、自分なりに日々やっていることを具体的にお話ししていきます(リアルに私が書いた手紙をこっそり回覧したりもしました)。実際に「直筆の手紙を添削する」というおそろしい課題もあって、どんなものが来るのかドキドキしていましたが、若い世代の人たちもびっくりするくらいちゃんとしたお手紙を書いていて、感心しました。……と、記しているとあまりのオールドスタイルぶりに驚かれるかもしれませんが、想像以上に「直筆のお手紙」を書く機会が多いのが私たちの仕事です。
さて、新入社員が入る頃には、次年度の入社試験もスタートしています。雑誌の進行が気になる時期ではあるのですが、面接官もたいへん大事な仕事なので、1日、編集部を離れて、入社志望の(主に大学生の)みなさんのお話に耳を傾けます。決して本や雑誌が売れる時代ではありませんから、「どうして文藝春秋に入りたいと思ったのか?」はとても気になるところです。受験者の中に、文春の「雰囲気がよさそう」と言ってくれる方がけっこういて、「なぜそう感じたの?(マニュアルなのか?)」というのも気になるところ。
「会社説明会で話を聞いて」という回答に加えて、最近では「インスタライブを見た」「ポッドキャストを聴いた」との答えがけっこうあります。私はインスタは未経験ですが、本の話ポッドキャストはしょっちゅう録音・編集して公開してるので、反響があると嬉しいものです。
4月某日/インスタライブに出る
というわけで、最近、どんどん視聴者数を伸ばしてるらしい文春の「インスタライブ」が気になり、あらためてチェックしてみました。入社試験の面接を個人的に集計した結果、「ポッドキャストを聴いた」よりも「インスタライブを見た」という声の方が多く、にわかにインスタライブへの嫉妬の炎が燃えあがったわけです。
担当しているプロモーション部の人たちに「インスタ出たい」と直訴してみると(アカウントは bunshun.pr )、あっさり出演OKが出ました。
こちらで、オール讀物5月号の企画「大人の推理小説大賞」を入口に、GWにおすすめの翻訳ミステリーについて好き放題、喋っております。MCの進行も楽しいですし、ひっそり登場して面白いことをしゃべる「ぶんこアラ先輩」も魅力的。インスタのアカウントをお持ちの方は、ぜひフォローをお願いします!
(オールの小部屋から㉓ 終わり)