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オールの小部屋から⑳ 編集部員シマダの偏愛おすすめ(後編)+AI文字起こしについて

 みなさん、ご無沙汰しております!
 気がつけば4月も半ば。まもなくオール讀物5月号が発売されてしまいますが、まだまだ3・4月号を粘りづよく宣伝すべく、おなじみ最年少編集部員シマダさんのおすすめ紹介企画の〈後編〉をお届けします。
 本の話ポッドキャストの人気番組【オールの小部屋】より、【3・4月合併号編集部員のおすすめ企画はこれだ!(第1回)】の音声をAI文字起こしした記事です。
前編にお目通しいただいた上で、こちらをお読みください!


 石井 では、オール讀物3・4月号を紹介する後編に行きましょう。ほかにシマダさんのおすすめ企画は……

 シマダ なんといっても赤川次郎さんの大特集です!

 最新作『幽霊健診日』が幽霊シリーズ30作目ということで、記念すべき節目に特集を、ということになりました。1976年、赤川先生は「幽霊列車」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビューされてますから、実に47年間、続いているシリーズということになります。

インタビュー中の赤川次郎さん(©文藝春秋)

 石井 特集の内容としてはどんな感じですか。

 シマダ 赤川さんのロングインタビュー「エンターテインメントの条件」に加えて、いろんな方に「私の一冊」を挙げていただいているのと、角川春樹さんの特別寄稿もあって、「この特集、濃いな」っていうのがまず感想ですね。

「私の一冊」では、門井慶喜さん、東川篤哉さん、望月麻衣さん、鈴木智彦さんという、なかなか普通は集まらないみなさんが赤川次郎さんのもとに集っているといいますか……。

 石井 たしかに、ふだんまず一堂に会することのないメンバーだと思います。みなさんそれぞれ熱い思い入れを赤川作品一作一作にお持ちで、思いの丈を「これでもか」と綴ってくださってます。面白かったですね。

 シマダ すごいです。みなさん本当に赤川さんのことが好きなんだなということがめっちゃ伝わってきて。

 石井 門井慶喜さんは、「週百冊」ってタイトルにあるんですけど(笑)、本当ですかね。

 シマダ 読んでいただいてのお楽しみですけれど、門井さんなら確かにあるのかな、成し遂げそうだな、と思いますよね。望月麻衣さんは憧れの方へのお手紙のようなエッセイで。

赤川次郎ファンの門井慶喜さん(右)は万城目学さんの盟友としても知られる(©文藝春秋)

 石井 本当に赤川先生のことが「好きなんです」というお気持ちが伝わってきましたね。今回、なかでもおひとり、とくに異色な方として、ライターの鈴木智彦さんがいます。目次の顔写真を見ても、ひとりだけ眼光が鋭いんですけれど(笑)。

 鈴木智彦さんといえば、ノンフィクション好きの文春読者の方はよくご存じだと思います。ヤクザの世界に精通したジャーナリストで、潜入取材の名手でもあり、文春ですと『ヤクザと原発』という、よく読まれたすばらしいルポがあります。ほかにも『ヤクザ1000人に会いました!』とか『サカナとヤクザ』とか、たくさん著作がありまして、個人的に大好きなのは『ヤクザときどきピアノ』という本。これは鈴木さんがある時、一念発起してピアノを習い始めるっていう感動的なエッセイなんです。そういった、ふだんヤクザ業界のことを徹底的に取材しているプロ中のプロだけあって、小説を紹介するエッセイも、文章の迫力がちがいます。

 シマダ タイトルがすごいですね。「ヤクザと赤川次郎」。

 石井 すみません、これは編集部でつけちゃったタイトルなんですけど(笑)。

ひとり眼光が鋭い鈴木智彦さん(©文藝春秋)

 シマダ 世界を舞台に仕事をしながら、鈴木さんがどのように赤川作品に触れていくのか。ご家族の話も出てきて、心温まるものになっています。

 石井 お祖母さまの話が後半で紹介されているんですけど、感動的な筆致で綴られていくんですよね。

 シマダ ちょっと泣いちゃいそうでした。

 石井 じつは鈴木さんからは、お祖母さまが赤川次郎さんのファンクラブの集いに出ているお写真も見せてもらいまして。このお祖母さまがとてもすてきな方なんですよ。シマダさんはファンの集いのお手伝いもしてるんですよね。

 シマダ はい。何度かお手伝いをさせていただいてるんですけど、本当に温かい雰囲気で運営されていて、ご家族だったりだとか、親戚で来ましたっていう方も多くて、赤川さんもロングインタビューで「この集いはできる限り続けていきたい」とおっしゃっています。ものすごく素敵なイベントなんですけれども、そこにこんなヒストリーがあるのか、参加しているファンの方から見るとこんなにも大事なイベントなのかってことがわかって、胸に迫るものがありました。こうして小説で家族の絆が結ばれたりするのかと思って。

 石井 短い枚数ではあるんですけど、心を打つ文章なので、ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。そして、角川春樹さんの特別寄稿もすごいですね。

 シマダ 目の前で角川春樹さんがお話しされる姿を拝見してたんですけれども、やっぱりちょっと迫力が違うなと。いざ原稿を拝読すると、角川さんが思い出す赤川次郎さんとの日々が綴られてるんですが、同じ出版業界の話とは思えないくらいとにかくスケールが大きくて、なんだか戦後日本の歴史秘話を読んでいるような気持ちがしまして。

 石井 角川さんの寄稿には「『セーラー服と機関銃』のころ」というタイトルをつけました。僕は完全な同時代ではなく、ちょっと上の先輩、東川篤哉さんとか、いま50代半ばぐらいの方がドンピシャの世代だと思うんですけど、当時まだ小学生だった僕らのクラスでも、赤川さんの本が回覧されてました。『晴れ、ときどき殺人』とか『殺人よ、こんにちは』とか、角川文庫の人気はすごかったですね、やっぱり。

 シマダ 私が出版社に就職して、赤川さんを担当させてもらってる、って話をまわりの人にすると、「嘘!」みたいな。そもそも赤川次郎って本当にいるの? みたいな反応があって。

 石井 西村京太郎さんとかもそうだと思うんですけど、生身の人間として存在するってことが想像しにくいくらいのビッグネームなんですよね。

 シマダ 実在が疑われるレベル。当たり前のように身近にある本の作者の方ですよね。

 石井 赤川さんの新刊って、毎月毎月、自動的に生まれてくるみたいに思ってる人がいるかもしれませんけど、本当に生身の人間として存在していて、毎日、手書きで小説を書かれてるんですよね。

 シマダ そうなんですよ。原稿用紙一枚一枚にサインペンで書かれていて、毎月本当にたくさんの締め切りをずっとこなしていらっしゃいます。今回、赤川さんご本人に、オール読物推理小説新人賞にどういう経緯で応募したのかとか、デビュー前夜の歴史も語っていただいていて、「ガリ版刷りで同人誌をつくってました」なんて、意外なお話もうかがうことができました。

 石井 デビューするやいなや大ベストセラー作家になっていくスピードもすごいし、赤川さん原作の角川春樹映画もとても豪華で。角川さんのエッセイを読むとあらためてスケールの大きさに驚きます。しかもそれがほんの3、4年の間に起きてるわけですよ。赤川さんは76年に「幽霊列車」でオールの推理新人賞をおとりになって、幽霊シリーズの1作目が出たのが78年。同じ年に『三毛猫ホームズの推理』が出て大ヒットし、映画「セーラー服と機関銃」が81年ですから、またたく間ですよね。

 シマダ 本当にすごいです。「三毛猫ホームズ」がきっかけで赤川さんが専業作家になられたこととか、いまに続く作品群をどうやって残されてきたのかとか、びっくりするお話ばかりで。

仕事中のシマダさん

 石井 やっぱりレジェンドの話って面白いんですよ。薬師丸ひろ子さんの思い出話なんかも、インタビューの合間に雑談として披露してくださってましたよね。

 シマダ 映画の撮影秘話がどんどん出てきました。

 石井 じつは赤川さんの取材の後、懐かしくて、映画の「セーラー服と機関銃」を観たんです。角川春樹さんの寄稿にも、薬師丸ひろ子さんが初めて映画の主題歌を歌う時のエピソードが出てきますよね。角川さんがデモテープを聞いた瞬間の話も衝撃的でした。

 これらの記事を読んだ上で映画を観ると、映画の中で主題歌が流れる瞬間があるわけですよ。やっぱり感動するんですよね。当時17歳の薬師丸さんの演技、そしてこの主題歌が流れてくる瞬間の、本当にゾクゾクっと背筋が震えるような感覚。1981年当時、この映画がいかに日本中の人の心を掴んだかという空気が、いま観ても感じられました。

 シマダ 薬師丸さんは、昨年末の紅白でも「セーラー服と機関銃」を歌われてて。みんなに根づいてるというか、もう時代のスタンダードなんですね。常にみんなとともにある、という赤川作品のすごさがわかる特集でした。「総力特集赤川次郎」もぜひお楽しみいただきたいと思います。

 石井 このボリュームのある3・4月合併号。単行本なら3~4冊分くらいあります。読みごたえ十分。2か月間、書店の店頭に並びますので、じっくり読んでいただきたいです。直木賞の選評ももちろん面白いんですけど、直木賞特集以外にも、驚きと感動が全ページから溢れていますので、「ぜひ!」ということで。今日はこのへんで失礼したいと思います。お聞きくださってありがとうございました。

 シマダ ありがとうございました。


 こちらで〈後編〉はおしまいです。
 お読みくださって、どうもありがとうございます。
 いま、どんどんAI文字起こしの精度が上がっています。昨年前半くらいまでは、まだまだ人間による起こしに遠く及ばない感じがしていました。現在では、音声さえきれいに録音されていれば、そうとう正確に文字化してくれます。話者の区別までしてくれます。よくわかっている相手の短いインタビューならAI文字起こしでじゅうぶん、といったところまでようやく来つつあるかなと感じています。
 いっぽうでプロの音声起こしの方は、コンテクストを理解した上で語順をととのえてくれたり、専門用語をしっかり調べて補足してくれたり、モゴモゴと言いよどんでるところもニュアンスを残しつつ正確に起こしてくれたり……と、AIとは隔絶した圧倒的な技術を誇ります。最高レベルの音声起こしのプロは、いま引っ張りだこの存在です。このこともきちんと申し上げておきたいと思います。
 私は、ふだんAI文字起こしに、Nottaというアプリを使っています。編集部員の中には、CLOVA NoteというLINEのアプリを使っている人もいます。このアプリの精度がいいよ! 便利だよ! という情報がありましたら、ぜひ教えていただけませんか。

(オールの小部屋から⑳ 終わり)

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