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オールの小部屋から⑮ 編集部員紹介 トリハラ青年の巻

オール讀物編集部ではいま、どんな人が、どんな志を抱いて働いているのか――。
 大好評をいただいているオール編集部員の身内インタビュー企画。先日のシマダさんに続く第2弾は、次に若い、トリハラ青年をご紹介します。1985年、鹿児島県生まれ。最近どんどん増えている転職組のホープです。
 今回は聞き手をシマダさんにやってもらいました。どんな話を引き出せているかも注目ですね。


トリハラ オール讀物編集部に2023年7月に配属になりましたトリハラです。聞き手が後輩のシマダさんということで緊張していますが、よろしくお願いします。

――よろしくお願いします。トリハラさんは以前、別の出版社で働かれてたって聞いたんですけど、文春に入るまでのキャリアというか、経歴を教えてください。

トリハラ 私は大学時代、夜間部に通ってまして、昼間に出版社でアルバイトをしていました。日中は、原稿のコピーや電話対応であったり、編集者のサポートをして、夜に大学で勉強するという毎日です。サポートをするうちに編集の仕事の魅力に取り憑かれて、編集者を目指すようになりました。そのままアルバイトから社員になって、編集者の道を歩むことになります。最初がK社、その後、G社に転職し、文藝春秋は3社目になります。

――出版社のアルバイトを始めるきっかけってあったんですか。

トリハラ 夜間部の学生を対象としたアルバイトがあるという話を大学の先輩から聞いて知りました。本が好きだったので、作る側を覗いてみたいという好奇心もありましたが、どうやら時給も結構良いという話を聞いて、その誘惑もありました(笑)。

――出版社で働く前に憧れていた作家さんとかいましたか。

トリハラ もともと時代小説が好きで、中でも山本周五郎さんが好きだったんです。ただ、私が働き始めたときにはもちろん亡くなっていたので、お仕事をすることは叶いませんでした。現役の作家さんだと、伊坂幸太郎さんは学生時代からずっと読んでいて憧れの作家のひとりです。

――山本周五郎さんで一番好きな作品って何ですか。

トリハラ 文春文庫で出ている山本周五郎名品館II 裏の木戸はあいている』(沢木耕太郎編)という短篇選集にも収められているのですが、「橋の下」という作品が好きです。親友との決闘のために川原にやって来た若い武士に、橋の下で生活しなければならない境涯におちた乞食の老侍が、自分の人生を語るという話なんですが、人が生きることの意味であったり、人生のすべてが詰まっている短篇小説としてこんなに素晴らしい作品はないと、折に触れて何回も読み直しています。

沢木耕太郎編『山本周五郎名品館Ⅱ 裏の木戸はあいている』

――文藝春秋に入って感じた第一印象ってありますか。

トリハラ 入社して思ったことは、皆さんとっても仲が良い。やはり老舗の出版社ならではの大らかな雰囲気を持った会社だなということですね。

――入社する前の想像と同じでしたか。全然違ったぞってことはありましたか。

トリハラ 他社の人間として文藝春秋の編集者の方とご一緒させていただくことが多く、皆さんとても楽しそうに仕事をされている印象だったんです。魅力のある会社だなと思って、実際に入社してみてもそのままの印象でしたね。ここが思ってたのと違ったなということはあまりなくて、いまも入社して良かったなっていうのはほんとに思ってるところです。

原稿にエンピツを入れているトリハラ青年

――オールに配属される前までは文春文庫に4年いらしたんですね。どんな作品を担当されたのでしょうか。思い出深い1冊などあれば教えてください。

トリハラ これまでのキャリアの中で、私は文庫書き下ろしを重点的に担当することも多かったので、ちょうど文春文庫で書き下ろし作品にも力を入れて行こうとしていた時期でもあり、時代小説やミステリーの新シリーズを多く担当しました。

今年の夏、オールに異動が決まって、最後に文庫編集者として作ったのが、柚月裕子さんの初エッセイ集ふたつの時間、ふたりの自分でした。柚月さんがデビュー時から書き溜めていたエッセイを、国会図書館やらいろんなところを走り回って探して集めてきまして。自分が思い描いていた以上の1冊になりました。

内容もそうですが、このエッセイ集のカバー装画をなんと、GLAYTERUさんに描いてもらったんですね。TERUさんはいま、ミュージシャンの活動とは別に絵をお描きになっていて、インスタでも作品をアップされていました。私はそれを見て今回のエッセイ集のコンセプトに合うなと思いまして、TERUさんにお願いしましたところ、作品を読んでくださり、描き下ろしの絵をいただくことができました。

私はもともとGLAYのファンで、出版社に入ってやりたいことの1つがGLAYのTERUさんとお仕事するということでした。この目標が叶った、大切な作品となりました。

柚月裕子『ふたつの時間、ふたりの自分』

――オール讀物に異動という内示が出たときの正直な感想をお聞かせいただけますか。

トリハラ 正直な感想は、もちろん嬉しいなっていうのはありました。出版社の中でも小説誌っていうのは原稿を取ってくる第一部隊であり、作家さんとの関わりも濃いところです。90年以上の歴史のあるオール讀物でその仕事ができるっていうのは、編集者人生の中でも重要なことですし、名誉なことだなと思いました。ただ、激務になるんではないかという一抹の不安も抱えておりました。

――配属されて5か月くらいになると思うんですけれども、実際どうでしたか。

トリハラ そうですね。やはり激務だなっていうのは思いましたし、これだけ小説やエッセイ、対談などがたくさん詰まったページ数のある雑誌を、編集長含め5人で作っているという……。「少数精鋭」なんて自分で言うのは変ですけれども、ほんとにこの人数で作るのかっていう驚きと、自分にできるんだろうかという不安はありました。いざ雑誌ができあがってみると、本を作って完成したときもそうですけど、やっぱり編集者として喜びを感じますね。

――文春文庫部とのスケジュールの違いってありますか。

トリハラ 文春文庫も毎月全体のラインナップを揃えないといけないのは雑誌と同じですが、ひとりひとりの編集者は1冊1冊を自分のスケジュール感で作っていく。個人事業主みたいな形ですよね。

いっぽう、オール讀物は月刊小説誌なので、校了日に向けて、編集部員みんなでページを作っていくという作業があります。個人個人で校了はできないし、編集部のみんなの足並みを揃えていかないといけない部分が、違うところですかね。

――オールに来て、驚いた仕事とかってありましたか。

トリハラ 異動後、新編集部になってすぐに直木賞の選考会があるんです。垣根涼介さんと永井紗耶子さんが受賞されたんですけれど、私は垣根さんの担当に決まってましたので、ただちにオールで受賞の特集を作ることになりました。受賞エッセイを依頼したり、池井戸潤さんとの対談をまとめたりと、正直これをひとりでやるのかという大変さは身にしみました。もちろん、楽しみながら作ることができたんですけれども。

――プライベートのお話も伺いたいんですけれど、お子さんがいらして、休日は何をされてますか。

トリハラ 子どもがふたりいまして、長男が地元の小学校のサッカーチームに所属しているんで、大体土日、仕事がないときにはサッカーの付き添いをしています。チームのためにというか子どものためなんですけれど、審判の資格を取りまして、試合のときは審判をやったり、いろいろ借り出されてます。

――審判ってすぐなれるものなんですか。

トリハラ 審判は一応級がありまして、Jリーグの試合を審判するには1級という、上のライセンスが必要で、日本代表などの国際試合の審判なんかはその中でも選ばれた方です。私が持ってる4級は、1日の受講でたいてい取れるもので、市区町村レベルの大会で審判ができます。4級は日本で大体20万人ぐらいは取得者がいるんじゃないですかね、たしか。実は、小説のネタにもなれば良いなという気持ちもありまして、ある作家の方に審判を取得した話をしましたら、「子どものために審判を取得したサラリーマンが上の級を目指して奮闘する話なんか出来るよね」と盛り上がりまして、すぐさま執筆依頼をするという。編集者ってプライベートも仕事に繋がるなと改めて実感しました。

――休日もお忙しそうですが、何か息抜き的なことってされてるんですか。

トリハラ 子どもと一緒にサッカーをやってるのが息抜きにはなってます。また日々、作家さんとの付き合いの中で、ご飯食べたりお酒飲んだり、取材に出かけて色々なところへ行けるっていうのは役得ですし、作品を苦労して産み出す作家さんには申し訳ないですが、楽しくやらせていただいてますね。優等生っぽい回答になりますが、本当に天職だなと思って仕事をしています。

――noteの記事を読んでる方、オールの読者になるかもという方に、ひと言あればお願いします。

トリハラ 私も、オール讀物という雑誌には、自分が文藝春秋に入るまでは一読者として触れてまして、正直これだけ読み物の詰まっている雑誌ってなかなかなくて、憧れの雑誌の1つだったんですけれども。実際、いま編集に参加する立場になると、作家さん、編集部員もそうですけれども、小説の好きな人たちが、小説への愛を最大限に注いで作っている1冊だと断言できますね。ぜひ読み飛ばすことなく、最後のページまで読んでいただければありがたいです。

――今日はありがとうございました。

トリハラ ありがとうございました。


 以上でおしまいです。
 また折々、編集部員インタビューをお届けしたいと思っていますが、みなさんの応援が雑誌をつくる力になります。感想などお寄せいただけましたら、トリハラ青年も、シマダさんも、石井もうれしいです。

(オールの小部屋から⑮ 終わり)

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