医療職が起業家になるために必要な「マインドシフト」を考える- Healthcare Venture Knotでのメンター経験から見えてきたこと
医療職の皆さん、こんにちは。医師であり起業家として、3年間にわたってヘルスケアベンチャーの支援に携わってきた経験から、今日は特に「医療職が起業家になるために必要なマインドシフト」についてお話ししたいと思います。
詳しくは以下のHealthcare Venture Knotのサイトも見てみてね。
■医療職特有の「あるべき論」の罠
医療職の私たちには、特徴的な思考パターンがあります。それは「あるべき論」から発想してしまうことです。
例えば、こんな例を考えてみましょう。
「ラーメン二郎の前で健康診断をすれば、メタボリックシンドロームのハイリスク群にアプローチできるのでは?」
一見、医療的には理にかなっているように見えるこの発想。しかし、ここには重大な見落としがあります。
ラーメン二郎に来る人々は、別に健康になろうと思っていない!(異論は認める)
ラーメン二郎に来ている時点で健康への関心が必ずしも高くないのです。つまり、これは私たち医療職の「あるべき論」であって、実際のユーザー(患者)「ニーズ」ではないのです。
それなのにぼくら医療職はつい「ラーメン二郎を食べる人から健康にしたい!」と最もニーズから遠い人のサービスを考えてしまいがちです。
■ヘルスケア×ビジネスをするとはどういうことか
「ビジネス」という言葉に対して、医療職の中には違和感を持つ方も多いでしょう。メンタリング中に「お金稼がなくてもいいんですけど」とよく言われます。とても純粋な目で僕を見てきます、そこに悪意は1ミリも感じないので、本当にそう思っているのだと思います。
しかし、ビジネスの本質は「世の中のニーズに応えること」です。
実際、私たちが日々行っている保険診療も、社会のニーズがあるからこそ成り立っているのです。
重要なのは以下の3つの視点です:
実在するニーズに応えているか
そのサービスを必要としている人がいるか
提供する価値に対して、対価を支払ってくれる人がいるか
つまり、お金稼げないってことは、社会的にニーズがないか、価値に対して対価を払ってもらえていない程度のものかのどちらかに大別されるというわけです。
実際に僕ら医療者が病院からもらっているお給料はある意味サービスへの対価としてもらっているので、病院に患者が来たいというニーズがあって、それに応えた結果としてもらえている訳です。
*その上でヘルスケア領域で新規ビジネスを行おうとする場合の難しい点は、保険診療という7割引きサービスと戦う必要があるということなのですが、今回はその話するとキリがなさそうなので、つづきはヘルスケアベンチャーノットでお会いしましょう。
■スケールの重要性
医療職として大切にしたいのは「質の高いケア」です。みんなが純粋な目で僕を見てくる理由は、ピュアに診療の質を上げることだけを考えて相談してくるからです。
しかし、ビジネスとしての成功を目指すなら、外せない重要な視点があります。それは「スケール」することです。拡大をしてお金を稼ぐことで、また再投資をしてどんどんと大きくしていくことをビジネスとしては求められます。
「いやいや拡大なんてそこそこでいいんです」
これもとてもピュアな目でよく言われます。
違うんだ、お金を稼がないと君が大事にしているメンバーに一生給料が払えないかもしれないじゃないか。そして、お金がたくさんあったら、目の前にいる患者さんにもっといろいろなサービスを提供できる日が来るかも知れないじゃないか!
例えるなら、目の前の人をめちゃくちゃ幸せにし続けている無名の路上ミュージシャンと、ミリオンセラーのアーティスト。
どちらが良い悪いというわけではありません。目の前の人を幸せにする職業をとても尊いと思うし、あまりメディア露出とかしないでライブだけ続けるミュージシャンにめちゃくちゃ憧れます。自分しか知らないけど大好きなアーティストっているよね。
しかし、より多くの人々に価値を届けてようとするなら、多くの人に届け得られる方法を考える必要があります。それにはどうしてもお金(お金じゃなくても人の力や影響力としてもいいです)が必要なんです!
80点の医療を100人に提供できる人の方が、100点の医療を10人にしか提供できないよりも、社会全体への貢献度は高くなる可能性があるという考え方も出来ませんか?
もしそう思えたら、目の前の人だけ幸福に出来たら売れなくていいじゃなくて、売れることを考えなければいけないタイミングなのかもしれません。
■起業家としての決断
そんなこんなで、ぼくがメンターとして最も伝えたいことが、起業家としての「覚悟」なのかなと思うようになりました。目の前の患者さんだけでなく、より多くの人々の人生を良い方向に変えていく。そのために必要な決断を、自分の価値観と照らし合わせて行えるかどうか。それは時に臨床家としては悩むこともあるでしょう。
目の前の患者さんに対しての質を上げたいなら、無理にビジネスにせず、目の前にいる患者さんと向き合い続けられるように臨床を続けて研究や教育に回る道のほうが近道なのでは?と問いを投げかけます。
そう言われると多くの起業家は反論してきます。
起業する原点の多くは、臨床現場で解決出来ない課題感を持っていることが多いので、このまま臨床現場にいては解決出来ないと心のどこかで思っているからです。
メンタリングをする中で、どこまでのビジネスにしていくのか、どこまで診療の質を上げるのか、ToC(Theory of Change)という方法を使って、自分が達成したい目標に向かうために最速なルートを取るためにはどんな階段を踏んでいくといいか、じっくりと検討を重ねます。
例えばまずはお金を稼いで、ある程度のところで研究に利益を回して投資することなども丁寧に検討します。
最近メンタリングした事例では、看取りに向かう人に自己肯定感を高めるために美整容のサービスを届けたいというサービスを展開する起業家が、より多くの人々に価値を届けるために、化粧品販売という新たなビジネスモデルを検討しました。最初はブランディングされた化粧品を売るということに医療職として抵抗があることを伝えられました、この気持ちもとてもよく分かります。
ただ丁寧に議論を重ねる中で、むしろエビデンスを創出して、エビデンスに基づく化粧製品を生み出していくほうがいいかもと意識が変わっていき、スケールのために更にいろいろなビジネスモデルを考えていく決断を行ったのです。
■まとめ:医療職から起業家へ
医療職から起業家への転換で最も重要なのは、「目の前の一人を助ける」から「より多くの人々の人生を変える」というマインドシフトです。これは決して医療の質を軽視するということではありません。むしろ、自分のリソースを最大限活用し、より大きな社会的インパクトを生み出すための戦略的な選択なのです。
皆さんも、自分の持つ医療の知識や経験を活かして、より大きな社会貢献を目指してみませんか?
私たちには、医療という専門性を活かしながら、より多くの人々の人生を豊かにできる可能性があります。その可能性に向かって、一歩を踏み出す勇気を持ちましょう。
さいごに宣伝)
心が動いた人はぜひ、Healthcare venture knot2025へ応募してみてね!僕と一緒に優勝を目指そう。
まだ起業という方法が正解なのか迷っているけど、なんか臨床現場でモヤモヤしているんだよーという方は、ぼくらがやっているSHIPというヘルスケアコミュニティもおすすめです。