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[Director's Note]第20回BeSeTo演劇祭 BeSeTo+参加公演『My Journey to the West』

脳髄の旅

 自分が今いる場所は何処なのか、ソレを知る為には、此処ではない何処かに行く必要がある。言い換えれば、何処かに行ってしまえば、自分が居た場所が何処だったかを知る事になる。

 戦前、南洋庁の官吏としてミクロネシアに赴任していた彼は、そこで自分(それは、自分が属する国家や文化とも云える)と他者(この場合は、現地の住民たちであり、彼らの文化であろう)との違いを感じたと思われる。そして彼は、その後、異人種(場合によっては人と人だけに限らない)との交歓によって、自己の依って立つ場所を見出そうとする作品群を書き続ける中島敦という作家になった。

 今作「My Journey to the West」は、中島敦の未完の小説「わが西遊記」と幾つかの短編に材をとることで、近代の知識人が考えた(悩んだ)道行きを辿る、いわば中島敦の脳髄を出発点とするロードムービーだと思って頂きたい。この道行きが、何処へ辿り着くのか私はハッキリとした答えを持ち得ないが、旅を続ける事が必要なんだと、今は考えている。

 本日は、ご来場頂き、ほんとうにありがとうございました。

石井幸一


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