見出し画像

[Director’s Note] 横溝正史『犬神家の一族』

妄想の諏訪、信州の正史

 「信州財界の巨頭、犬神財閥の創始者、日本の生糸王といわれる犬神左兵衛が信州那須湖畔にある本宅で永眠した......」という書き出しから『犬神家の一族』という小説は始まります。なお、ここに書かれている「那須」というのは「諏訪」がモデルになっています。 1934年7月から39年12月までの5年半ほどの間、横溝正史は結核の療養のため長野県上諏訪に住んでいました。そして諏訪の滞在中に『鬼火』という短編小説を、戦後になってから『犬神家の 一族』を書き上げました。

 「私たちは自分の幸福のために戦わねばなりません。たとえ人様から非道の誹りを受けましょうとも」

 自分や自分の愛する人の幸福を願わない者はいないように思います。しかし自分が幸せになることが他者を不幸にすることだったとしたら......それでも自分は自分の幸福を求めることができるだろうか......『犬神家の一族』という物語にはそういう人間がずっと悩み続けている諸問題と、その回答を誤った人々が描かれています。

 閑話休題、横溝正史が20世紀初頭の諏訪に幻視した風景......そこに住む犬神家の人々の言葉、彼らの身の上に起こったこと......皆さんにはそれらのことを”かの有名な探偵”になった気持ちでご覧いただけたら幸いです。

 本日はご来場ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?