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とある研究者夫婦の里親奮闘記 その2

 年度代わりのバタバタで、気がつけば前回の記事(「とある研究者夫婦の里親奮闘記 1 」)から1ヶ月以上経ってしまいました。5月に入りようやく少し落ち着いてきたので続きです。
 さて、2017年の夏に初めて児相を訪問し「養子縁組里親」に登録しようと決めた私たちですが、実際に里親認定・登録が完了したのは2019年3月のことでした。今回の記事ではその1年半についてを書いていきます。

■ さあ、申請! … の前に

里親登録までの流れ

私たちが住んでいる東京都における里親登録までの流れは、以下の通りとなっています。

  1.  児童相談所へ問い合わせ

  2.  申請要件の確認※

  3.  認定前研修申込・受講

  4.  申請

  5.  児童相談所による家庭調査

  6.  児童福祉審議会里親認定部会で審議(隔月開催)

  7.  東京都知事が認定・登録(登録後、2年ごとに更新手続きあり)

※「2. 申請要件」について、東京都保健福祉局が発行している里親制度普及・啓発用パンフレットでは以下のように説明されています。 

● 都内在住の夫婦で健康な方。(養子縁組里親については婚姻している夫婦による家庭であることが、認定要件になります。)
●  配偶者がいない場合は、子供を適切に養育できると認められ、かつ、起居を共にし、主たる養育者(申込者本人)の補助者として関わることのできる成人の親族等がいること。(子供を適切に養育できると認められる特段の事情がある場合は除く。)
● 経済的に困窮していないこと、かつ、原則として世帯の収入が生活保護基準を上回っていること。(養育家庭(親族)及び親族里親を除く)
● 申込者の住居が、家族の構成に応じた適切な環境であること。
● 申込者と起居を共にする者が、子供の受託について、十分な理解を有していること。
● 申込みの動機が子供の最善の福祉を目的としていること。
● ご家庭は、「里親が行う養育に関する最低基準」を守って子供の養育にあたっていただくこと。

東京都健康福祉局(2021)『家庭を必要としている子供がいます~東京都の里親制度について~』

東京都は長く同性カップルを里親から除外していましたが、2018年10月1日施行の認定基準見直しにより、少なくとも「養育家庭里親」に関してはその状態が解消された形となっています。また年齢上限については、養育家庭里親ならびに特別養子縁組里親ともに、この基準改正で撤廃されています。

参考: 東京都里親認定基準

さて、私たちは児童相談所(以下、「児相」)を訪問したことで、里親登録までのステップ「1. 問い合わせ」「2. 申請要件の確認」を順調にクリアしました。ところがその後「 7.  登録」までには約1年半もかかってしまったのですが、その律速段階となったのが「3. 認定前研修申込・受講」でした。


認定前研修の日程が合わない…涙

児相を訪問し「養子縁組里親」に申請しようと決めた私たちは、さっそく認定前研修に申し込むことにしました。

認定前研修は、座学2日間と施設見学実習1日間※の集合研修です。
座学では専門家や里親経験者から「社会的養護」という概念や「子どもの養育」に関する知識を学び、施設実習では「児童養護施設での生活」体験を通して子どもに関する理解を深めることになっています。
(※ 私たちが受講した当時は1日間でしたが、現在は2日間となっているようです。)

3日間の研修ですので、研修そのものが律速になった訳ではもちろんありません。とにかく大変だったのが日程調整でした。

当たり前ですが、座学・施設見学実習のいずれも夫婦(もしくは同居する養育を補助する人と共に)揃って受講しなければなりません。

児相の方から隔月開催される認定前研修の日程表をもらったはいいのですが、2017年度に開催される日程はすべて、私か相方のどちらかがどうしても調整不可能な仕事(入試関連業務など)が既に入ってしまっていました。
なんとか日程を空けられないか調整を試みたのですが、結局、当該年度での研修受講は諦めざるを得ませんでした。


■ 児相訪問から1年、やっと認定前研修です!

「お待ちしておりました!」

児相の方に紹介していただいた里親関連の勉強会への参加はしていたのですが、肝心の認定前研修の日程がなかなか合わないまま、気がつけば1年が経過してしまっていました。2018年の夏にようやく認定前研修を受講することができた際、児相の里親担当の方に「お待ちしておりました!」と出迎えていただきました。


色んな意味で興味深かった座学研修

座学では、2日間かけて以下の科目を受講しました。

  • 社会的養護・制度説明

  • 養護原理

  • 小児医学

  • 発達臨床心理学

  • 児童福祉論

  • 里親養育援助技術

  • 里親養育演習(グループ討論含む)

  • 特別養子縁組: 家族を迎える

基本的にとても参考になる講義でしたが、特に印象に残っているのが「児童福祉論」です。当該科目担当の講師が、子どもの権利を第一に考えることの重要性やその歴史的経緯についてとても分かりやすく概説されていて、思わずその場でその講師の方の論文を検索して読み始めてしまっていました。それは相方も同じだったようで、2人とも同じことをしていることに気づいたときは「職業病やね」とお互い苦笑いしていました。

そしてもう一つ、複雑な気持ちになったという意味で印象に残っているのが、「血縁主義」を想起させるレトリックを多用される講師の方がいたことです。これから里親になりたいと思っている人たちに対して、「血縁のある人の元にいることが子どもの最高の幸せである」かのような言い方をする必要はないはずだと、とても複雑な気持ちになったことを今でも覚えています。


「生きる力が弱い子どもがいる」

施設見学では、都内のある乳児院を訪問・見学し、乳児院での子どもたちの生活の実際についての説明を受けました。このときお聞きしたことは、実際に里子交流・委託が始まった後、「ああ、あのときおっしゃっていたのはこういうことだったのか」と何度も実感させられたことばかりでした。

たとえば、一緒に見学していたある夫婦の方が「子どもを迎えいれるために大切な準備はなんですか?」と質問された際、乳児院の方は迷わず「夫婦2人だけの時間を大切に過ごしてください」と回答されていました。
子どもができたら生活が一変するというのは、何も里親・里子だからのことではありません。ただ、自分が体験して思うのは、本当に、本当にここまで一瞬にして世界が変わるのかということです。もし今同じ質問を受けたら、私も「夫婦2人で過ごせる今の時間を大切に過ごしてください」と答えるだろうと思います。

もう一つ、とても印象的だったのが、施設の専門家の方がされた「生きる力が弱い子どもがいる」という表現です。安心できる場所がない、あるいは早期にその場所を喪失してしまうことがいかに子どものその後に影響してしまうのかを考えさせられました。その後、実際に子どもとの交流が始まったとき、何かをうかがうような、声もほとんど発さない子どもの様子に、「生きる力が弱い」という表現に妙に納得してしまいました。

子どもの「生きる力の弱さ」は交流中もしばらくは感じてました。でも自宅に子どもを迎え入れて2年弱たった今では、むしろウチの子は「生きる力」に溢れすぎていると言っても過言ではありません。子どもにとって私たち家族が安心できる場になっているのだと思うと、とても嬉しい気持ちでいっぱいです。(実際に子どもとの交流が始まってからのことは、また後日に書こうと思います。)


■ 申請、そして登録完了

「主たる養育者」って何さ

そんなこんなで2018年9月、無事里親認定前研修の修了が認められました。次のステップは、管轄の児相への申請書類の提出です。当時の申請書の記載項目は、だいたい以下のような感じです。
(今も同じかどうかは分かりません。)

家庭の状況

  • いつ結婚したか

  • どんな家に住んでいるのか・間取り図

  • 経済状況(収入・支出、資産、借金など)

  • 希望児童(年齢、性別)


里父になる者・里母になる者それぞれについて

  • 経歴(出身地、学歴、職歴、健康状態、趣味、資格など)

  • 里親志望動機

  • どのような子育てをしたいか

  • 里子を受け入れた時の生活や家族の変化についてどのようなイメージを持っているのか

  • 親族・兄弟(姉妹)の構成・交流状況

  • 親族は里親申請することについてどう考えているか


「主たる養育者」をどちらか一人にマルをつけなければならないことにブツブツ文句を言いつつ、懐かしの藁半紙に手書きで書き込んでいきました。


終始なごやかだった家庭訪問

申請書を提出した後は、管轄の児相職員・都の関係者・心理士の方による聞き取り調査(2-3時間)です。この頃には私が職場を異動していたこともあり、平日日中での日程調整がしやすくなっていたことから、申請書を提出して 1, 2週間ほどでの家庭訪問となりました。

家庭訪問当日に確認するとのことで、資産関係の証明書類を急いで揃えなければならなかったのがちょっと面倒でしたが、聞き取り調査自体は、申請書類に書いてあることを一つずつ確認される形で終始なごやかな雰囲気で進みました。私が職場を数年単位でコロコロ変わっていることを突っ込まれたときだけは、生活が安定しない人間ではないと、必死で業界事情を説明しましたが苦笑。

申請書類の項目になかったことで聞かれたことといえば、幼少期にどのようなことで親に怒られたかといったことくらいだったと記憶しています。あとは家の本棚の話でしょうか。心理士の方が、スピヴァクやサイード、その他文化人類学関係の本に反応されていました。


登録完了、早速の…

家庭訪問を終え、その後「6. 児童福祉審議会里親認定部会の審議(隔月開催)」「7. 東京都知事による認定・登録」を経て、2019年3月、ようやく「養子縁組里親」としての登録が完了したとの通知が届きました。

と同時に児相から電話があり、「早速ですが…」と子どもの紹介が。このときはまだプロセスをきちんと理解できていなかったために、こちらが返事をすればすぐ交流が始まるものだと勘違いしてしまい、その後我が家の中でちょっとした騒動(?)が起こるのですが、それはまた次の記事で。

次はもう少し早く更新できるといいな。
ではでは。



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