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とある研究者夫婦の里親奮闘記 その1

 2021年12月下旬、かねて家庭裁判所に申し立てていた特別養子縁組の審判が無事確定しました。出会って約2年、4歳になった息子と私たち夫婦はついに戸籍の上でも「親子」になりました。いままでは「養子縁組里親として里子を受託・監護している」という立場でしたが、名実ともに「親子」となったことで色々な制約が外れたこともあり、これまでの経緯を note に書いて公開することにしました。
 息子と私たち夫婦が特別養子縁組であることは、周囲にも息子本人にもオープンにしています。もちろん息子のプライバシーに深く関わることには触れませんが、この投稿では、手続きで戸惑ったことだったり、思わぬ制度上の落とし穴に嵌ってしまったことだったり、生活が一変しててんやわんやの大騒ぎをしていたことだったり、そんな里親時代の奮闘記を徒然なるままに書いていければと思っています。

■ 特別養子縁組に向けて動き出すまで

 私(40)と相方(39)はともに大学に勤務する研究者夫婦です。 今年で結婚11年目になりますが、特別養子縁組に向けて具体的に動き出したのは結婚7年目のタイミングでした。相方はテニュア、私はまだ任期付の特任講師だったときです。
 里親奮闘記#1として、まずはそんな私たち夫婦が特別養子縁組に向けて具体的に動き出すまでの経緯を書きたいと思います。

私が「里親」に関心を持ったワケ

特別養子縁組に関心を持つ理由は人それぞれだと思います。
私たち夫婦の場合、私の方が結婚する前から「社会貢献」として里親になることに関心があったことがきっかけでした。

私は分子生物学分野で博士号を取得後、すぐに民間企業に就職しました。そのおかげで大学院生時代と比べて時間的にも経済的にも精神的にも余裕ができたことから、なんとなく、本当になんとなく、貧困地域のこどもの生活・教育支援をする国際NGOへの寄附を始めました。

なぜ「こども支援」だったのか。もともと「こども」が好きだったという訳ではありません。ただこの頃の私は、ぼんやりと「自分では子どもを産んで育てることはないだろう」と思っていました。

時代は変わってきているとは言え、博士後期課程の学生だったときに聞き飽きるほどよく言われた「バイオ・博士・女性の三重苦」「どうせ女性は30歳までしか使えない」といった言葉に辟易していたのかも知れません。「妊娠し出産する性」としての自分にはまったく価値が見出せませんでした。だからこそ、どこかに寄付をするのであれば自分とは縁遠い「子ども」関係のところにしようと思ったことを覚えています。

そんな「なんとなく」で始めた寄附でしたが、団体からの活動報告書等に目を通しているうちに、「家庭で育つことのできていない子ども」のために、その子の里親になるという選択肢に興味を持つようになっていました。

35歳になったら里親登録しよう

その後、私が29歳のとき、当時まだ大学院生だった今の相方と結婚することになりました。結婚する際に相方への私からの要望として伝えたのが、妊娠しなくても不妊治療はしたくないこと、里親制度に関心を持っており二人の生活が安定したら里親登録したいことの2点でした。

どうやら相方も「血の繋がり」へのこだわりはなかったようで、特に揉めることもなく、自然と「じゃあ35歳になったときに二人の生活が安定していたら里親登録しよう」と二人で約束をしました。

やがて相方が35歳になったとき、私は民間企業を退職して大学の任期付き特任教員という不安定な身分に転職していましたが、幸いにも二人の生活は比較的安定していました。そこで私たち夫婦は当初の約束どおり、里親登録に向けて具体的に動き出すことにしました。2017年7月のことです。

「里親登録」と「特別養子縁組」

「里親登録」と「特別養子縁組」の関係について、少しずつ啓発・普及キャンペーンが進められてきていますが、まだまだ知らない方も多いと思います。そこで私たちの話をする前に里親制度について少しだけ触れておきたいと思います。

何らかの事情で親元で暮らすことのできない子どもたちを家庭に代わって公的に育てる仕組みを「社会的養護」といいます。里親制度は児童養護施設や乳児院にならぶ社会的養護の一つの形態です。そのため里親制度には、特別養子縁組を目的とする「養子縁組里親」の他にも、養子縁組を目的とせず一定期間子どもを預かり育てる「養育家庭(里親)」という種別があります。

(参考)東京都の里親制度について

特別養子縁組によって子どもを迎え入れるには、居住自治体の「養子縁組里親」に登録し児童相談所を介して子の紹介がされるルートの他に、民間あっせん事業者を介してなされるルートがあります。児童相談所ルートとは異なり、民間あっせん事業者ルートでは各自治体での里親登録は必ずしも必要ではありません。

私は初めから特別養子縁組ありきで検討していたわけではなく、「養育家庭(里親)」にも関心がありました。そこで相方にも相談し、民間あっせん事業者には登録せず、里親制度を担当する児童相談所ルート一本でいくことを夫婦で選択しました。


■ いざ、児童相談所へ

まさかのハードル

里親登録のために管轄の児童相談所に連絡しようとして早々、私は予期していなかった最初のハードルにぶつかりました。

「連絡手段は電話のみ!?」

おそらく多くの人にはまったくハードルでも何でもないことだと思いますが、とにかく電話が極端に苦手な私にとっては、それはもうかなり大きなハードルでした。

どこかにメールアドレスが記載されていないか必死で探し、見つけた!と思ってメールを送ったら、随分と時間がたってから「こちらに電話してください」という返信が届き…

気合を入れて電話をし、無事担当の方とアポイントメントが取れたときには、正直とてもほっとしました。

第一印象

そうして最初のハードルを乗り越えた私は、夫婦二人そろってが原則ということで、夫と同じ日に有休をとって二人で児童相談所を訪れました。

初めて訪れたときの第一印象は、
….廊下めっちゃ暗い。

予算が厳しいパブリックセクターあるあるだと思うのですが、経費節約のために廊下の照明が半分未満に減らされていて、昼間なのに非常に暗い状況でした。かつての大学の暗い廊下を思い出し、ここも少ない予算でギリギリがんばってはるんやなぁとぼんやりと考えていました。

会議室に案内されると、里親担当の方から里親登録したい理由を聞かれたのち、制度の概要、里親登録のための要件の説明を受けました。(このあたりの対応や方針等は各自治体・児童相談所によってかなり異なっているため、実際に検討される際には居住地域を管轄する児童相談所からの情報収集を行ってください。)

児童相談所の里親担当の方からの説明を受けていて印象に残ったのは、とにかく「子どもの福祉のための制度だ」ということを何度も何度も強調されていたことです。他にも、委託を待っている子どもたちは何らかの事情を抱えていること、里親側の希望(年齢・性別等)通りのマッチングを行う訳ではないことなども丁寧に説明されていて、ある種の覚悟を問われているように感じました。

私たち夫婦は特に不妊治療はしていないことを話すと、少しだけ意外そうな表情をされたのを覚えています。里親を希望する夫婦の方々には、不妊治療等を経て最後の希望として特別養子縁組を検討している方が少なくないのだろうなと思わされる瞬間でした。

共働きでも大丈夫?

なお私たち夫婦の場合、里親登録にあたって一番気になったのは「共働きでも大丈夫か?」というところ。これに対しての返答は以下のようなものでした。

「共働きでも里親登録できるし、実際に里子委託されることもある。
ただケースによっては不利な条件だとみなされることはあり得る。」

要は、委託までのプロセスでは保育園やベビーシッターに預けることが一切できない期間があり、その期間に夫婦のどちらかが子育てに専念できる状態が作れるかが問われるとのこと。

「なるほど、育休を取ればいいのか」

と、当時の私たちは単純に思っていたのですが、それがかなり甘い認識であったことを後で痛感させられました。

ポイントは改正育児・介護休業法(2017年1月1日施行)です。それまで育児休業等が取得できる対象となる子は「法律上の親子関係がある実子・養子」だけでしたが、この法改正によって「特別養子縁組の監護期間中の子、養子縁組里親に委託されている子等」も追加されました。

この法改正を知っていたため、私たちは里親になれば育休が取れるとすっかり思い込んでしまっていました。ところが、いざ具体的な話になると「育休取れない」落とし穴だらけ。結局私たち夫婦はどちらも育休を取ることはできませんでした。これについては、言いたいことが山ほどあるので追々書いていこうと思います。

「養育家庭(里親)」か「養子縁組里親」か

さて、児童相談所からの説明を聞き、改めて「里親登録する」という決心を固めた私たちですが、次は「養育家庭(里親)」か「養子縁組里親」のどちらに登録するか、という選択が待っていました。

少し古いデータですが、2015年3月末現在の福祉行政報告例のデータによれば、養育家庭(里親)の登録数 7,893世帯のうち、子どもが委託されている委託里親は2,905世帯(36.8%)なのに対し、養子縁組里親は登録数3,072世帯のうち委託里親は222世帯(7.2%)と非常に少ない割合となっています。

「養子縁組里親」だと委託のないまま何年も待ち続けることも少なくないことや、もともと独身時代には「養育家庭(里親)」への関心が始まりだったことなどもあり、私は「養育家庭(里親)」への登録を考えていました。しかしながら、「子どもの親権は自分たちで持ちたい」という相方の強い希望もあり、最後には二人で相談して「養子縁組里親」に申請することにしました。

その後の里親の申請から正式に里親登録されるまでについては、次の「里親奮闘記 2 」で書きたいと思います。

それでは、また次のエントリーで。

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