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「支援学」(Helping)への招待 #5 - 役割を演じる?

引き続き「Chapter 2 経済と演劇」の内容を見ていきます。今回のポイントは、「演劇」の部分が意味することについてです。

前回見たように、シャインさんは人間関係に経済(価値の交換)の側面があると考えました。人を助けることにおいても、「助ける↔︎感謝する」という価値の交換が行われているからです。

そして、価値の交換が成り立つためには、その状況に相応しい役割を演じなければならないと言います。具体例を見てみましょう。

パソコンの電話相談サービスの係に、個人的な問題の解決に関わってもらうことなど期待できない。そうした問題に係が関心を示さないからといって、感情を害するのも間違っている。一方、助けを必要とする個人的な問題について友人に話した場合は、注意を向け、心配してくれることを期待するものだ。もし、そうした関心を払ってもらえず、何の説明もなければ、助けを求めた人が腹を立てるのは当然だし、今後はその相手に支援を求めようとしないだろう。

『人を助けるとはどういうことか——本当の「協力関係」をつくる7つの原則——』 pp.59-60

私たちは、その場面その場面で、一般的に想定されていることが実際に行われることを期待しています。これらの例が示すように、期待と反する状況が生まれると、支援関係はうまく築かれません。実際は、例のような単純な状況ばかりではなく、もっと複雑な状況で役割の選択を行なっていることでしょう。

国や組織の文化の違いを理解することも、重要なポイントとなります。転職したことのある人なら、会議の進め方、メールの書き方、資料の作り方などについて、転職前の会社では好ましいとされていたやり方が新しい会社では通用しなかった、という経験があるのではないでしょうか。文化の違いを十分に理解していないと、ときに修復が非常に困難な状態になってしまう危険があるといいます。

南アフリカで白人の監督が、金鉱で労働者たちに罰を与えたときがそうだった。反抗的で信用できないからという理由だったが、労働者たちがこそこそした目つきをして、「決して目を合わせない」せいだったのだ。監督者たちは知らなかったが、その労働者たちが育った部族のルールには、目上の者の目をまともに見てはいけないという基本原則があった。

『人を助けるとはどういうことか——本当の「協力関係」をつくる7つの原則——』 p.52

私たちは、他者との関係において、常に自分たちが置かれている状況を把握し、相応しい役割を選択し続けるという、とても複雑な処理を行なっているのだということが分かります。これが、支援という営みの難しさであり、最大のやりがいでもあると思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。

シャインさんの言葉を最後にもう一つだけ引用して、今回の記事を締めたいと思います。

つまり支援とは、あらゆる社会的行動の根底に存在する交換という日常的なプロセスであると同時に、ときには通常の流れを邪魔して、とりわけ気配りを持って扱わねばならない、特別なプロセスでもあるのだ。

『人を助けるとはどういうことか——本当の「協力関係」をつくる7つの原則——』 p.60

次回は、「Chapter 3 成功する支援関係とは?」に入ります。次の章では、再び「心理的な力関係」に焦点が当てられていきます。

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