見出し画像

#05 『稲葉』

みんなは芸能人に会ったことはあるだろうか。

イベントやコンサート会場などではなく、
プライベートな感じで、という意味で。

おそらく1人や2人はあるのではないだろうか?
いつもテレビなどで見ている人が
自分の眼の前に現れるととてつもなく興奮するだろう。
私も興奮した、初めて島崎俊郎を見たときは。

あれは忘れもしない、サッカーの警備員のバイトをしていた時のこと。
私はスタジアム内の通路を警備していた。
はっきり言ってこの場所の警備は運が悪いというかつまならい。
サッカー場の警備はいろんな箇所を3人1組で警備するのだが、
一番良い場所がスタジアムでの観客警備。
ちょうどコーナーキックの後ろ側で、観客を見ながら警備するポジションだ。
コートと真反対を見ているので試合は見れないが、
サポーターの歓声が大きくなったときに
こっそりちらっとコートを見たりしていた。

話が飛んだが、そんな花形のコート上警備とは正反対の
通路警備をしていたとき、
その試合のイベントゲストとして来ていた
島崎俊郎が私の眼の前を横切ったのだ!!!

初めての芸能人を間近で見て本当に興奮した。
しかし警備員は声をかけてはいけないので、
サインをもらうことはできない。
そこで私は頭の中であるシミュレーションをして
眼の前を通過していく島崎俊郎を見て声をかけるのを我慢した。

(もしも警備のバイト中ではなく、街でばったり遭遇したらなんて声をかけようかな。そもそも声をかけたらまずいのかな?いや、お笑いタレントだから気さくに対応してくれるかもしれない。となるとあれだ、声をかけるならあの一言しか無い。「すいません、もしかしてアダモちゃんですか?」だ。そんなこと言われたら島崎俊朗は反応せざるをえないだろう。「ペイ!!」って。)

最高だ。危うく目の前の島崎俊郎にペイ!しそうになった。
できることなら街でバッタリお会いしたかった。

嬉しさと残念さが入り混じった気持ちのままバイトを終え
家路へと向う途中、ある群れに遭遇した。

大勢の女性が黄色い声援を張り上げながら
ある男性を囲んでいたのである。
人数は100名以上はいただろう。

私はすぐにピンときた。
「あ、これはきっと有名人がいるんだろう」と。
ちょっと気にはなるが、あまりにも人が多いので誰なのかが確認できない。
しかし状況から察すると、サッカースタジアムの近くのホールの目の前の出来事なので、きっとこのホールでライブをしたアーティストなんだと察した。

ホールの入り口に目をやると「B’z」という文字が飛び込んできた。

きっとライブを終えた稲葉さんを出待ちしていた女性が取り囲んでいるのだ!
島崎俊郎の次はあのB’zの稲葉さん!!!!
なんていう日なのだ!!!
しかしこれは、夢じゃない、あれもこれも!!!!

興奮を隠しきれない私もじゃじゃ馬の1人になろうとしていた矢先、
ファンの女性たちおよそ100名が稲葉さんを取り囲むどころか、
乗りかかったのだ。

これは危険である。
ウルトラソウルである。
このままでは稲葉さんが危ない。
助けなければ。

黄色い声援と赤い悲鳴が響く中、
私は懸命に稲葉さんに群がる人を阻止しようとしたが、
たった1人ではどうすることもできない。

ライブ会場の警備員は何をしているのだ!
こんなことになることなんて予想できただろうに!!
どこの警備会社だよ!と憤りを感じていてた。
もうだめだ、明日どえらいニュースになるぞ…
何とも言えない気持ちになっていたら、
ようやく大量の警備員が駆けつけ、大勢のファンを払いのけたのである。

私は救急車を呼ぶ準備をしていたが、
目の前に現れた無傷の稲葉さんを見て驚き、
思わずこうつぶやいた。

「やっぱり稲葉だ、100人乗っても大丈夫…」と。


100円くらい意志雄にあげてもいい、それすなわち、隠れイシシタン!