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『発達系女子とモラハラ男―傷つけ合うふたりの処方箋』を読んで

『発達系女子とモラハラ男』鈴木大介著・いのうえさきこ漫画(晶文社)

 白状しよう。いわゆる発達系女子である私だが、夫に「なんでお前はまともなことが出来ないんだ」と言われ続けてきた。
『ウツ婚‼︎なんて本を出しちゃったから、パートナーと上手くいってないなんて言いづらかった。だが、それこそ『ウツ婚‼︎のラストに書いたように、「結婚は地獄の始まり」だったのである。パートナーシップはつらいよ。

夫から「まともなことが出来ていない」と言われる度、「まともって何だよ!」という逆ギレと「出来ないことの説明が出来ない」という混乱と「やっぱりまともじゃないんだ…」という悲嘆が相まって、私は「ごめんなさい」という言葉で自責と罪悪感を上書きし、すごすごと布団に潜り込んで認知資源の回復をしていた。夫から見れば、「テキトーに謝って寝逃げ」である。


本書は、発達障害系女子(発達障害特性を持つ女性)及び、そうした女性と共に暮らす男性パートナーに向けた一冊。著者自身のお困りごとからパートナーの障害特性を読み解き、そんなふたりがパートナーシップを形成していく戦略や心得の試行錯誤が漫画を交えて綴られている。

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発達系女子である本書のお妻様に、私は自身を投影し「わかる!わかるよ」と涙しながら読み進めていたのだが、この度初めて「定型発達者のわからなさ」がわかった!

例えば、【妻の怖れる「誤った返事」】の箇所では
夫「(自分の話は)分かりづらいですか?」
妻「言い方がきつい」
夫「言葉が難しい?」
妻「言い争いが嫌」

とあり、夫である著者は「?」となるのだが、発達系女子であれば瞬時に合点が行くだろう。今まで何十年も他者とのコミュニケーションで失敗をし、その度に叱られ否定されてきた私たち発達系女子にとって、「コミュニケーション=恐怖&緊張」なのである。
しかし家族や夫婦にコミュニケーションは避けて通れない。でも出来ない。失敗する。親密性とか、そんな次元の高い話ではないのである。「会話が噛み合わない」のである。「家事の分担が出来ない」のである。「将来の話」など、雲の上の話なのである。

しかし著者は、発達系女子の話をきちんと正面から聞いてくれている。そのことが純粋に嬉しい。本当に、心から嬉しい。聞き直してくれている。質問してくれている。わかろうとしてくれている。ただそれだけで、涙が出るほど嬉しい。

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そして本書は決して奇跡の物語ではなく、かなり実用的な内容である。なぜなら「知識ではなく、理解と想像力」によってパートナーシップが形成されているから。はっきり言ってパートナーの障害特性への医学的知識がなくてもいい。障害特性は一人一人違う。だから目の前にいる自分のパートナーへ、真の意味で目を向ければ良いのだ。それは発達系女子自身をも自己理解へと誘う。
更に言えば、発達系女子は定型発達のパートナーのわからないことがわからない。想像力を持って互いの理解を目指し慈しみ合う関係こそがパートナーシップなのではないだろうか。そうであるなら、発達系女子が読んでもそのパートナーが読んでも役に立つ一冊であるということだ。


発達系女子の一人として、いつもご迷惑おかけして申し訳ありませんと思わず言いそうになる。しかし、ここはお妻様と著者に敬意を表して、あえてこう言いたい。
「あんたら!ようやく私たちの気持ちがわかったか!」

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#発達障害 #高次機能障害 #パートナーシップ #鈴木大介 #いのうえさきこ

(注・本書では「発達障害当事者と定型発達者が双方で傷つけ合う姿は、当事者の男女を問わず(中略)そんな中で本書のテーマを発達障害当事者の『女性』とのパートナーシップに限定する理由は、(中略)日本の家庭やパートナーシップにおける発達系女子の困難の多くが『この国のジェンダーロール』に起因する部分が多く、男性当事者をパートナーにする場合と困りごとの形が大きく異なってくると僕が感じているからです」とあり、このnote本文のように「夫」のような表記はなされていない。
しかし、ここでは敢えて単純なジェンダーロールの表記を用いて、そこよりも本書で描かれる理解や想像力といった中身に注目して頂きたかった。著者の配慮に沿わない表記であることは明らかにしておきたい)


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