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これがバイトダンス流。Douyin(抖音)の誕生と初期グロース

2016年までに、グローバル各国でショートムービーサービスが勃興し、Douyin(中国版TikTok)の原型が出来上がりつつあった。当時の状況はこちらのnoteを。

2016年前半の中国インターネットはライブストリーミングに最も花を咲かせていたが、動画も依然としてホットだった。バイトダンスが既に成功させていたニュースアプリToutiao内でも、動画の視聴時間が伸びていた。バイトダンスはこの領域に足を踏み入れることに決める。

一番良いものを模倣する

NetflixやHuluのような長編ビデオプラットフォームはBAT(Baidu/Alibaba/Tencent)が既に大金を注ぎ込んでいて、勝ち目がない領域だったため、バイトダンスは短編、中編の動画領域に注目する。

とはいえ、中国のショートムービー領域も既に先駆者たちがいたことは前回のnoteの通りだ。Meipai、Xiao Ka Xiu、Miaopai、その他欧米のVineやDubsmashを真似たようなサービスもあり、既にある程度レッドオーシャン化していた。

そんな中でバイトダンスがとった戦略は、一番良いものをマネすることだった。バイトダンスは、既に世界で成功している3つの動画のプロダクトをコピーすることにした。

1つ目が、YouTubeを模倣したXigua Video (Watermelon)。

2つ目が、既に中国で流行っていたKuaishou(快手)を模倣したVolcano Video(火山小视频 / Huoshan)。KuaishouはTikTokと同じショートムービ型だが、中国の田舎の人をターゲットにしていて、無名の一般人が作成した日常の動画が多い。詳しく知りたい人はEast Venturesの村上さんのnoteをぜひ。

最後の3つ目がA.me。これは欧米で流行していたmusical.lyを模倣したものだ。

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3つのプロダクトのうち、初期にバイトダンス本社の予算が最も多くあてがわれたのがVolcano Video、火山だ。コピー先のKuaishouの成功から、うまくいくプロダクトであることが既に判明していた。

そんな期待を背負った火山はのちにはTikTokブランドに吸収されてしまうのだから面白い。(抖音火山版という名前を称し、別プロダクトのまま)

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抖音火山版ホームページより

火山に対して、バイトダンスが一番期待していなかったプロダクトがA.meだ。コピー先のmusical.lyは中国マーケットで一度失敗していた。

TikTok前身musicallyの初期グロース戦略およびコミュニティの作り方

Q. 最初から西側諸国でヒットになるプロダクトだと分かっていたのか?それとも、中国でもトライはしたのか?

A. 中国版と英語版のアプリを用意した。アプリストアにリリースしてみると、ダウンロードとリテンションが中国では悪く、米国はめちゃくちゃ良かった。それで中国版は削除し、米国版にフォーカスすることにした。

2016年の後半は、musical.lyはグローバルでも、グロースがピークアウトしていた時期だ。

musical.lyの拡大は最初の2年で頭打ちとなり、既にピークを過ぎているとの噂があった。実際にGoogle Trendsで「musical.ly」と調べてみても、ピークは2016年6月で、それ以降は右肩下がりになっている。

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また、前回のnoteに出てきた、2015年に中国でローンチされ話題になったXiao Ka Xiuの人気も落ちつつあった。Xiao Ka Xiuにはリップシンクのコンテンツもあった。

たった10人の新規事業チーム

既に2,000人を超える従業員を抱えていたバイトダンス社であるが、A.meのチームに割り当てられたのはわずか10人程度。

Beijing Weibo Vision Technology Co., Ltd.という名前の子会社として、バイトダンス本体からは切り出された。会社の責任者は、チャン・イーミンの大学時代の同級生にして、バイトダンスの三番目の社員でもあるLiang Rubo(梁汝波)。

ニュースアプリToutiaoのユーザーは受け身でニュースのコンテンツを消費するが、動画SNSの場合はユーザーが積極的にコンテンツを投稿しないといけない。

そこでアサインされ、プロダクトチームを率いたのが、プロダクトマネージャーのKelly Zhang。彼女が創業した写真共有アプリのPicture Bar(Tuba)がバイトダンスに買収される形で、2014年にジョインしている。

musical.lyをコピーして作ったβ版はバグだらけでまともなものじゃなかったが、2016年9月にはなんとか正式版をリリース。

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これが鳴かず飛ばず。まだバグだらけだった。

ある日、アクティブユーザーのカウントから会社の関係者を除いてみたら、アクティブ率が半減した。社内では「もうサービスを閉じるか?」「このプロダクト自体に信念を持てない」「あまりにも希望が無さすぎる」という声も出ていた。

初期にアプリに招待したカナダ在住の中国人クリエイターは「この壊れた古い車で、高速道路に乗りたいのか?」と揶揄した。

その後、運営は、他のプラットフォームから20人ほど連れてきて、A.meの公認クリエイターとした。まず彼らに魅力的なコンテンツを投稿させ、他の一般ユーザーを啓蒙しようとした。その結果、musical.lyと似たように、小中学生にはある程度うけたが、musical.lyと同じようなカルチャーやエコシステムがない中、子供が作れるコンテンツも限られていて、やはり面白い動画を投稿する人が少なかった。

運営は人気クリエイターを王族のように扱った。オペレーションチームは彼らと個別に毎日話した。彼らのアイデアに耳を傾け、彼らがプラットフォームのグロースに参加してるような気持ちにさせ、プラットフォームの方向性を形成しているかのように。A.meは各クリエイター個人に対してアカウントマネージャーをつけて、彼らを満足させるためにはなんでもやった。夜ご飯を買ってあげたり、学校の宿題を手伝ってあげたり、恋愛の相談に乗ってあげたり。北京のユーザーをバイトダンス社のカフェテリアに招待してご飯を御馳走しながらヒアリングすることもあった。

このへんはmusical.lyのグロースの話でも出てくる「Participatory Design(参加型デザイン)」と通じる。

TikTok前身musicallyの初期グロース戦略およびコミュニティの作り方

最後に、ユーザーとすごく近い距離にいないといけない。我々はParticipatory Design(ユーザー参加型デザイン)と呼んでいる。最初から、エンドユーザーをデザインのプロセスに巻き込む。musical.lyの数百のユーザーとWeChatで繋がっていて、日々会話している。 プロダクトについての会話だけでなく、冗談を言い合ったり、普通の会話もする。アメリカのティーン・カルチャーに浸ることが大事。全てのデザイン、特に重要なデザインはコードを書く前にまず最初にユーザーに見せてフィードバックをもらっている。

運営は、初期ユーザーと対話する中で出てきた、ミームなど様々なアイデアを正式な動画コンテンツ企画として採用したりした。

良い動画クリエイターにはカメラや芸能人のグッズ、お菓子などのご褒美をあげた。「最も人気なクリエイターリスト」、「最もアクティブなクリエイターリスト」、「ウィークリールーキーリスト」なども用意し、コミュニティを醸成しようとした。

リブランディング

A.meが最初に鳴かず飛ばずだった原因でもある、バグが大量にあるというのは直っていて、上記のように、色々と試行錯誤もしていたものの、A.meはそもそものポジショニングで迷走していた。

A.meはプレ・ティーン、ティーン、20代前半を惹きつけようとした。

そこでアプリの名前を変え、リブランディングすることで、より正確なターゲット、トレンドに敏感な都会の若者にフォーカスすることにした。

(SNSが若いティーンをターゲットに据えることはよくあるが、その中でもさらに細かくターゲティングしているのは面白い。)

A.me(Awesome me)という名前は中国人にとって直感的に理解できるものではなかった。音楽に合わせて体を動かすイメージで、震える音、「抖音」という名前が出てきた。次はロゴだ。

ロゴのデザイナーはコンサート、特にロックコンサートに行くのが好きな若い男性だ。彼がロックバンドのライブに行ったときに、暗闇に囲まれながら、多くの観客の中に立っている時に、眩しいステージを見上げた。その時にロゴのアイデアをインスパイアされた。シアターで、クリエイターが自己表現をする姿を目にするような体験を、デザインに反映させたいと思った。これをするために、ユーザーがクリエイターのパフォーマンスにワクワクできるように、背景に黒を持ってきた。音符のスケッチが終わったあと、デザイナーは黒の背景の中でそれを目立たせるために、2Dのデザインに、電磁波のエフェクトを付け足した。何個もの音符を試して、一番目を惹きつけるものに選んだ。

TikTok Careers -What's the Inspiration behind the TikTok logo?-

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(画像:TikTok Careers -What's the Inspiration behind the TikTok logo?-

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Douyinのチームは中国国内の芸術学校に行って、見た目が整っている学生をスカウトした。インターネット上で有名にしてあげることを約束し、数百人を説得した。アプリをクールでお洒落な雰囲気にするために非常に効果的だった。

(リブランディング直後に、Douyinはバイトダンスから増資も受けている。)

Douyinの初期グロース

Douyin運営はmusical.lyを含む他のSNSのクリエイターに一人一人メッセージを送り、Douyinに誘致した。クリエイターが多く所属するMCN(マルチチャネルネットワーク / UUUMのようなビジネスモデル)の会社と提携したりもした。

また、他のSNSでアカウントを作り、Douyinの動画を投稿した。その動画にはDouyinのロゴマークをつけた。muscial.lyでDouyinの動画を見た人は、ロゴマークを見て、アプリストアを訪れてDouyinを検索した。

Douyinはmusical.lyを利用したようだが、そのmusical.lyも同じグロースの手法をとって伸びたサービスである。Business Insiderによると、musical.lyのチームは2015年4月に、musical.lyで作った動画を他のアプリでシェアした時に、musical.lyのロゴが見えるようにした。

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(画像引用先:The Best Baby Ariel Musical.ly Compilation Video of 2015 [BabyAriel] (3)

すると、既に写真・動画のカテゴリーの中で火がついていたmusical.lyは、全アプリの中で急上昇し、7月6日にはアプリストアの一位に輝くことになった。

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(画像引用先:How one small design tweak rocketed this startup to No. 1 in the App Store

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これらの地道な努力が功を奏してか、2017年2月に、Douyin上で生まれたBackrub Danceという踊りが他のSNSでも流行ったりする。

2017年3月に、中国のコメディアンのYue Yunpengさんのそっくりさんの女性が、Douyinで彼のモノマネをした動画を投稿した。Douyin運営はこれに目をつけ、本物のYue YunpengさんのSNSにリプを何度も飛ばす。

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すると本人が中国版TwitterのWeiboでシェアをし、これがバイラルする。当然動画の右下にはDouyinのロゴマークが入っている。

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Baidu Index(Google Trendsの中国版)で抖音の検索ワードを調べると、2017年3月に一気に数字が跳ねているようだ。Yue Yunpengさんがシェアしたことが、Douyinのグロースに火が付く一番最初のスタートかもしれない。有名な歌手がDouyinに新曲を投稿するなど、他の有名人もYueさんに続いた。

CMや広告を打つ

DouyinはCMも作り、クールなアプリという印象づけを加速させる。

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このCMを見たテック界隈の人に、「このプロダクトはクールすぎる。あまりにクールすぎて私には合わない。」とまで言わしめる。

リンクに飛んで実際の動画を見ていただけると、クールさが伝わると思います。)

ちなみに、2017年9月に日本でTikTokがローンチされた際は、YouTubeの広告で知った人が多いだろう。「ウザい広告」のアプリ。

僕の周りからは、「あの痛いアプリねw」とか「恥ずかしい」など、ネタにしている意見を聞くこともあった。ネット上にもそのような意見が散見された。

(Douyinは日本のあとにアメリカにも進出するが、そこでのTikTokに対する第一印象はもっと酷く、奇妙で変な人たちがいるやばそうなアプリという感じだったようだ。)

同じプロダクトでも、どこで、どのようにローンチするかによって人々が抱く印象が180度変わってくるのは面白い。少なくとも日本では、クールすぎる・・・クールすぎて俺には使えない・・・という類のものではなかった。

(最近は日本のTikTokもあまりにクールすぎる感じがしている。アメリカでもイケイケのようだ。)

話を戻します。

Douyinのインタビューによると、その後運営はモナリザなどを利用した広告を作り、バイラルさせている。

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(画像引用先:世界名画抖抖抖抖抖起来了

モナリザに限らず、他にも歴史的な絵画の人物がおもしろおかしく動く動画を流行させた。(BiliBiliのサイトで実際の動画を見れます。)

中国のヒップホップ元年

このように、Douyinがじわじわと成長していた年に、中国の若者らが、とあるカルチャーに熱狂する。ヒップホップだ。

そもそもの「ヒップホップ」のことを簡単におさらいしたい。1970年代初頭、ニューヨークのサウス・ブロンクス地区で生まれたといわれている。当時、アメリカはディスコブーム真っただ中。ディスコに行くお金の余裕がないアフリカ系アメリカ人の若者たちは公園や自宅に集まっては自分たちでパーティーを開催するようになり、のちにターン・テーブルを操り、ラップを口ずさむ 者がではじめ、それがヒップホップのはじまりになったといわれている。

さて、そのヒップホップを愛する一人のアメリカ人が1999年に中国・上海に移り住んだ。名前はダナ(Dana)。界隈では彼のことを「中国ヒップホップ界のゴッドファーザー」と呼ぶらしい。「その頃、中国にヒップホップシーンはなかったよ。少なくとも、それを証明できるような録音や文書の記録は存在していなかった」。ダナ自身、中国に移住したのも愛するヒップホップの何かを探しにきたわけではなく、大学卒業後、アメリカにフラストレーションを感じていたときに偶然めぐってきた「中国で英語を教える」というチャンスに乗ったという。初めての中国で自分にできることといえば英語を教えることと、愛してきたヒップホップを中国に伝えることだと自覚。移住してすぐに、ラップの伝達と中国独自のラップ文化の育成に着手した。上海ではヒップホップが見つからなかったため、3年をかけて数十を越す中国各地をまわり、記録されていない隠れたヒップホップの活動のリサーチに没頭。同時に、ヒップホップのイベントを共同オーガナイズしたり、ボランティアとしても様々なイベントに関わったりと、少しずつ中国の音楽関係者との繋がりをつくっていった。

禁止された中国ヒップホップは“シーズン2”へ。当事者たちとあらためて読み解く00年代のルーツと最新事情

ダナが中国にヒップヒップを浸透させていくが、十年以上、ヒップホップはアンダーグラウンドな存在にとどまっていた。

そんな中、2017年6月、The Rap of China(中国有嘻哈 / 中国にヒップホップあり)というオンライン番組が始まる。コメディアンのYueさんのモノマネの動画がWeiboでバイラルした3ヶ月後だ。

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この番組がヒットし、中国全土の若者が沸き、2017年は「ヒッポホップ元年」とまで言われることになる。

Douyinもこの番組の協賛に入る。(Doyinは他にも、“Happy Camp” (快乐大本营) や“Everyday Upward” (天天向上)などの番組の協賛をする)

後にはThe Rap of Chinaのライバル番組、Street Dance of China(这!就是街舞 / これぞ!ストリートダンス)も流行る。

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Douyinは、このヒップホップの波に乗っていく。

Douyinは中国の若者が自分たちのラップ、ブレイクダンス、ビートボックス、ストリートダンスの動画を作るのに完璧なツールだった。"中国のRihanna"とも呼ばれることがある女性ラッパーのVaVaは、「Hip Hopが好きな人は全員Douyinをやっている」とコメントした。

Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDance

musical.lyはリップシンクをキラーコンテンツに据えることでグロースを見出したが、Douyinはリップシンクではなく、ヒップホップという自分たちのコンテンツを見つけ、そこから風穴を開けていった。

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Douyinの無双

ヒップホップ元年の波に乗りグロースを続けるDouyin。

2017年6月に始まったThe Rap of Chinaの番組は9月に終了するが、その1か月後の10月に、Douyinはまた進化する。

10月1日はゴールデン・ウィークの始まりだった。7日間の中国の祝日だ。このような期間は中国のインターネット業界にとって大きなチャンスだった。人々の行動習慣が1週間変わる。エンタメに時間を費やしたり、新しいことを試したりする。

10月にDouyinのデイリーユーザー数が700万人から1,400万人に倍増した。2ヶ月後には、3,000万人に到達した。この3か月で、30日リテンションレートは8%から20%を超え、一日の平均利用時間も20分から40分に増えた。

まるで、何か魔法のロケット燃料が突如投下されたようだった。全ての重要なメトリクスがブーストされた。何が変わったのか?答えはZhu Wenjia。

2015年にBaiduからバイトダンスに引き抜かれた人物で、アルゴリズムの技術においては、バイトダンス全社内でトップ3に入る逸材だった。彼はバイトダンスの優秀なエンジニアチームを率いていて、彼がDouyinにアサインされた。バイトダンスのコンテンツレコメンデーションのバックエンドの力を最大限に生かしたことが、10月の結果につながった。

メトリクスが良いほど、バイトダンスはアプリにリソースをより割いた。Douyinはリテンションがよく、戦略的に重要なプロダクトになる出世街道にあった。突如、社内のあちこちからサポートがきた。人、お金、ユーザートラフィック、有名人との提携、ブランドコラボレーション、そして一番重要な、バイトダンスのレコメンドエンジンとの統合と最適化。

中国の莫大なファン数を抱えるYang Mi、Lu Han、Kris Wu、 Angelababyなどのスターがアカウントを開いた。国土全体におよぶ「Douyinパーティー」というイベントのロードショーも企画された。

Douyinは中国で最も来ているホットなアプリになった。

Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDance

ここまでの総括

Douyinは社内の新規事業として、関係者からそこまで期待されていなかった中、最初のバージョンのプロダクトもダメダメというところからスタートし、その後の試行錯誤により結果を出し続け、バイトダンス本社からリソースをもぎ取り、バイトダンスを支える次の事業の柱へと育っていった。これはれっきとしたスタートアップ物語だろう。

プロダクトマネージャーのKelly Zhangはのちに、Douyinを育てた功績から、バイトダンスチャイナのCEOにまで上り詰め(バイトダンス創業者のチャン・イーミンはグローバルのCEO)、バイトダンスのナンバーツーになる。Fortuneの「世界で最もパワフルな女性」ランキングにも選出されている。

もちろん、後半の、広告を積極的に踏んだり、有名番組と提携したりするグロース手法は、Cash Cowを持たざるいちスタートアップにとっては再現性が低い部分もある。

強大な後ろ盾という意味では、インスタグラムもフェースブックに買収されてから、親会社のリソースを活用しながら、世界的なプロダクトに化けていった。

とはいえインスタグラムは最初は共同創業者二人によるスタートアップだ。対してDouyinは社内の一つの新規事業で期待もされていない。上手くいかなければクローズし、メンバーもバイトダンスの他のプロダクトの部門に移るだけだ。インセンティブという意味でも、モチベーションという意味でも、インスタグラムのチームとは似て非なるはずだ。

そうゆう意味では、Kelly Zhangをはじめとするプロダクトチームの執念には目を見張るものがある。

ちなみにKelly Zhangは「私がまたスタートアップをやるなら、ショート動画を選択しないだろう。本当にたくさんのお金を費やす必要があるから」と言っている。

これはレッドオーシャンを勝ち抜くための広告費という意味もあるだろうし、そもそも動画という非常にコストがかかるフォーマットを指してだろう。

なお、グロースについては、Douyinチームの頑張り以外に、当然タイミングの追い風があったことも言及しておくべきだろう。モバイル動画とマシンラーニング(AI)。Douyinは二つの大きな波にしっかり乗っている。

アイデアのマネについて

アイデアはおそらくとても大事だ。アイデア一つで、プロダクトのフォーマット一つで、1,000億円を超えるユニコーン企業が誕生することがある。Snapchatは画像が消えるというたった一つのアイデアから始まっている。

InstagramにStoriesをマネされたSnapchatのエヴァン・スピーゲルは次のように、アイデアをマネされることは光栄だと語っている。

人々は、僕たちが作ったイノベーションを追随し続けるだろうし、この産業はそうゆう仕組みになっている。僕が個人的にどう思っているかで言うと、僕はデザイナーで、僕らのチームのデザイナーも同様に感じていると思うけど、デザイナーにとって一番の感情、世界で一番良いのは、作った物があまりにもシンプルでエレガントすぎて、他の人はそれを完全にコピーするしかない場合だ。これはデザイナーにとって、この世で最高の勝利。

Snap CEO Evan Spiegel | Full interview | 2018 Code Conference

こうみくさんのnoteにはこう書かれている。

iPhone Xを模倣した小米8を発表したのち、「小米は、最も完璧な海賊版iPhoneだ!素晴らしい!」といった声が中国メディアに溢れかえっていました。もちろん、これは純粋な賞賛の声です。一方で、「小米は、最も完璧な海賊版iPhoneだ!なんと恥知らず!」といった批判の声が、Tech Chrunchをはじめとする米国メディアから溢れかえっていました。

中国では、「最初に美女を花に喩えた人は天才である。次に、同じことを復唱した人は凡才である。3番目に同じことをした人は、愚才である。」という言葉があります。

この言葉が語るように、発明者であるAppleは天才として、当然もっとも尊敬される一方、次位として、それを完璧なまでに真似してのけた小米も「努力家の凡才」として一目置かれる存在として、認識されているのです。
日本では、「本物=オリジナリティ」として捉えられています。従って、最初にアイディアを考えた人や、最初にはじめた人に対する敬意が強く、後追いでコピーすることは、二番煎じの偽物に成り下がることを意味します。よって、差し迫った事情がない限り、安易には真似をしないというプライドを持っています。

(中略)

それに対して、中国では、「本物=市場で最終的に勝ったもの」と解釈されています。そのため、だれが早くはじめた、遅くはじめたといった順番は関係ありません。従って、真似することへの軽蔑感も薄く、ほかの誰かのアイディアであるとしても、自分の方が上手くやれる、勝ち抜けると思えば、堂々と真似して追いかけてきます。「今はどう思われようと、どんな手段を駆使しても、自分が市場の勝者になれば、いずれ、自分が本物に置き換わる」と信じているのです。

華僑心理学No.8 真似ることに対する中国流の価値観とは?

一方、アイデアさえ思いつければ勝ちなのかというと、きっとそうではない。Douyinが最初にmusical.lyをただコピーした段階では鳴かず飛ばずだったことが良い例だ。後には世界に通用するようなアイデアでも、そのアイデアの周辺にコミュニティを作り、熱量を生み出し、人々が使ってくれるようなプロダクトにするのはきっと容易ではない。

日本のLINEの誕生にも興味深い話がある。

そもそも、アメリカにはメッセージアプリのワッツアップがあって、それをベンチマークして作ったのが、韓国のカカオトーク。カカオトークをヒントにした、LINEや中国の微信(ウィチャット)もあります。カカオトークにはアジア的な要素があって、日本市場や中国市場に転化しやすかったのではないでしょうか。スタンプなんか実にアジア的ですね。

まったく同じものを作るのであれば、それは「コピー」です。しかし信念をもって、カカオが先行したサービスモデルを、日本流に徹底したのがLINEではないでしょうか。信念があれば、コピーではなく「ベンチマーク」です。
だからこそ日本市場に先に展開したカカオトークを、後発だったLINEはすぐに超えたのです。

【チョン・ヤンヒョン】LINEの父に伝えた、日本市場「3つの秘訣」

LINEより先にワッツアップやカカオがあったからLINEは凄くない!LINEは他のプロダクトをベンチマークにした物だから偽物だ、使わない!なんていう人は当然いないし、みんなが毎日使う国民的プロダクトだ。

Douyinがmusical.lyをコピー、あるいはベンチマークにしていなければ、僕たちは今日までTikTokで出会った様々な動画たちに出会えなかったことを意味する。

また、Douyinから分かるのは、既に現在、あるいは過去に類似プロダクトが世に存在している場合でも、それを適切なタイミングで組み直し、ちゃんとユーザーの元に届けることができれば、次元を一つ超えたヒットを飛ばせる可能性があるかもしれない。

このへんの話は、けんすうさんが運営しているアル開発室の「発明とイノベーションを混在してはいけないよね」というコラムが面白い。

プロダクトだけでは勝てない世界

バイトダンスのニュースアプリToutiaoの初期グロースから、中国スタートアップのグロースに対する姿勢が垣間見られる。East Ventures/スタタイの平田さんがstandfmで解説してくれています。

バイトダンス、今はTikTokが一番有名ですけど、初期は、まあ今も1億人以上のアクティブユーザーがいるんですけど、初期はToutiaoという、英語名がToday's Headlinesという、いわゆるニュースアプリ、ニュースアグリゲーションアプリをやっていまして、そのToutiaoのグロースのキッカケ、グロースハックをどうやっていったのかがかなり面白かったので、話していきたいと思います。海外とかでよくあるグロースの仕方で典型的なのはマーケ費用をドカンと打って獲得したり、最近の例だとクラブハウスはバイラルがうまくきいてて、オーガニックでどんどんユーザーが伸びていったみたいな感じになってますけど、中国スタイルというか、なかなかグレイなグロースハックをバイトダンスがしてたので。これがなかなか面白くてですね。まあもちろんバイトダンスに限った話ではなく、中国のスマホアプリディベロッパーの間で当然のように使われている手法なので、バイトダンスだけがグレーだと全然言えることではないんですけど。何をしてたかというとですね、iPhoneとかもちろん無理でしょうけど、Androidですね。Androidってピンキリで、安いものもあったりするので、そうゆうのっていじれるといいますか、流通チャネルのあいだあいだに、スマホアプリディベロッパーが介入することが可能でして、流通チャネルのどこかの時点の工場で、新品のスマホの箱を開けて、先にアプリをインストールしておく。BytedanceならToutiaoのアプリをプリインストールしておく。最初だったら写真アプリとか、iPhoneならサファリとかありますけど、写真アプリ、サファリ、Toutiaoみたいな感じで、デフォルトのアプリとしてダウンロードしておくことをしていました。でですね、なんぼやったかな、1スマホあたり、1プリインストールあたり、最近はすごく高くなってるけど、確か0.06ドル、実質1ユーザーあたり6円で獲得できる。もちろんその後Churnしたりもしますが、最初のインストールにかかる費用は6円ですんだ。これをスマホ各社が利用しない手はなくて、バイトダンスもそのうちの一社だった。

ただ、流通チャネルって例えばAndroidを作ったスマホがあります。工場A、消費者に届くってことはなくて、もっと複雑化していて。工場A、流通A、流通B、流通C、流通D、消費者とか。もしくはそれ以上。このサプライチェーンの上流にあればあるほど、工場Aとか工場Bでプリインストールしてもらった場合は、工場Cとか工場Dで、他のスマホアプリ開発者にアンインストールされる可能性があるわけです。それこそToutiaoをライバル視してるような会社が、工場Eで見つけてしまった場合は、やべ、とりあえずこいつらのアンインストールして、俺たちのアプリをプリインストールしとこうという発想になるわけで、実際そうゆうこともめちゃくちゃ行われていたみたいです。バイトダンスはここでいわゆる泥臭いこともしっかりやり切っていて。小売店にいって、ちゃんとToutiaoがプリインストールされているかどうかを確認するところまでやり切った。その結果、数千万ユーザーを獲得した。これやばくないですか。日本なら数千万ユーザーあったらTwitter級なんで、中国は人口が多いってのもあるんですけど、それにしても初期にいったん数千万ユーザーを比較的低コストで獲得できるなら、グレーと言われようがやりたくなるのは当然なのかなと思ったりしますね。特に規制とかもあった感じもしないので。

めちゃくちゃ面白い。この泥臭さは、A.me/Douyinのオペレーションをとってもそうだ。

A.meの戦術は、「オペレーション」と呼ばれていることをやることだった。グロースをするためにオペレーションに強く依拠することは、中国インターネットの一つの特徴だ。西洋のテックカンパニーは、ユーザーの獲得の役割は、マーケティング、セールス、グロースチームにある。グロースチームは、スケーラブルなデータと技術ドリブンなメソッドによって、システマチックにグロースを達成しようとする傾向がある。これらの確立されたテクニックに加えて、中国の会社は、プラットフォームを成長させるために、マニュアルで、労働集約的なメソッドを活用することを好む。例えば、有名人やメディアにお金を払って取りあげてもらったり、他のプラットフォームでプロモーションアカウントを運用したり、祝日のプロモーションをしたり。オペレーションチームは一日中アクティブで、ユーザー、クリエイター、提携パートナーを含む外部のステークホルダーとリレーションを保っている。

Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDance

TikTokはプロダクト・ソフトウェア・アルゴリズムの力でいっきに全世界にスケールしたように思っていたが、A.me/Douyinの成長は、オペレーションにも強く依拠している。

なぜ中国テックでは、労働集約的なオペレーションというプラスアルファの部分が必要とされるのか。それはスタートアップの競争環境が影響している。

musical.ly創業者のAlex Zhuさんは次のように語っている。

(アメリカのティーンをターゲットにしていた)musical.lyの初期において、僕らの競合は全部アメリカの会社だったのだが、彼らからは競争のプレッシャーを全く感じなかった。けど昨年以降、僕たちはバイトダンスを含む中国の会社群と競争し始めた。マーケットのオペレーションにせよ、プロダクトの改善スピードにせよ、中国の会社の競争力の高さは、アメリカの会社とは大きな隔たりがある。

Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDance

日本はシリコンバレーに対して周回遅れだという声をたまに耳にすることがあるが、そのシリコンバレーも中国に対して(いちスタートアップの競争力という側面では)周回遅れになりつつあるのかもしれない。

musical.lyはスタンダードなプロモーションのルールから外れていた。彼らは広告を作らなかった。コンテンツクリエイターに補助金を払わなかった。有名人にお金を払わなかった。創業から一貫して、musical.lyはマーケティングに一銭も払わなかった。代わりに、口コミに依拠し、強いユーザーコミュニティを育てるに注力した。

musical.lyのようなオーガニックな成長戦略は中国では実現不可能だった。中国のインターネット市場は無慈悲で、容赦無く、食うか食われるかの世界だ。競争は熾烈で、変化のペースも速く、ユーザーを獲得するコストは長いこと西洋のマーケットよりも高い。

Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDance

musical.lyは一度失敗した中国マーケットに再挑戦したが、Douyinに対して手も足も出なかった。

以上、食うか食われるかの世界で、プロダクトとオペレーションの両輪を駆使して勝ち抜いたDouyinのグロースの話でした。

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