評価額3兆円 中国ショート動画『快手』の研究 - TikTokとの違いは何か
East Ventureのムラカミです。
https://twitter.com/yu8muraka3
前Pinduoduoの記事を書きましたが、Pinduoduoと同じく気になっているスタートアップとして中国ショート動画アプリ「快手(Kuaishou)」がありました。
中国にもByteDanceが運営するDouyin(中国TikTok)があるにもかかわらず、なぜ同じショート動画アプリとして肩を並べられているのか、何が違うのかなど。
ざっくりとは知っていたのですが、もっと詳しく知ろうと思い調べてみました。
快手とは
快手は、2012年にスタートしたDouyin(中国のTikTok)と双璧をなす中国のショート動画アプリです。
現在評価額が280億ドルを超えるデカコーンで、MAU4.9億 / DAU3億のモンスターアプリとなっています。
ちなみにDouyinのスタートが2016年なので、快手の方が4年早く始めていますが、Douyinの猛烈な追い上げによって抜かれてしまった格好ではあります。(Douyin: MAU5.5億 / DAU4億)
快手とTikTok(Douyin)の違い
調べていくと分かったのが、ひとくくりに「ショート動画」といえど、快手とDouyinではプロダクトの方向性が異なるということです。
Douyinは「プロ : 一般人」の構図であるブログやYouTubeのようなコンテンツプラットフォームを志向しているのに対し、快手は「一般人 : 一般人」の構図であるSNSを志向しています。
つまり、快手はどちらかというとショート動画SNSという人が中心のコミュニティとしての参入アングルで、Douyinはコンテンツが中心のメディアとしての参入アングルです。
このプロダクト思想の違いによって、快手とDouyinは特徴が異なります。
特徴1: 田舎中心のユーザー層
まずユーザー属性を見てみます。
2018年のデータと少し前ですが、Douyinと快手のユーザーを比較すると、快手ユーザーは田舎に暮らす人多いのが特徴。
ただ当初は意図してこうしたユーザー構成になったというより、初期のGIFツールのときに田舎ユーザーが多く集まったことや
丁度インフラとスマホの普及によって田舎ユーザーもターゲットになりうるタイミングになったこと等が作用しているようです。
そして、これがコンテンツの性質にも影響してきます。
ただ、年齢層はどちらも24歳以下、男女比は女性が多くを占めており、ユーザーの年収もほぼ同じで、若い女性ユーザーが多い傾向にあります。
一方で、学歴には差がありDouyinのユーザーの方が高学歴になっています。
特徴2: 無名な人がUPするコンテンツ
こちらは快手ユーザーである山村の土地で働いて生計を立てている30歳の母親のアカウントです。田舎の生活の日常を動画でアップし、25万のフォロワーがいます。
快手はDouyinに比べ、こうした一般人が日常を表現する使われ方が多くなっており、ほかにも
・毎日ダイエット朝食を200日以上投稿し続けている女の子
・田舎の移民労働者の日々の仕事と生活
・屋外で釣りやトロール釣りをしている男性
・専業主婦の家庭料理の作り方紹介
のようになっています。
つまりコンテンツの方向性として、どちらかというと無名の一般人が作成した日常っぽい動画が快手には多い傾向にあり、KOLがリップシンク動画など質の良い綺麗な動画をアップするDouyinとは相違があります。(快手の質が低いわけではない)
また現在はKOLも多くいますが、2017年時点では、多くのSNSで採用されているオフィシャルのバッチを与えてユーザーに優劣をつけるといったことはせず、従業員が有名ユーザーに連絡をとることも禁じられていたようです。
ここからも方向性として、インフルエンサーを優遇しない平等な運営を心がけていることが分かります。
特徴3: トラフィックを分散させるアルゴリズム
Douyin(TikTok)は、レコメンドのアルゴリズムが特徴的だと取り上げられることが多いと思います。
検索して動画を探すことなく、オススメのフィードさえ見れば好みの動画を連続でレコメンドしてくれる仕組み。
実際に上のデータを見るとDouyinは、ユーザーが視聴するコンテンツの80-90%がアルゴリズムによるレコメンドとなっており、やはり強力です。
それに対して快手はフォローしている人がUPする動画が多くレコメンドされる設計になっており、数字で見ても
フォローしている人が作成したコンテンツを見る割合が40-50%
アルゴリズムによるレコメンドで視聴する割合は半分ほどとなっています。
これは、Douyinユーザーはクオリティの高い動画を好む一方、快手ユーザーはリアルの知人が作成した平凡な動画も好んで見る傾向があるということです。
また、ログイン時にDouyinと快手のトップページの「おすすめ」動画のいいねの数を調べたところ、Douyinは快手よりも「いいね」の数が多い動画(10,000を超えるなど)を推奨する傾向が顕著で、すでに人気のある動画を推奨します。
それに対し、快手はレコメンド動画の大半を「いいね」の少ないものにすることで、より多くの動画にトラフィックを分散させようとしていたようです。
特徴4: コミュニケーションを促すUI
UIにも違いが現れています。
Douyinは上にスワイプすれば次々と動画が再生されていきます。
しかし快手は、ホーム画面で動画をタップして再生、またホームに戻って次の動画を選んで再生といった設計です。
これは戦略的意図の違いによるもので、Douyinは動画を視聴するコストを下げて沢山のコンテンツを消費して欲しいと考えているのに対し、
快手は動画を見た後にそのコンテンツから離れずに交流をし、クリエイターと視聴ユーザーが関係性を構築することを望んでいます。
なのでYouTubeのように快手のコメント欄は動画の下に付いているUIになっていて、Douyinのコメント欄と比べて交流しやすくなっています。
実際にDouyinと快手のエンゲージメントを比較しても、快手の方が2.5倍高いエンゲージメントを示しており、積極的に交流しているのが分かります。
特徴5: 高エンゲージメントを生かした収益モデル
快手の収益源の多くはライブストリーミングです。
ローカルタブを開くと、Douyinはコンテンツの25%がライブ配信に対し、快手は50%がライブ配信が占めており、DAU3億のうち1億がライブ配信を視聴、そのうち半数がゲーム配信となっています。(ゲーム配信サービスDouyuのDAU1500万)
それもあってか収益において、2019年の全体売上72億ドルに対し、ライブ配信の課金などによる売上は42億ドルと60%以上がライブ配信からの収益です。(2018年収益は9割がライブ配信から)
またECでも快手はDouyinよりも勝っています。
快手のECの規模はDouyinよりも5-10倍ほどあり、月間流通額は14億ドル以上(2019年時点)。
快手のトップセラーの多くは、KOLではなく中小企業や工場のオーナー、農家です。
製品を梱包するための生産ステップなどの日常の業務に関連するコンテンツを多く作成し、ユーザーからの信頼を獲得することで、ECの売上に繋げています。
ちなみに快手で売れる商品の上位は、低価格の化粧品、衣料品、食品の3カテゴリーだそう。
しかし一方で、快手は広告での収益化が弱いです。
2019年の快手の広告売上が18億ドルであるのに対して、Douyinは70億ドルの広告収入をあげており、Douyinの方が広告には強い傾向があり真逆の構成になっています。
したがって快手は、配信者とユーザーとの高いエンゲージメントゆえに、CVが発生しやすくなり、より消費者に近い収益モデルである
・ライブストリーミング
・EC
が強くなっているのが特徴です。
快手の歴史
快手は、2011年にGIF Kuaishouという会社としてCheng Yixiaoによって設立されスタートしました。
これは、Weiboの投稿で使用できる面白いGIFを作成するためのツールのようなもので、初めはショート動画とは無縁でした。
設立のときにMorningside VenturesがWeiboでChengを見つけ200万元を出資、快手は20%の株式を放出しました。
その後50万ユーザーを集めましたが、2年経っても思うような成果が出ず資金は底をつきそうになっていました。
苦境からのCEO交代&ピボットを経て躍進
その時Morningside VenturesはCheng Yixiaoに提案します。
資本を強化するのに加え、元Baiduエンジニアで快手に技術コンサルで関わっていたSu Huaへ既存株主の50%の株式を譲渡し、CEOへ据えてはどうかと。
これをChengは快諾し、新たにSu HuaがCEOになることに。
Chengも引き続き経営陣として会社に残り社内オペレーションを担当しました。
そしてちょうどこのタイミングは、GIFツールからビデオ共有SNSに転換しようとし、90%のアクティブユーザーが失われるという苦しい時期でした。
しかし、最終的にはこのピボットする素晴らしい意思決定によって、Su HuaがCEOになってわずか数ヶ月後にDAU100万を突破し、DCMからPost8000万ドルの評価額で1500万ドル調達に成功します。
その後のファイナンス遍歴
DCM〜初回TencentまでのDAUと評価額推移
2015年1月: DAU100万の6ヶ月後にはDAU900万まで伸ばし、DSTがPost9億ドルで1億ドル投資
↓
2016年3月: DAU2000万、100人規模の会社で全く収益化されていない状態のときにBaiduがPost20億ドルで2億ドル投資
↓
2017年3月: 成長の踊り場に差し掛かったところでライブ配信を実装してさらに成長し、DAU4200万 / MAU1億、滞在時間40分に達した頃にTencentがPost25億ドルで3.5億ドル投資
↓
2018年1月: 2017年秋にDAU8000万を超え、TencentがPost180億ドルで10億ドル投資
↓
2019年12月: 2019年秋にDAU2億ドルを超え、Tencent等がPost286億ドルで30億ドル投資
まとめ
以上が快手とDouyinの比較、快手の歴史でした。
もし近しいことを考えている方いればお茶しましょう。
Twitter → @yu8muraka3
※参考
https://thebridge.jp/2020/02/short-video-app-kuaishou-2019-revenue-said-to-reach-7-billion
お茶しましょう〜 DM→@yu8muraka3