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心の形と鎮魂歌

私は意外と一目惚れ猪突猛進タイプである。
(しょっぱなから嫌な予感の出だしである)
ぐるぐる考えはするものの、一度「大好き欲しい」と思うと迷わない。妙に思い切りが良い。
前置き終わり。

正露丸を求めて

前回の記事で、あきやさんの講演会に胸を打たれた私は自分へ向けて「糖衣95%なんて言ってる場合じゃないよ」と書いた。
これはもちろん糖衣を否定しているわけではなく、自分の人生のこれからを考えたら人の目を気にしてばかりいるのは時間が勿体ないと強く感じたという意味です。

セイロガン糖衣Aの詳しいお話は上記より。
私はむかーし大学受験の際、初めて一人で泊ったホテルでお腹の調子が悪くなり、フロントにお薬はあるか聞いたらでっかい瓶入りの「正露丸」を渡してもらったことがあります。感謝です。それが私と正露丸を繋ぐ思い出。

さて、なぜ私の現在の装いが糖衣95%なのか。それについては以前こう説明している。

なぜなら本来の私は社会性が著しく乏しいから。ありのままの自分では他人と関わって社会生活を営むことができない。
もともとの顔立ちや雰囲気に合っていて、人から引かれず、私がいちばん堂々とできる生きやすい格好。それが今の髪型や服装です。
そして糖衣95%と言えど好きな服しか着ていないため、問題がないと言えばないはずだったのです。

名前をつけてやる

つまり私は社会性として糖衣95%を纏い、社会に擬態しているということです。
で、今の私にとって、擬態の必要な社会ってつまりどこか? と突き詰めると、結局は職場だということに気が付いた。

ん??

糖衣95%と言えど手持ちの服たちを気に入ってはいる、はずだった。
でもそれって「仕事で着る服」という制限の中でのお気に入りですよねー、ということに気付いてしまった。ちなみに仕事と言っても私はアルバイトなんですが、わりと保守的な職場で雑用を担っています。

では、「今の職場で着る服」という制限を外したら私はどんな格好をしたいのか。
私にいま必要なのは糖衣95%のブラッシュアップではないのでは?? 正露丸100%を考えてみたい。妄想でもいいから。

困る

…………。
そこで話は何日か前に遡ります。
ある日スマホでネットサーフィンしていた私はとあるブランドサイトに初めて足を踏み入れた。
検索ワードとの関連性が分からないままに出てきたブランド。そこのお洋服(の画像)に釘付けになりました。

綺麗な刺繍レースのあしらわれたワンピース。色合いも形も落ち着いていて、素朴過ぎず、でもほんのり夢と郷愁の香りが漂う感じ。
えっ可愛いんですけど?

でも~、可愛いものって大抵私が見つける頃には既に完売だったりするんだよね~、これもそうなんでしょう?
と思ったらその公式オンラインショップには在庫がある。2022秋冬の品物だった。
さらにそのブランド、12月に私の行ける範囲の場所でPOP UP STOREが出ると書いてある。2022秋冬フルラインナップ販売。
えっ困るんですけど?

正直なところ私はとーってもこちらのお洋服に惹き付けられている。だって自分でも知らなかった自分の理想が服の形になって存在してるようなワンピースだったから。実物を見てみたい。

でもいきなりそんなチャンスをもらいましてもねえ、こっちだって心の準備ってもんがあるんですよお!
この時点で私はなぜか困っていた。
なんというか、「妄想で終わらせるはずのものが突然現実になって迫ってきた」ような感覚だったと思う。えー。

あと私にとってワンピースって冒険なのである。理由はよく分からないが、現在ワンピースの形状のものを一着も持っていない。喪服を除いて。

あと、あと、ポップアップストアって怖くないの?? えらい陽気な語感なんですが。わしのようなもんが行って大丈夫なんでしょうか。
でもそのワンピースは見てみたいです。
えっ困るんですけど??(二回目)
…………。

ということがあった上で視聴した講演会アーカイブだったのです。
折しもポップアップはアーカイブを視聴した次の日からの開催。
講演会で勇気をもらった私は覚悟を決めた。
試着。試着をしに行きましょう。

試着、そして

ポップアップ初日は平日にも関わらずけっこう盛況だった。
私は店員さんに自分から声をかけて挨拶しようと決めていたが、店に着いた時点で手の空いている店員さんがおらずちょっとシミュレーション通りにはいかなかった。
でも公式サイトを見て来たこと、気になるワンピースがあることを伝えて無事試着室へ辿り着く。

同じデザインのワンピースを色違いで二色着させてもらった。
似合った。そして買った、即決で。すまぬ。どちらの色も我ながら似合ったし素敵だったけど、自分の直感で好きな色の方を買った。買わない理由が見つからなかった。

MURRAL Framed flower open long dress
(画像はMURRAL公式サイトより)

着たことがないタイプの服だったけど、それを着た自分が嬉しそうだった。
こういう服を着たかったなんて自分でも知らなかったよ。

店員さんに「他のものは良いですか?」と聞かれ、「今日は大丈夫です。つらい~」と私は思わず答えていた。「つらい」の部分は店員さんには聞こえなかったと思う。
胸がいっぱいで今日はこれ以上はいい、と思ったのもある。置いてあるものが全部素敵だったから素敵すぎて辛かったというのもある。
でもなんだか、私は幸せで一杯のはずなのに胸が痛むような気持ちも本当に抱えていた。
悲しみのような怒りのような憤りである。

それって演歌じゃん

ポップアップの場所は心斎橋PARCO。(突然の暴露)
周りにはデルヴォーがあり、ヴァレクストラがあり、sacaiがあり、後日気付いたがマルジェラもあった。上の階にはGUCCIもあった。名前しか知らなかった、お洒落の代名詞のようなブランドたち。

私はいまだに「スタバがある街はみな都会」というガバガバ認識でいる。そう思う程度に田舎な土地で生まれ育った。田舎はカフェとかないんですよマジで。(怒り)
思春期の頃、雑誌に載っているブランドは別世界のものであり、実在することが信じられなかった。ネットが普及する前の時代のことである。

私はずっとださかった。
小学生の頃、お洒落なお姉ちゃんのいる友達の家にお邪魔した。次の日に学校へ着ていく服を真剣に選んでいてびっくりした。

中学生になり、ピアノの発表会にその友達が来てくれたとき、シャツのボタンをいちばん上まで留めていた別の友達にこう言っていた。「見てごらん、石月ですらボタン外してるよ。石月ですら」。私は発表会用に買ってもらった服を、お店のお姉さんに言われた通りにたまたま着ていた。(シャツの着こなしを指摘された子は第一ボタンを外されていた。)

高校生の頃、芸術科に進んだ私は周りの子がお洒落なことにびっくりした。芸術科に来る子たちって身なりに構わず髪を振り乱して作品づくりに没頭しているのだと思い込んでいた。

クラスメイト達でファッション誌を回し読みしていたとき、「このページの中ならどの系統の私服を普段着ているか」という話題になり、答えられなかった。系統も何も、自分はその地点にすら立ってなかったから。今思うと自分なりに好みはあったと思うが、どこで服を買えばいいのか分からず、親に買ってもらった微妙に歳相応ではない服を着ていた。

周りがCUTiEやZipperやOliveなどの雑誌を買う中、私はSeventeenをこっそり買った。何も分からない自分にとっては実用的に感じたからだ。そんなことは勿論知らないクラスメイト達が「Seventeenはなんか違うよね」と話しているのを聞いてしまって身がすくむ思いだった。

自分だけがずっとださくてださくて、周りの人たちはどうしてお洒落で垢抜けているのか不思議だった。
今でも時々、広大なファッションビルに居る夢を見ることがある。夢の中で私は「服を買わなきゃ、でも何を買えばお洒落になれるんだろう」と焦っている。

大人になってそこそこ服を買ってきて、少しはマシな格好ができるようになったつもりだった。それでもなお根を張っていた思春期の劣等感と痛みを思い出し、それらをようやく解放できるような気がしたin心斎橋PARCO。

手の中には自分の理想を形にしたようなワンピース。全身に染み入るのは前日に聞いたあきやさんの温かい言葉、『勇気を出して試着に行ったみんなはお洒落です』

私、いま演歌歌いそう。
だってその歌のテーマが分かるもん、「ファッション苦手な自分への鎮魂歌」だよ。
えっ、バッグのときには歌、一節も浮かばなかったじゃん……。ワンピで歌うのか私。なんなの……。


そして現実へ

はい、私はこのワンピース、仕事には着ていきません。今のバイトを続ける限り、着用頻度が少ない服であることは目に見えています。

でも買って自覚した気持ちがあった。今まで仕事の帰りに、仕事用の服(糖衣95%)で美容院に行ったり百貨店に行ったりするときに感じていた居心地の悪さ。「これが自分らしい100%の格好ではありません」って本当は心の中で思っていた。
私は私の正露丸100%を見てみたくてこのワンピースを買ったんだ。
なんかね……、もともととってもインドア派なこともあり、仕事以外にお出かけする機会が極端に少なかったから気付くのが遅かったね……。

あと、うん、靴を買おうね。分かってる。
PDCAのPは本来もっと時間をかけてするものですね。Dもね。今回は試着後即決しちゃったね。(ちなみにワンピースを購入したその足で3年日記を買いました)
コンセプトも見直した方がいいね……。

購入したワンピース、私は「自分の理想が自分の外側の世界に体現されている」ことに感動したんですが。
Pの過程でじっくり情報を集めたら、もしかして他にもそういうものが見つかるのでしょうか。
それって、けっこうかなり、凄いことだと思いました。デザイナーさんに感謝です。

***
後日もういちどポップアップストアに足を運び、エコバッグ(?)を買いました。
これ同じグラデーションのシャツワンピースがあってね、それがまた素敵なんですよ……

都会にはちいかわもいる

MURRAL(ミューラル)
ブランドコンセプト:
“平凡な日常に少々のドラマチックを”(!)

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