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『脱法プードル♡KAWAIIエクスプロージョン』劇作の話

劇作家の石田優希子です。7月に『脱法プードル♡KAWAIIエクスプロージョン』という妙なタイトルの芝居をやります。このnoteはその戯曲についての個人的な話を書いたものです。

上演は俳優とスタッフのパワーが注入されて、私から遠く離れたところに行ってくれるはずで、私はそれを楽しみにしています。戯曲は出発点に過ぎません。ぜひ上演を観ていただけると嬉しいです。

出演者のみんなと。明るいね!

戯曲を書くまでの経緯

2023年の春、私はCGの勉強をしていました。当時の目標は「ひとりで物語を創る」こと。会社員の自分が、短い余暇の時間に人と共同作業をすることはきっと難しい。人に何かお願いするのは苦手で消耗するから避けたい。それに、もう1、2年したら同居しているパートナー(当時)と家庭を持つから。子供が生まれたら家から離れる時間を持つのは、さらに困難になるから(これらは全部思い込みでした)。家でコツコツ自分のペースで、たったひとりで物語が創れるようになりたいと思っていました。CGの勉強は楽しかったけれど、自分が思い描くものが創れるようになるには時間がかかりそうでした。やりたいことまでの遠さに正直げんなりしていました。そして確か4月末あたりに、パートナーと将来やりたいことの話をしていて「大変でもいいからもう一度演劇がやりたい」としくしく泣き、CGの学習を放り出して戯曲を書き始めたのでした。

イラストを元にモデリング。満足いく出来にはなりませんでした。

当時、2つの物語のアイデアを持っていました。ひとつは旗揚げ公演になった『満ちたい人たち』、もうひとつが7月に上演する『脱法プードル♡KAWAIIエクスプロージョン』です。

最初は『脱法ポメラニアン』でした。パートナーがある日、変な夢を見たのです。舞台はポメラニアンを走らせ、その勝敗を賭ける娯楽がある世界。そこにやる気満々のポメラニアンが一頭いる。しかしその子はオーナーによってドーピングが施されており、レース直前に退場処分を受けてしまう。何が起きているか理解できないまま、会場から運び出される悲しげなポメラニアン……という夢。大変面白く、一時期「脱法ポメラニアン」略して「脱ポメ」は私たちふたりの間で流行しました。ここから想像が膨らんでできたのが、『脱法プードル♡KAWAIIエクスプロージョン』の原型となる話でした。主人公が警察官からデザイナーになったくらいで大筋は変わりません。ただ、いざ旗揚げ公演をするとなった時は「犬を出すのは難しそう」と思って引っ込めてしまいました。それをいや頑張ろう、何でも実現できるのが舞台の良いとこや! と思って蔵出ししてきて今日に至ります。小道具の都合でポメラニアンはプードルになりました。どちらの犬種もかわいくて好きです。

(こうして経緯を書いているのは、元パートナーの透明化を防ぐためでもあります。確かに彼から影響を受けました。私ひとりでは書けなかった作品です。大変感謝しています。そして何度でもエクスキューズを入れますが、ふたりの暮らしの1%を占めていたしんどさについて私が語ってしまう時も、99%の幸せとあなたの人格は脅かされません。)

何でこんな話書いたんだろう

私は全然明るい人間ではありません。友達は少ないし、よく世を儚んで塞ぎ込みます。それなのにどうしてこんなパッパラパーにトンチキな話を書くのだろうと不思議に思っていました。すごく宣伝がしづらいんです、私本人との温度差が激しいから。何やら鬱々とした、感情の機微を丁寧に描くような話を作った方が絶対人呼びやすいのに、なぜ。

プロフ画像からもう元気ないのよ。

ある日の会社帰り、ぐったりと電車に揺られながら気づきました。やけ食いみたいなものだ。コンビニで30パー値引きされたケーキを買い込んで食うのと一緒。このしんどい世界を生きていくために、無理くり詰め込むジャンクなセロトニン生成物質。

今回の話は、出産と外圧について書きました。この数年は元パートナーとの間に子供を持つ像にとらわれて過ごしていました。子供を持つのにふさわしいキャリア形成と、妊娠出産に備えるスケジュール。「産休明けも働き続けられるように昇進をしておかなきゃ」とか「4月生まれを目指すには、妊活はこのタイミングで」みたいなことをずっと考えていました。笑う人もいるのは承知ですが、本当に真剣に考えていたので、嘲笑されると傷つきます。私は子供という存在がとても好きなのですが、いつの間にか子供が好きだという気持ちは忘れてしまい、子供を持つために達成すべき目標だけが頭にある状態になりました。気づくと恐ろしく疲弊していました。

そもそも、現代日本では子供を持つハードルが上がっています。大人が生活するのもしんどい中、子供の世話や教育がさらにのしかかってくるなんて、無理ゲー。インターネットには育児の辛さを嘆く投稿が溢れています。周囲の子育て中の人は見るからに大変そう。「お願いだから、誰か背中を押してくれよ」と、ずっと思っていました。子供が生まれる前からもうしんどいのだから、どうか、いいことあるよって教えてくれよ。

大学生の頃、小さな子供がいる家庭と数日過ごしたのがすごく楽しかったです。子供向けのミュージカル団体の福岡ツアーについて行ったのです。0~5歳の子どもたちと、その保護者と、同じ大学の人たちと民泊に滞在しました。1000円札を初めて見た子供が、お札を何度も光に透かしたり、細かな印刷を眺めたりして、最後に「もっとお金ちょうだい!」と真剣な顔で保護者に言ったこととか。私に懐いて夜一緒に眠りたがった子に「私は家族じゃないからあなたのお母さんと一緒に寝るのははばかられるよ、私かお母さんどちらかを選んでね」と言ったら、しばらく逡巡してから母親の方に戻って行ったこととか。スーパーでおもちゃが欲しくてゴネたこと、おんぶの順番を替わりたくなくて「私だけと遊ぼう」とささやいたこと、みんなは忘れてしまったかもしれないけど、私はたくさん覚えています。世界を今見つけていこうとしている人と、もう一度周囲を見回してみるのは、わくわくする体験でした。順番を替わらなくてはいけないと説くとき、私の内部で世界が揺れます。それはどうして? 本当に正しいの? どう伝えるべきなの? この楽しい揺れの記憶は私の光でした。形にはならなかった多くの努力の支えでした。まだ子供を持たない人間があの眩さを知ることは難しいことかもしれません。暮らしがパツッと分断されているので。明るい話を欲していた自分のために、他でもない私が語りなおそうと思って今作を書きました。個人的に作ったケーキこそが、多くの人の腹を満たすのだ。

日々辛いので、週末は楽しい芝居が観たいです。未来に希望だって持ちたいです。たまには胃もたれするぐらい、そうだな、ひとり5切れぐらいケーキ食べて笑おうぜ。励ましあって、次会う日まで生き延びようぜ。

そういう気持ちでやっています。

7月の3連休、三鷹、きてね!

『脱法プードル♡KAWAIIエクスプロージョン』は2024/7/13(土)~15(月/祝)、東京都三鷹市のSCOOLにて上演します。ぜひ観に来てください。

公式サイト:https://bochi2yaruha.studio.site/next/dappoo2024/

あらすじ

1994年、国は少子化対策として赤ちゃんが「かわいい」と積極的に宣伝活動を行うことを決定。
一方で「かわいい」存在を人間の赤ちゃんに限定すべく、ペットやファンシーキャラクターを禁止した。

それから30年後。
デザイン事務所で働く嵐田は、苦手な「かわいい」デザインに四苦八苦。
難なくこなす同僚の九崎に対抗心を燃やす日々を送っている。
ある日嵐田は、その才能の秘密を探ろうと、事務所の社長でもあるカリスマデザイナー、以倉の自宅まで跡をつける。
そこで見つけたのは……1頭のプードルだった。

禁じられた「かわいい」存在を守り抜くことができるのか?
3人のデザイナーによる革命が今、始まる!

公演日程

2024年7月13日(土)〜15日(月/祝)

13日(土) 14:00
14日(日)14:00
15日(月/祝) 14:00
全3回

※開場・受付開始は開演の30分前になります。
※上演時間は80分程度を予定しています。上演時間の変更については公式サイト・SNSでお知らせします。

会場

SCOOL
東京都三鷹市下連雀3丁目33−6 三京ユニオンビル 5F

クレジット

脚本・演出:石田優希子(ぼちぼちやる派)
出演:アキミツイシ / 田口和 / 手塚(手塚の劇団)
音響:岡みのり / 吉平真優
照明:磯山茜
宣伝美術:大木佳奈
劇中歌作曲:片山絵里(シアターユニットQD

チケット

前売り / 当日 2,500円
※現金決済のみ。当日、受付にて精算を行います。

お問い合わせ

団体のメールアドレスまでご連絡ください。
bochibochi.yaru.ha@gmail.com

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