1年間は初めの1時間で決まる
ここまでで何人くらいの子供を褒めることができたでしょうか。恐らく15人前後でしょう。新学年の学習内容や行事の紹介の時に、「よく知っているね。」「前の年度の◯年生をよく見ていたね。」と、褒めてありました。
ということは、1対1で会話ができたのは、まだ15人前後ということです。できれば、最初の授業だからこそ全員と話をしたい。つまり、全員を褒めて家に帰したい。
残り10分。どうするか。
選んだ方法は、一人ずつの呼名です。
「先程、先生が自己紹介をしたので、今度はみんなのことをもっと知りたい
です。そこで、名前を呼びます。大きな声で返事をしてくれると嬉しいで
す。」
そう言ってから、一人ずつ顔を見ながら呼名していきます。
「大きな声で返事ができるね。」
「返事をしてくれてありがとう。」
「こちらを見てくれてありがとう。」
「いい姿勢だね。」
「さっきは、電気を点けてくれてありがとう。」
…
一人一人に話し掛けました。気持ちを伝えました。
年度によっては、「しまった!全員を褒めることができなかった!」という時もありました。
そういう時には、「ごめん!今日、褒めることができなかった人には、明日、真っ先にいいところを見つけるからね。今日は許してね。」と伝えました。
これが、私の学級開き=最初の授業の様子です。
教師がみんな、このようにやる必要は、もちろんありませんね。それぞれが自分の個性を活かした方法で心に残る出会いを創り出せたら素敵です。ギターが得意な教師は、最後に弾いて一緒に歌ってもいいし、体育が得意な教師は三重跳びでも見せてあげればいい。けん玉をやってみせてもいい。でも、ただ印象に残る、楽しいというだけでなく、肝心なのは<ねらい>をしっかりともつことだということは、言うまでもありません。以前、新学級への願いを紙に書き、膨らませた風船の中に入れておいて、代表の子に割らせるということをしたことがあります。子供はその時は喜びました。でも、肝心の新学級への願いは、全く伝わっていませんでした。迷走していた頃の話です。
さて、ここで、私が最初の授業でしたことを並べてみます。
1 教室環境を授業が開始できるように整える…座席に着席、電気の点灯、
窓開け
2 教師の自己紹介
3 新学年の学習や行事の紹介
4 一人一人の呼名
外見上は、たったこれだけです。でも、実際には、多くの指導をしていたことをお読み取りいただけたと思います。
私は、<その1>で記した「どの子も次の日から安心して登校できるようにしたい!」という大きなねらいが達成できたでしょうか。そのための次の5つの「小さなねらい」が実現できたでしょうか。
その答えは、帰る時の子供の顔と次の日の子供が教えてくれます。
実は、「まだまだだな」と思う時がほとんどでした。しかし、少なくとも一歩は踏み出したという手応えを感じた時が多くあったように思います。後は、同じねらいに向かって繰り返し指導をするのみです。最初の一手は打ったのです。それが布石となり、次の手が必ず効きます。
かつて、「教育は、布石の連続だ」と言ったのは、確か、有田和正氏だったと思います。
次の言葉は、私が先輩から教わったものをもとに、自分の中で少しずつアレンジしていったものです。
なぜ、初めの30分間に何日間もかけるか、分かっていただけたでしょうか。
追いまくられているような気持ちにさせてしまったでしょうか。
でも、この言葉には、ねらいを小分けして、焦らず計画的に子供を育もうという意味も込めています。今の子は、急な指導には馴染まないと思っています。じっくり、少しずつ、納得させながら進んだ方が効率的です。