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森見登美彦『四畳半タイムマシンブルース』を読んだ話(若干のネタバレあり)

関西旅行で帰りの新幹線待ち、時間があったから買って読んだ。新大阪駅にある串カツ屋で1人でビール飲みながら読んでたが、面白すぎてクスクス笑ってしまった。店員から変な奴って思われただろうな…(以下若干のネタバレがあるので気になる方は作品を先に読んでください)

 

はじまりの1行目。

 ここに断言する。いまだかつて有意義な夏を過ごしたことがない、と。

 この1行目が好きすぎる。

「断言」なんて強い言葉を使って、さて何を言うのかしらと思ったら、後に続くのは大変残念な宣言である。もうこの文章だけで森見登美彦の「腐れ大学生もの」だっていうことがわかる。キャラたちがどうしようもなく阿呆なことをするのを妙に格式高い文章でクソ真面目に書いており、そこに生まれるユーモアを楽しむのが流儀である。

 

タイトルにあるように時空を行き来する。ストーリーの時間軸が飛び飛びになっていたりするので読むこと自体もタイムトラベルみたいだ。

 

以前の作品『四畳半神話大系』(以後『大系』)の続篇という扱いになっている。『大系』はパラレルワールドSFで、同じ時間の中に異なる可能性の世界が存在する感じだったと思う。今回は世界は1つだけど、時間を行ったり来たりするため、過去・現在・未来という異なる時間での世界が現れ、そういう意味では複数の世界が舞台になる。『大系』では異世界同士は緩くリンクしていた程度だったと思うが、本作では超強く相互作用する。というか下手をすると全宇宙が消滅するくらい、時間同士が影響を及ぼし合うという設定である。『大系』の続篇といっても、時間的な続きではなく、新しく付け加えられるべき別の可能性世界と思うのが正しいかも。

 

「時空を行き来する」と上に書いたので、壮大なSFと思われるかもしれないが、目次を見ると、

第一章 八月十二日
第二章 八月十一日
第三章 ふたたび八月十二日

というように、ほとんど二日間を行ったり来たりするという、スケールの小さいSFなのである。結局はただそれだけなのだけれど、それをあたかも一大スペクタクルであるかのように錯覚させる森見先生の叙述トリック。しかも全宇宙の命運のかかった恋の物語でもあったりする…

 

私はとても楽しく読んだ。これまでの作品やアニメも観ていたので、キャラたちのこともよく分かっていた。でももし本作が初めての森見作品になる人はちょっと感じ方が違うかも知れないがどうだろう。

個人的には、『大系』は少し暗い感じもあった気がするが(昔読んだ本は水没して今手元になく確認できない)、本作は暗い感じは全くない。また、いつも存在感のある樋口師匠というキャラ、これまでは置物的であまり動きはなかった印象だが、本作では超動いて面白かった。

 

ところで、単行本のスピン(しおり紐)がピンクなのはちょっと違和感があった。腐れ大学生ものにしては派手すぎないか? まあいいか。本作はページが時間の流れを表しているような気がするので、ページに区切りを入れるスピンはタイムマシン的な役割だなーとちょっと思った。

あと、もし最後まで読んだ人がいれば聞いてみたいのが、ラスト4行についてどう思うかだ。この4行は腐れ大学生ものとしては必要な4行だと思うが、思い切って削除してみたらストーリー全体の雰囲気がガラッと変わると思うがどうだろう。

 

今年、コロナで窮屈な思いをした我々のための愉快な夏の話。2020年の夏に読むべき小説だと思う。

(ちなみに『サマータイムマシン・ブルース』という舞台作品が原案になっているらしいが、そのことはよく知らない。)

※2020/9/6にはてなブログに書いたものをnoteに移行しました。

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