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位相と論理と私2:半束(pp.4-6)


前回は半束の定義まで進んでいました.その続きです.

半束

順序集合$${A}$$のすべての有限部分集合がjoinをもつとき,半束といいます.

半束は空集合のjoinとして最小元0をもつ.任意の2元$${a,b\in A}$$のjoin,すなわち,$${\lor\{a,b\}}$$も存在が保証されている.それを$${a\lor b}$$と書く.

これにより半束の中で$${\lor}$$は2項演算子と捉えてもよいこととなります.joinはある部分集合の最小上界として定義されましたので,$${\lor}$$が2項演算子として,交換律と結合律を満たすことは明らかです.

ブール環っぽいものは半束になる

また,「ブール環っぽいものは半束になる(積が冪等なら半束になる)」ということがp.4の命題1.7として記されています.引用すると以下の主張です.

命題1.7 $${A}$$は集合で,$${e}$$はその元,$${\ast}$$は2項演算子で次の条件をみたすとする.

$$
a\ast a=a,\quad a\ast b=b\ast a, \quad a\ast(b\ast c)=(a\ast b)\ast c, \quad a\ast e=a.
$$

そのとき,$${A}$$上の順序$${\le}$$が一意的に決まり,$${A}$$は半束で$${\ast=\lor, e=0}$$である(上の4つの条件は左から,冪等,可換(交換律),結合律,単位元を表します).

証明は$${a\le b\iff a\ast b=b}$$によって順序を定めれば,それが実際,順序の条件を満たし,さらに任意の有限部分集合のjoinが存在することも示せます.示すべき事項を書き出して,定義に従ってやれば確認できるタイプの証明です.任意の2元に対し順序関係があるのは$${a\ast b=b}$$のときである,と定めているので順序の一意性についても示せています(仮に$${a\ge b\iff a\ast b=b}$$と定めればoppositeな順序となりますが,そういった違いは無視した一意性だと思います).※一意性について,この説明ではダメだと思い直したので,次のnoteで再考察します.

この命題の条件である,可換・結合律・単位元,そして冪等,というのは,後で出てくるブール環の条件の一部分です.大雑把に言えば,ブール環っぽい性質があれば半束である(または積が冪等なら半束である),ということです.

半束の例として,集合$${X}$$のベキ集合族$${(PX, \cup, \varnothing)}$$があります.

半束の写像,部分,双対,opposite

p.5では,joinをを保つ写像,部分半束の解説があります.代数の教科書では,何らかの特性をもつ集合が出てくると,それらの間の写像や部分集合を考えますが,それと同じ流れです.簡単なのでこのnoteでは飛ばします(ついでに言えば代数では集合同士の積も考えますが,この本では集合の積はないですね).

joinの双対概念として,meetがあります.順序集合において,部分集合の最大下界として定義されます.記号は$${\land}$$.すべての有限部分集合にmeetが存在するときmeet半束といいます.これまでの半束をそれとの対比でjoin半束ともいいます.

順序集合$${P}$$において,順序関係がある2元の大小をひっくり返すと,それもまた順序集合となり,それをもとの順序集合$${P}$$のoppositeな順序集合といいます.$${P^\mathrm{op}}$$と書きます.

半束の完備性

join半束がすべてのjoinをもつとき,完備である,といいます.一般的なjoin半束は有限部分集合にjoinの存在が保証されていましたが,有限濃度ではない,無限の部分集合にもjoinが存在する場合が完備であるということです.

なんと,順序集合が完備なjoin半束であることと,完備なmeet半束であることは同値です.join半束として完備ならmeet半束としても完備であることの証明は以下です.

・$${A}$$を完備なjoin半束とする.
・部分集合$${S\subset A}$$をとる(この$${S}$$にmeetがあることを示したい).
・$${T}$$を$${S}$$の下界の集合とする.join半束には最小元0があるので$${T}$$は空ではない.
・$${a=\lor T}$$とおく.join半束であることから,$${a}$$の存在は保証されている.
・任意の$${s\in S}$$は$${T}$$の上界である($${T}$$は下界の集合でしたからね)から,$${a\le s}$$($${a}$$は$${T}$$の最小上界として定めたので$${T}$$の上界であるどんな$${s\in S}$$よりも小さいです).
・よって$${a}$$は$${S}$$の下界である.
・$${a}$$は$${T}$$の最大元である($${T}$$の上界であり,$${T}$$に属するので最大元).
・$${a=\land S}$$である(最大下界なのでね).(証明終)

逆のmeet半束の完備性からjoin半束の完備性を導くのは省略します.

任意のjoinがあるならmeetもある,その逆も然り,というこの命題は初見では不思議ですが,上記の証明を見ればなるほどそうだねと思えます.

完備なjoin半束として,位相空間$${X}$$の開集合全体$${OX}$$が紹介されています.ただし,開集合の族$${\mathscr{S}}$$のmeetは$${\cap\mathscr{S}}$$の開核としています.

まとめ

今回は,ブール環っぽいものは半束になることと,join半束の完備性からmeet半束の完備性を導く証明をご堪能いただけると幸いです.

(続く)

2022/2/7:改題しました.





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