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怒りの下にあるもの

 なんとなくぼんやりなので「熟々つらつらと」ではないけれど。
「なんで怒るのかな」
 とぼんやり考えております。

「体臭がにおう、というとなぜ怒るのか」

 たしかに日本には、相手が「おじさん」であればどんなに蔑んだものの言い方をしてもよい、ジョークとして成立する、というナゾの空気がある。これはわかる。
 誰かを悪様あしざまに言いたいがために、実際にはそんな年齢とは思えない人のことさえ、あえておじさんという位置に置き、それから殴りかかる、大変悪質な人もいます。

 相手が誰であろうと、誰かを傷つける目的で、つまり悪意を持って言葉を投げつけるのは、実際に腕力でぶん殴ったり刃物を振り回すのと同じく暴行ならびに傷害なので、おじさん、という設定にしてしまえば何を言ってもよいという風潮には(要は「おじさん差別」には)反対いたします。

 が。しかし。

 ペケったーを眺めていたら、昔のCMのナレーションで
「うちの男たちはなんとなくにおう」
 という主旨のものがあり、あれも大変腹が立ったとおっしゃる、男性の投稿が流れていきまして。

 なるほどなあ、と思いました。
 洗濯洗剤か消臭剤のCMだろうと思われます。
 わたしもうっすらそんなCMがあったようななかったような……と、薄弱な記憶力でなんとか思い出そうとしております。

 一家の主婦であるお母さんが、夫であるお父さんと息子さんたちのことをまとめて「うちの男たち」と言い、「におう」と言っていたと思うので、「おじさん」限定ではない。

 実際。
 女性に比べるとどーしても男性は、汗腺の数や皮脂量の違いで、においは強めになります。
 こればっかりはどうしようもない。
 
 家族の中に年齢幅広く男性がいると、そりゃもうねえ、なんというか、「仕方ない」としか言いようがない。
 特に夏季は湿気も強いから匂いも強く感じられる。
 仕方がないことなのでふだんは別になんとも言わんけれども、黙っていたとしても、気になっていないわけではない。
 ゆえに洗剤か、ボディソープか、消臭剤か、
「なんとかできるかも」
 と思ったら、つい振り返ってしまう女性は多いと思います。
(なんせ、洗濯したばかりの衣類なのににおいが……って実際あるしな)
(主婦としては気にならないわけがない)

 そのへんの心理をついたCMだったんでしょうね。

 臭いの問題は深刻ですよね。

 自分ではなかなかわからないし、さりとて、他人からはっきり指摘されると「ショック」を受ける。

 わたしは昔から、
「なぜ、タバコを吸う人は、タバコ臭いというと怒るんだろう」
 という疑問を持っておりました。

 体臭が強いなどの場合は、指摘すると大抵の人は衝撃を受けつつも、すみませんといい、なんとかしようと努力をなさるのに、なぜかスモーカーは、(指摘されればショックはショックらしいが)すみませんという代わりに「怒る」——という場面に遭遇してきたので。

 それにしてもやはり、誰だって、自分の臭いを指摘されるとショックですよね。
 体臭に限らず、香水つけすぎて臭いと言われても、えっと思って慌てる。

 相手がどれほどこちらのことを気遣いながら丁寧に伝えてくれたとしても、ショックを受けます。

 本当に恥ずかしいやら申し訳ないやら、「身の置きどころがない」とはあのこと。
 恐縮し、自分をその場から消し去りたいほどの感覚に陥る。

 だというのに。

「臭うとは何事だ」
 と、怒るって、ありゃどーゆー心理なんですかね?
 
 もちろん、それを馬鹿にしたり、傷つけることを目的にして嫌味な言い方をするのは論外です。
 
 でも、本当に、どうしようもない「指摘」として、どんなに気遣いながら伝えても「怒る」人がいる。
 まるで、それを悪臭だと認識する方が悪い、というように。

 ………というかそういう認識なのかな。

 香水やタバコの臭いなり、誰かの体臭なりを「悪臭」だと感じる方が悪い、と?

 悪いと言われても困りますけどねえ。
 わたしも過去2回、混み合った電車やバスの中で、隣り合った人のにおいで失神しかけたことがあります。
 その人は悪くない。わたしも悪くない。
 でも、失神するほどの衝撃ではあった。
 これは「官能」ですからわたしにだってどうしようもない。

 またわたし自身、病気療養中で風呂どころかシャワーも使えずにいたことがあります。
 必要があってのこととはいえ外出するのが本当に嫌でした。
 自分自身でさえたまに「臭う」んだから、他人は尚更だろうと思うと——もういたたまれませんでした。
 仕方のないことなんだけどそれでも。

 そういう、「いたたまれない」思いをした人間からすると、そこで「怒る」って反応がわからないのです。

 くどいようですが悪意をもって言ってこられた場合は別ですよ。
 その場合は頭に来て当然です。
 それは臭うかどうかが問題じゃなく、悪意をもって殴りかかる人は犯罪者だという問題なので。
 
 でもそうではない場合。
 こんなこと言われたら傷つくだろうな、言いたくないな、でも周囲の人間も限界だしな、ちょっとでもなんとかしてもらいたいなという苦衷の果てに、言葉を選びながら遠慮がちに伝えてさえ、「申し訳ない」という代わりに「臭うとはなんだ!」つって怒る。

 これは不思議だなと思っております。

 怒りは2次感情と言われますから、怒りの下にはまた別の感情がある、とも思われますが、それはそれとして、ともかく。

 事実は事実として受け止め、伝えるほうも本当に心苦しいと思ってのことなので、それなりにご対応いただければと願っております。

 人間関係の摩擦という場面における怒りは、大体「寂しい」か「悲しい」かが根底にあります。

 においを指摘されたときの爆発的な怒りの下にあるものは、なんなのでしょうか。


  
 

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