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【ショートショート】麺と友

 高校卒業の日、俺は同級生のタカシに芸人になろうと申し込んだ。
「コンビを組んで芸人やろう!!」
 まさしくプロポーズだった。
「すまん!俺、ラーメン屋になりたいんだ...…」
 まさしく失恋だった。


 結局、俺は芸人になることはなく会社員をしている。高校を卒業してから丁度10年。タカシから「俺のラーメンを食べてほしい」と連絡があった。

タカシが作ったラーメンは醤油豚骨系、たっぷりの野菜に豚の脂、溢れんばかりのニンニク、岩の如きチャーシュー。所謂、二朗インスパイアだった。

「どうだ、俺のラーメンの味は?」タカシは頭にタオルを巻き自身満々で尋ねた。

『うまい。うまい...…が』

「が、なんだ?」タカシは前のめりになる。

『俺の部屋で作ることないだろ!普通の台所で湯切りするんじゃない!ビチャビチャだろうが!!2度とするな!!』

「すまねぇな。でもまだ、スープが残ってるぞ。替玉はどうする?」

『……くっ、2度まで許す』

「あいよ!」

 ああこれだ、このやり取り。だから、俺はあの日こいつに...…。

「なあ、タカシ...…やっぱり俺、」
 まさに恋だった。
「うん?ああ、そうだよな。やっぱり餃子も食うよな!」
 叶わぬ恋だった。

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