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【ショートショート】人形町

厭な夢を見た。

そこは奇妙な町で、住民はボロボロで手足が無かったり、髪の長い和服を着た女性がぷらぷらとと歩いていたりする。
「すみません」と話かけ「ここは何処でしょうか」と言いかけたところで、ハッとした。その人には顔がなかった。薄汚れてはいたが、ツルリとした質感はすぐにマネキンだと分かった。この町の住人が全て人形だと思うと頭がクラクラした。

「ここは捨てられた人形の町ですよ」突然声をかけられた。後退りしながら振り向くと声をかけてきたのは男性で、顔があった。
 

そこで目が覚めた。
俺を抱いて寝息をたてる太郎を確認して安心した。太郎は人形の俺に《次郎》と名付けてくれた。俺達はまるで兄弟のように育ってきた。どこに行くのも一緒だ。俺は薄汚れていくだけだが、太郎は今年で8歳になる。俺に話しかけることも少なくなった。おぼろげに、先程の夢を思い出して少しの不安が胸をよぎる。

 俺達はずっと一緒だよな……。
 太郎の寝顔にはあの町で話かけてきた男の面影があった。


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