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「50年の記憶」

2024年 5月

生まれたり死んでしまったりのその日のはざまで
生まれたり死んでしまったりのその日のはざまで
・・・
河は今日も気持ち良く背骨をのばすよ

(友部正人『夕暮れ』から)

 50年がかりの新作『大好き 〜奈緒ちゃんとお母さんの50年〜』が、やっと出来上がった。
 それも、完成上映会の二日前に最終の録音作業を終えてゼーゼー息を弾ませながらゴールに駆け込んだような塩梅だ。
 よく「伊勢さんは粘り強く時間をかけてドキュメンタリー映画を創りますねえ…」と感心されるけど、実は何事もスローモーで優柔不断な性格が成せる技で、ただただ仕事が遅いだけなんだ…。本当は、完成させたくない、という思いが強いのかもしれない。

 本格的にスタッフを組んで撮影を始めたのが、1983年の正月だから42年前…それに遡って主人公の奈緒ちゃんが生まれたばかりの頃に写真も何枚か撮っていたし、奈緒ちゃんのことが生まれてからズッと気がかりだったから50年の記録…50年の記憶というくくりにした。仕事が遅いだけじゃなく、ずっと見守り続けて来たというのも嘘ではない。
 

「奈緒ちゃんが『人生まだまだ』とお母さんお父さんをたくさん生かそうとしているように見えて、涙が止まりませんでした。とても切ない深い映画でした。」

「初めから最後まで笑えるシーンがたっぷりで飽きることなく楽しく見ることができました。そして最後にはジーンときて涙が出るという最高の映画でした!」

「信子さんの『何度も奈緒と一緒に死のうと思った』『奈緒に成長させてもらった』という言葉が残っています。」

「映像の美しさはもちろん、要所要所で入るピアノ曲、水の音、鳥のさえずり等も鮮烈に感じました。お母さんの、プーちゃんの代弁も!すてきですね」

「信子さんの『ずっと見ているよ』という言葉、そして、50年見てきた伊勢さん、映像スタッフの方たちの眼差し、さらには、月の視線というのか、もっとずっと遠くの方から、そそがれている眼差しのようなものを、最後受け取りました。まさに映画だなあ…」

「奈緒ちゃんだけでなく家族の側面から50年の記録が撮られていて、とても良かったです。重い内容ですが、暗くなく前向きに描かれていて見る側にも勇気と優しさが伝わりました」

 東京・日比谷と奈緒ちゃんの地元 横浜・泉区で行われた完成上映会の反応は上々です。ホッとしてます。今は、創って良かったなあ…という気持ちで一杯です。50年の間に関わった人々みんなに「ありがとう」を言いたい思いです。

 で、5月の下旬に映画『大好き』を一番に観せたかった「えんとこ」の主人公、学生時代の友人、遠藤滋の命日に『えんとこ』『えんとこの歌』の作品に合わせて、『大好き』を上映しようと思っています。遠藤が観たら、どんな風に受け止めてくれるかを知りたいから…。

 遠藤だけでなく、もう旅立ってしまい、今はいないスタッフの一人ひとり、友人、知人の一人ひとりにも観てもらいたいと思ってます。
 私は、今生きている人々にだけ向けて映画を創っているのではなく、今はいない旅立ってしまった人々に向けて、さらに言えば、これから生まれ出て生きる一人に向けて、映画を創っているとも思いたい。

 「記憶」とは過去のことだけでなく、
 今のこと、未来に向けての時間を言うのだ、
 と思うから…

 50年の記憶をぜひ観てもらいたい…
 「大好き」の記憶、「いのち」の記憶。

(かんとく・伊勢真一)



上映情報

遠藤滋 追悼上映会(5/18-19)

下北沢 ラ・カーニャ
世田谷区北沢2-1-9 第二熊崎ビルB-1 Tel. 03-3410-0505
(小田急線・井の頭線「下北沢」駅 徒歩5分)

■ 5/18(土)

◆16時 上映〜
「えんとこ」

えんとこは縁のあるトコ。寝たきりの障がい者・
遠藤滋のいるトコ。一日24時間三交代で彼を介助する若者たちが垣間見せる生き生きとした表情など、彼らの日常を3年間にわたって記録した。
監督の学生時代の友人・遠藤滋と若者たちを描いた「青春」ドキュメンタリー。(100分/1999年)
《キネマ旬報文化映画ベストテン第7位》
《朝日新聞・今年の映画五選》
《日本映画ペンクラブドキュメンタリー部門第4位》

◆19時 上映〜 \完成上映/
「大好き 〜奈緒ちゃんとお母さんの50年〜」

「長くは生きられない・・・」と医者に言われた障がいのある姪っ子・奈緒ちゃんが50歳になりました。撮影を始めてから42年、撮り続けた奈緒ちゃんと家族の日々の、記録というよりも“記憶”・・・。
『大好き』は50年におよぶ”いのち“の記憶です。(110分/2024年)

上映後ゲスト:ロケット・マツさん
        (パスカルズ、『大好き』音楽)
   ホスト:伊勢真一監督
       (『えんとこ』『大好き』監督)

■ 5/19(日)

◆16時 上映〜 \完成上映/
「大好き 〜奈緒ちゃんとお母さんの50年〜」

「長くは生きられない・・・」と医者に言われた障がいのある姪っ子・奈緒ちゃんが50歳になりました。撮影を始めてから42年、撮り続けた奈緒ちゃんと家族の日々の、記録というよりも“記憶”・・・。
『大好き』は50年におよぶ”いのち“の記憶です。(110分/2024年)

◆19時 上映〜
「えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋」

「激しくもわが拠り所探りきて障害持つ身に
いのちにありがたう」寝たきり歌人、遠藤滋は伊勢監督の学生時代の友人。脳性マヒで寝たきりの生活を強いられながら、介助の若者たちと過ごす「えんとこ」での25年間におよぶ記録。
”ありのままのいのち”を生かし合いながら生きる姿を追う。(96分/2019年)
《毎日映画コンクール ドキュメンタリー賞グランプリ》
《文化庁映画賞 文化記録映画部門 優秀賞》

上映後ゲスト:菅原雄大さん(介助者、チェリスト)
         他 元えんとこ介助者の方々
   ホスト:伊勢真一監督         
        (『大好き』『えんとこの歌』監督)

[ 各回定員 50名 ]
〈入場料〉
一本:2,000円 / 一日券:3,500円 (前売り:3,000円)*価格は税込です
〈予約・お問合せ〉
いせフィルム TEL:03-3406-9455 /
090-1059-5863(西村)
Mail: ise-film@rio.odn.ne.jp


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