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伊勢おいしいもの記

 漫画家をしております、PEACH-PITと申します。
 伊勢市クリエイターズ・ワーケーション2020に参加し、伊勢市に2週間ほどワーケーションとして滞在させて頂きました。
 コロナ禍のために延期に延期を重ね、滞在時期は2022年秋。
 楽しみが延びた分、伊勢の魅力をたっぷり堪能させて頂きました。それはもうあっちこっち、たっぷりみっちり、味わい尽くす勢いで。
 伊勢神宮の内宮外宮、市内別宮、二見神社、猿田彦神社と、由緒正しい荘厳な、あるいは清廉な社の数々。
 国内では今や貴重なラッコに会える鳥羽水族館。
 そして、いつきのみや歴史体験館、斎宮歴史博物館、さいくう平安の社は、平安を舞台にした漫画を連載している身としては貴重な平安作画資料の取材ができる場でした。(『清少納言と申します』講談社BE-LOVE連載中です!)

 海を前に、山を背にして清流を抱く土地、伊勢。
 名だたる神様がここに鎮座なさったのも納得です。
 文化の中心地だったこの土地には、きっと人々が集まると同時に、おいしいものもたくさん集ったことでしょう。

 そうなんですよ! 伊勢はおいしいもの天国!

 水うつくしい土地に、おいしいお米がそだつ。
 おいしい水と米は、おいしいお酒を造りだす。
 おいしいものは心を潤わせる。
 潤った心は感性を豊かに育て、芸術の土壌となる。

 天岩戸に籠ったアマテラスオオミカミがお姿をみせたのも、岩戸の外での飲めや歌えやの大宴会、そこで始まったアメノウズメノミコトの舞いのためでした。

 そう、おいしいものは光照らされ輝く芸術を生みだす!

 ……強引ですかね? でもそう思いません?
ともあれそうした観点から、ここではグルメに特化して書いてみようと思います。


伊勢といったら伊勢うどん


何はなくともまずはこれ!
伊勢と言えば伊勢うどん。
ふわふわに煮た極太麺に黒い汁でお馴染みのうどんです。

伊勢市駅そばの山口屋さんの伊勢うどん。真っ黒なつゆと極太麺の正統派。

腰のあるうどんも美味しいですが、柔らかく口の中でふわふわと解けていくうどんは伊勢独特、個人的にはこっちの方が好き。
子供の頃に戻ったような、どこか懐かしい、優しい気分にさせてくれるんです。

ふわふわのうどんは甘やかしてくれる。
そう甘やかしてくれるんですよ。
白くて柔らかい小麦粉の料理って何故か母性を感じる……。

疲れてるんでしょ?
あんまり噛まなくても大丈夫よ……ほーらスルスル入っていくわよ。
胃にも優しくしておくわね。余計な具も少ないからすぐエネルギーに変わるからね……。
そんな優しさ聖母の声がなんなら聞こえていい。

江戸時代、お伊勢参りに遠くから来た参拝客の疲れた体をいたわり消化のいいように…と考えられたのが伊勢うどん。そんな説にも納得です。


おかげ横丁で伊勢うどんと言えばここ!

おかげ横町の『ふくすけ』さんはいつも人で賑わっている人気店。時代劇に出て来る茶屋のようなお店の作りも相まって、江戸時代のお伊勢参り気分が味わえること間違いなしです。
滞在中2回食べました。

伊勢醤油店さん近くで漂う香ばしいにおい…ふらふらと引き寄せられる!

正統派もいいけど、もっと手軽に、縁日で食べるようなガツンとした軽食っぽさが欲しい。俺の腕は丼の重さにすら耐えられない、もっと軽い皿で食わせてくれ!
そんな時におすすめなのが、おかげ横丁『伊勢醤油店』の焼き伊勢うどんです。
伊勢うどんのふわふわ感と汁の甘辛い濃厚さはそのままに、香ばしく焼かれたうどんに紅生姜のアクセント。踊る鰹節。
これね…うまくてね……滞在中3回ほど食べました。好き。


出会ってしまった美鈴の餃子

伊勢の美味しいものは数あれど……
なぜかここで颯爽と躍り出る餃子です。
誰が言ったか、美鈴の餃子は美鈴の餃子という確立したジャンルの料理であると…。
この餃子だけは別カテゴリとして語ってしまいます。
それくらい衝撃でした、この餃子。

開店待ちにはためく赤い旗。
開店前後なら比較的並ばず入れるようです。

美味しいと有名…って言っても餃子でしょ?
だって餃子はそもそも全餃子がおいしいもの。なのにそこまでの違いって…?
そんな愚かなことを考えていた自分を時を戻して叱りたい。
美鈴の餃子はこれまでの餃子の概念を覆してくれました。

魅惑のむっちりボディ。うまいんだこれが…

見たところは特殊な具材を使っているでもない、奇をてらった製法でもない。
皮は確かに手作りで美味しそうだけど、至って常識的な餃子の皮に見える。
それが何故、どうしてあんなに美味しいのか。
どこがどう、何がどうして美味しいのか全くわからない。わからないがとにかく人生で食べた餃子の中で一番美味しかった。
それが美鈴の餃子でした。

お店に入ると、カウンターの奥の調理場が全て見える構造。どんなふうにあの美味しい餃子が作られていくのかライブで観戦できます。

いかにも美味しそうなもっちりした団子状、そこから目にも止まらない速さで皮状に伸ばし、やはり目にも止まらない速さで餡を包んでいく。チーム戦です。

皮を伸ばしていく人、包む人が一人ずつ、焼く人が一人。
それに、調理道具の片付けなど補佐する人が一人と、配膳担当の女将さんと大女将さん。
皮を伸ばしたり包んだりの作業も目を瞠るのですが、特筆すべきは焼きの行程。
複数のガスコンロにズラッと並べられたフライパン、そこに次々に餃子を敷き詰め、端まで行ったら最初のフライパンに戻り……片時も止まることなく次から次へと焼いていく。それはもうとんでもない精密さで!

焼きたての餃子は、焼き目はさっくり、皮はむっちり、肉汁はそうでもなくて餡は意外にさっぱり。

うん、餃子。餃子オブ餃子。

何度も言いますけど決して奇をてらった味ではないんですよ。
でも美味しい。美味しい。満足して店を出て、数時間も経つ頃には、あれもう一度食べたいな…となってくる。
人類は出会ってしまった……美鈴に。

伊勢市に行ったらもう一度食べたい。底力を知りました。美鈴の餃子、おそるべし。
初めて行ったのが最終日だったので一度しか行けていませんが、もし滞在初日だったら通い詰めてしまったかもしれない。

おにぎりも好きなんだなあ。帰りの車内でのお弁当にしました。
餃子以外のメニューももちろんおいしいんです。



やっぱりはずせない赤福

嫌いな人いる? いないでしょ!
日本のお土産トーナメントがあったら優勝候補間違いなし、みんな大好き赤福。
おかげ横丁の赤福本店では、嬉しいイートインサービスがあります。茶店スタイルの店内で、赤福二つとお茶をいただけるんです。

店内の大な釜。
本店の赤福はどこか違う気がする。おいしい。
つやっつやに輝く餡!
参拝で歩き疲れた脚にちょうどいいボリューム。

お土産には、この本店でしか買えない白黒の赤福があります。
白は白餡、黒は、レギュラーの赤福よりもダークな黒餡。
餡に上白糖を使っているのがいつもの赤福ですが、この黒い赤福は黒砂糖を使っているそうで、明治以前はこちらがスタンダードだったそう。
上白糖の赤福に比べると黒砂糖独特の深くしっかりとした甘さが舌に残り、食べ比べると楽しいです。
この本店では毎月一日、朔日餅という限定バージョンも販売されまして、なんと前日から長蛇の列!
地元の方には縁起物として親しまれているそうです。
やはり本家、地元となると色んな赤福が楽しめるんですね。


まだ暑い日もあったので、ぎりぎり赤福氷も食べられました!
これは二見支店の氷。カエルカラー。

お酒と海の幸のお店4選

海も山も近く、綺麗で穏やかな川があり、都にもそれほど離れていない、でも喧騒とは遠く静か、自然豊かで穏やかな場所。
海の幸も山の幸も集まるし、水が綺麗でお米も美味しい。
伊勢神宮を置かれた大和姫は実は、そんなイイトコドリの立地に惹かれてこの土地を選ばれたのではないでしょうか。

伊勢内宮、朔日の奉納の様子。名だたる銘酒ばっかりだ…。

だから何しろ酒がうまい。なぜなら魚がうまいから。
だから何しろ魚がうまい。なぜなら酒がうまいから。
伊勢志摩の牡蠣をはじめとした美味しい貝類、おいしいお魚が、町のあちこちで、手軽な値段で食べられてしまう。こんなの酒飲み天国ですよ。ひどい。あんまりです。
日本酒に最も合うつまみは貝類の刺身だと思ってるんですが、逆に言ったら貝類に最も合う酒は日本酒だと思ってるんですけどね。伊勢といえば地ビールもおいしいですしね。
気軽に入れる居酒屋さんで、美味しい地魚のお刺身が食べられる!
東京ではなかなかない感覚です。

こんなぷりぷりの牡蠣フライが町の至るところで食べられる!
殊に貝類がリーズナブルに頂けて素晴らしい。
扇貝は装飾品で見たことがあっても、食べたのは初めてでした。

こんなん酒が進んでしまって止まらない。
ということで、この項ではお酒と海の幸をテーマに、心に残ったスポットを書いていきます。


伊勢萬内宮前酒造場

おかげ横丁にある酒蔵さん。おいしい地酒や甘酒がずらりと並びます。
散策しながら飲み歩ける、小さなカップで提供される飲み比べセットがあるんですが、これがいい。

しぼりたて生酒と純米大吟醸。
この写真にはないですが、甘酒も麹の自然の甘さのノンアルコールで美味しいんです。

同じく食べ歩きできる軽食が、おかげ横丁のあちこちで目移りするほど売っているので、酒のアテには困らないという寸法。
おかげ横丁に行くとつい立ち寄ってしまうお店です。

斜向かいの『すし久』さんで鮎の塩焼きをゲット!
日本酒と鮎、最高かな…?


伊勢角屋麦酒内宮前店

昨今は日本各地で地ビールが醸造されていますが、伊勢にももちろんある!
伊勢角屋麦酒内宮前店さんでは伊勢のおいしいクラフトビールが楽しめて、こちらも、おかげ横丁に行くたびつい引き寄せられてしまいます。
貝類と日本酒は合うと書いた舌の根も乾いておりませんが、牡蠣とビールだって最高に合うんだ。特に牡蠣フライ!
お店の裏手に五十鈴川を眺めながら飲食できるテラスがひっそりとあり、そちらがまたいいんです。ちょっと穴場かもしれない。

晴れた日、清流を眺めながらの牡蠣フライとビール……はあ、また行きたくなってきた。


虎丸

河崎を歩いていると現れる『虎丸』の渋い店構え。あの河崎の蔵に入れるなんて!

海の幸&お酒で一番のお気に入りは、何と言っても河崎の『虎丸』さん!
蔵を改造した店舗は、外観からしてワクワクします。しぶい…!
予約しないとなかなか入れないお店ですが、あまりに美味しくて滞在中何度か伺いました。

魚介が何を食べても美味しい! 朝どれのお刺身が口の中で弾ける!


キラっキラの太刀魚。これをしゃぶしゃぶにして〆は雑炊……罪深いでしょいっそ。
まぐろのレアかつ。宝石か?

お魚はその日のとれたてを出されるとのことで、お造りの内容は日によって違うそう。
本当にここは大好きとしか言いようがない。胃が四つあれば永遠に食べていたかった。デザートの杏仁豆腐も美味です!


伊勢海老料理 倭庵 黒石

そして何と言っても伊勢海老です。
伊勢海老を食べるならどこ?と地元の方に尋ねて教えていただいた『黒石』さんでは、とても珍しい、脱皮伊勢海老が食べられます。
脱皮したてで、殻がまだ柔らかい伊勢海老。いわゆるソフトシェルってやつですね。
せっかく脱皮を頑張ったフレッシャーズを食べてしまおうというのですから人間ってやつは業が深い。


普通のイセエビと脱皮イセエビ。どっちがどっちがわかります?
指で殻を押すとぷにふにしてるんです。

一般的によく目にするソフトシェルクラブ…というと、柔らかく薄い皮をパリっと揚げる食べ方が主流じゃないですか。
脱皮伊勢海老もまた、目玉は揚げた調理とのこと。
あの上品で繊細な味わいの伊勢海老を油で揚げてしまうの…?
もったいなくない? やっぱり刺身が一番では?
そんな浅はかなことを考えていたあの時の自分を時を戻して叱りたい。
おいしい。まーおいしい。
揚げたソフトシェル伊勢海老、おいしい!!!

普段は食べられることの少ない具足部分も、ソフトシェルならからっと揚げてカリカリ。


バターで揚げ焼き風にソテーした脱皮伊勢海老、忘れられない味でした。
めっちゃめちゃうまかった。

もちろんお目当ての伊勢海老のお刺身も最高ですよ。繊細なのに味が濃い、上品にして濃厚。
もう住もう。伊勢に住もうよもう。
まあ住んだところでしょっちゅう頂けるかと言うとまた話は別ですけどね。
間違いなくハレの日ごはん。お祝いなどの特別な記念日に食べたいお味!

言わずもがな最高。



ワーケーションにやさしいカフェ4選

ここまで読むとただひたすら食い倒れツアーのために伺ったかのようですが、そう、これはワーケーション。
滞在しながら仕事をしようという企画なのです。
というわけで、伊勢でももちろん仕事も沢山しました。

漫画家の仕事には文字仕事もあります。
ストーリーを作っていく段階の構想をテキストで書き出して脚本状にしていく、プロットという作業がそれ。その次に、ネームという漫画の下書きの下書き的な作業でコマ割りを決め、そのあとでいよいよ作画に入るわけです。
この月はプロットからネームまでのすべてを伊勢でやりました。

この項では、ノマド的によく利用させて頂いたカフェをピックアップしてみます。伊勢でワーケーションをお考えの方、参考になれば嬉しいです。


参道テラス

伊勢市駅周辺でリモートワークができるカフェといったら、まずここが挙がるのではないでしょうか。
本当に駅を出てすぐ、抜群のアクセス。
広くてゆったり、そして何といってもWi-Fiがある。
cloudを使う作業や簡単な事務仕事もできて、何度も立ち寄りました。
広々した店内はおしゃれな内装で、採光部分が大きく明るくゆったり。
中庭に面する窓際席と、駅前が眺められる窓際、さらにテラス席もあります。


五十鈴茶屋本店

おはらい町通り、赤福本店のお隣の和カフェ。
丹精されたお庭をのぞむ店内は広々していて、席によっては仕事していても悪目立ちしません。
店員さんも皆さん優しくて親切。
もちろん観光地なので混雑時の仕事持ち込みは遠慮しましたが、平日は案外穴場で、よく伺いました。

美しすぎる季節の和菓子と冷やし抹茶。涼し気です。
窓際のお席は居心地ばつぐん。
つい時間を忘れそうになりますが仕事せな…

ダンデライオン・チョコレート伊勢外宮店

外宮のすぐそばにあるチョコレートショップ。
洋館を改造したかわいい建物に気分が上がります。
こちらはビーントゥバーということで、カカオ豆から自家製産したチョコの販売、そしてそれを使ったお菓子やドリンクを楽しめるイートインがあるんですよ。ビーントゥーバー、好きな言葉です。
落ち着ける店内で、外宮にお参りした後少しだけ仕事をしようかなという時に重宝させて頂きました。

背の高い格子窓から覗く木漏れ日……優雅!
チョコレートドリンクもお菓子もおいしい。

外宮のすぐそばなので日によっては混雑すると思うのですが、平日は席で仕事をしていても居心地がよいのです。本当は内緒にしておきたいお店。


スターバックス伊勢内宮店

リモートワークの雄・スターバックスも、おはらい町通りのお店ともなれば風情が違います。
町屋風の古い商店を改装した作りはまさに和モダン。
しかもWi-Fi入る和モダン。最強か?
ここも曜日や時間帯を選べば意外に落ち着いて作業できて、何度か伺いました。

おはらい町を眺めながら仕事できちゃうなんて…




おわりに

 以上、駆け足ですが伊勢のおいしいもの記でした。まだまだ書ききれないほど、他にも美味しいものはたくさん。
 今回は食べ物に絞りましたが、もちろん伊勢神宮を始めとした文化に触れる見どころも満載です。スマホのカメラフォルダは景色や建物の写真でぱんっぱん! いつきのみや歴史体験館で撮りまくった資料写真はお陰様で作品に活かせております。

 伊勢の町はどこか、やさしい空気が漂っているように思います。店員さんもお宿のかたもタクシーの運転手さんも役場の方も、皆さんゆったり、やさしい。

 神様のお膝もとだからでしょうかね?

 五十鈴川の清らかな水が、神代の時代から繋がって同じ流れを紡いでいると思って目の前にすると、何だか背筋がしゃきっとしたりもして。
 創作という仕事するためには、たくさんのインスピレーションを受けられた気がします。

また行きたいな!

PEACH-PIT 漫画家

【滞在期間】2022年9月23日〜10月6日

※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)