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<伊勢滞在記>新美桂子(Keiko Niimi)
伊勢に行くならば、アニミズム(自然信仰)への理解を深めたい。
あわよくば、創作に繋げたいという心づもりで、この旅に出ました。
そのおよそ二週間の体験を、振り返ってみます。
2021年11月22日、天気は曇りのち雨。
まずは横浜から東名高速道路を突っ走り、伊良湖岬へ。そしてそこからそのまま自動車ごとフェリーに乗り込み、海を渡りました。
霧深く、途中すれ違う船は幻影か、時折聴こえてくる鳥の声ももしや妖怪の仕業か、などと気分を盛り上げているうちに、あっという間に鳥羽港着。
さっそく二見へ移動し、「やわらの湯 民宿まるや」チェックイン。
私のわがままな熱い要望(天然温泉付き)も快く受け入れられ、ありがたくも “湯垢離(ゆごり)” 三昧。
お陰様で、心身ともに健やかな日々を過ごすことができました。
湯垢離、つまり湯で身を清める行為は、創作上の “アニマ” と結びつく大事な要素で、罪や穢れをはらう禊ぎの儀式としても今回不可欠なものでした。
といいながら、ひとっ風呂浴びます。
11月23日、晴れ。
自然を道具とみなす人間の傲慢さに対する、警鐘とも言える新型コロナウイルスの出現によって、今求められている世界は、自然界の精神的価値を認めることによって開かれます。
と高ぶりながら、「しょうぶロマンの森」を歩きます。
海や川、森や山、動物に植物、鉱物から建造物にいたるまで、あらゆるものに “精霊=神” が宿るという古来の思想を見直せば、そこに新世界に通ずるヒントが隠されているかもしれません。
と耽りながら、二見の海を眺めます。
こうした一連の瞬間にこそ、水木しげる先生の『幸福の七カ条』がビビビと響くのです。
ー「目に見えない世界を信じる」(第七条)
こうして見えないものを追い求め、海沿いを池の浦方面へ向かったこの日、最後に立ち寄ったのが「粟皇子神社」でした。
日暮れ前、ひっそり佇む小さなお社の先に、なんと「おしんの浜」が。
最終回のラストシーン撮影地だそうですが、ここには縁あって導かれた気がします。
NHK連続テレビ小説『おしん』は、放映された1983年、当時産まれたての私が映像として記録された、記念すべき昭和の朝ドラ。
〈自立編〉143話のみの一瞬の出演ですが、名場面に痕跡を残せました。
生後数ヶ月の赤ん坊だったので、田中裕子さんに抱かれた記憶を失っているのは残念でなりませんが。
11月24日、晴れ。
神話の舞台、「恵利原の水穴(天の岩戸)」へ。
アマテラス(天照大御神)が隠れたといわれる、伝説の岩戸です。
ちょうど少し前に、東宝のオールスター映画『日本誕生』(1959)を観たばかりだったので、新鮮な状態で『古事記』や『日本書紀』が蘇りました。
ばっちり円谷特撮仕立てで。
その映画の中で、天の岩戸の前でアメノウズメ(天宇受賣命)が踊り狂う珍場面がありますが、その女優(もはやダンシング・クイーン)こそが乙羽信子さん、すなわち私が前日偶然発見した粟皇子神社を最後のロケで訪れた “おしん”(中〜老年期演) 、というわけです。
全ては繋がっています。
11月25日、晴れ。
この日は丸一日、試練の朝熊岳登山となりました。
自然の厳しさを思い知った軟弱な二本足で、金剛證寺の激しく湾曲した太鼓橋を渡る気満々でしたが、堂々封鎖されていました。
無理もありません。橋は結界、その向こうはあの世だということですので。
俗界の人間にそう簡単に渡られて堪るものか、とでも言わんばかりの極限のアーチを描き、美しく水面に反射しておりました。
11月26日、晴れ。
冥界通信に励みすぎて、そろそろ現世に戻れなくなるかもしれない。
その懸念と寝起きの悪さからくる、夢と現実の混同を食い止めるため、河崎の「寝起松神社」へ。
11月27日(晴れのち雨)〜11月28日(晴れ)。
ここからは、二日連続で通った「神恩感謝日本太鼓祭」について。
私が個人的に強く惹かれたのが、「御陣乗太鼓保存会(石川県)」。
まずあの多種多様の恐ろしい形相のお面をつけた奏者たちが、もう完全に子どもを泣かす気満々で睨みつけながら太鼓を打ち鳴らしているのと、髪の毛に見立てて頭にのっけている海藻をブンブン振り回すヘヴィメタ感、そして威嚇してからの雄叫びと乱れ打ち。
現れ方とか挙動とか、何もかもいちいち最高にクレイジー。
あ、これは私もやってみたいなあと思いました。
翌日の太鼓祭二日目、引き続き様々な地域の太鼓演奏を鑑賞した後、おかげ横丁にてミニ和太鼓作りに参加。
“ミニ” だと思って甘くみておりましたが、思いがけず苦戦した紐締めは、朝熊岳登山に次ぐ過酷さでした。
この日の足は、電動自転車。カフェ「ORANGER CAFE wood」のレンタルサイクルを利用し、風を切って五十鈴川〜月讀宮をまわり、帰りに四角いシュークリームをいただきました。
カスタードクリームが隅々までたっぷり入っていました。
立方体の容積って、すごい。
11月29日、晴れ。
パールロードを駆け抜け、海岸づたいにドライヴがてら志摩へ。
小型船で英虞(あご)湾めぐりをし、横山展望台に登り、天地創造シミュレーションを行ないました。
そして、お目当ての安乗埼灯台へ。
映画『喜びも悲しみも幾歳月』に出てくる灯台のうちのひとつです。
「おいら岬の〜 灯台守は〜」
このメロディ、口ずさまずにはいられません。
高峰秀子ファンです。
11月30日(曇りのち雨)〜12月1日(晴れのち雨)にかけては、たっぷり時間をかけてそれぞれ内宮と外宮、伊勢神宮をまわりました。
なぜか私がお伊勢まいりに訪れると、必ず空模様が怪しくなってくるのですが、そういえば過去に二度、子どもの頃に家族と参拝しに来た時も雨で、やはり今回も境内に入った途端にわかに降られたりしました。
今回滞在中、初日と伊勢神宮を参拝した日を除いてはほぼ晴天に恵まれていたので、なおさら不思議でなりませんでした。
調べてみると、浄化や恵みの意味を持つ雨は、神の歓迎のサインだとも言われているらしく。さらに龍神様が喜んでいる場合、参拝時に雨に見舞われることが多いのだとか。
龍神様、毎度喜ばせちゃってるみたいで。身に余る光栄に存じます。
続いていよいよ二つ目の宿、「伊勢かぐらばリゾート 千の杜」へ移動。
ここの温泉、「“新美(にいみ)”里」と読めましたが、正しくは、「“しんみ”さと」だそうで。自意識過剰でした。
新美と新美里温泉。
12月2日、晴れ。
伊勢市外の津、松阪にも足を延ばし、城や小津記念館、三重県立美術館(「杉浦非水展」鑑賞)に寄った帰り、河崎にある蔵造りのインダストリアルな魚料理屋「虎丸」を目指すも、満席で断念。
伊勢出身のグルメなピアニストに教わった、もうひとつのオススメ居酒屋「一月家」にて、愉快にわいわい食べて人間謳歌しました。
帰り際、活気が外まで溢れている様に見入りながら、今日という一日、久々に下界に馴染めたなあと思えた夜でした。
12月3日、晴れ。
再び「天の岩戸」を訪れ、“水穴” のさらに奥の険しい道を進んで “風穴”、“猿田彦の祠” を拝みます。
12月4日、晴れ。
最終日を締めくくったのは、二見の「大注連縄張神事」。
木遺り唄とともに、夫婦岩に掛けられた縄を張り替えていく氏子の方々の勇姿を見届けた後は、船江の温泉「みたすの湯」に浸かり寒さで硬直した身体を癒し、復路の長距離運転に備え整体(整体院心)で全身ほぐされてきました。
以上をもって、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」における私的ミッションは完了です。
ここに全ては書き切れませんでしたが、一体幾つの神社をまわったことでしょう。偶然の出来事も必然と思わせる何かと、まだまだ未知なる神秘が眠っているであろうこの地で、漠然ながらも得体の知れない何かを得たように感じます。
最後に、伊勢滞在中にヒントを得て創作した、『野天に涌く』という詩を紹介します。
これは音楽に捧ぐ詩として、作曲家の伊左治直氏の新曲のために書き下ろしたもので、『水脈に爬(は)う』(西村朗氏の新曲のための詩)という、旅の前に完成した作品に続くものです。
両作品は、2022年3月8日に大阪で初演され、4月7日には東京公演が開催されます。私はメンバーとして、作詩のほかチラシやパンフレットのデザインを手掛けました。当日は演奏の合間に、舞台上で自作の詩の朗読をします。
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unit4/4(ユニット・カトルカール) 第二章
「西村朗×伊左治直」(東京公演)
会期:2022年4月7日(木)19:00 開演/18:15 開場
会場:めぐろパーシモンホール小ホール(東京都目黒区八雲 1-1-1)
東急東横線【都立大学駅】より徒歩約7分
【プログラム】(順不同)
・西村 朗 / Akira Nishimura (1953-)
《涅槃》(1997) 詩:萩原朔太郎/歌、ピアノ
《輪廻》(2004) 詩:萩原朔太郎 /歌、ピアノ
《水脈を爬う》(2022・初演) 詩:新美桂子 /歌、ピアノ
《タンゴ》(1998) /ピアノソロ
・伊左治 直 / Sunao Isaji (1968-)
《谷間に眠る男》(2015) 詩:A・ランボー (訳:伊左治直)/歌、ピアノ
《WHAT NONSENSE!》作詩者不詳(2000) /歌、ピアノ
《野天に涌く》(2022・初演) 詩:新美桂子/歌、ピアノ
《海獣天国》(2010) /ピアノソロ
※終演後、アフタートークあり
【出演者】
伊左治直(作曲・トーク)
碇山典子(ピアノ)
太田真紀(歌)
新美桂子(作詩・ 朗読)
※ゲスト:西村朗(作曲・トーク)
入場料:3,500円(一般)/2,500円(学生)
◉ご予約・お問い合わせ
お申し込みフォーム
Tel:080-6528-9812 /Email:unitquatrequarts@gmail.com
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改めてこの伊勢の旅を通して、数多くのアニミズムに触れられたこと、そのために力を貸して下さった伊勢市観光誘客課の皆様、出遭った森羅万象のすべてに感謝いたします。
新美桂子
へんば餅と、赤福ぜんざい。
新美 桂子(Niimi Keiko) 音楽家(作曲・演奏)/作詞家/広報デザイナー
https://unajist.wixsite.com/kniimi/
【滞在期間】2021年11月25日〜12月5日
※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)