ちょちょら組・伊勢到着
東京から名古屋まで高速バスに揺られ、鉄道を乗り継いで伊勢に入ったのは18時を回ったころで、約9時間を移動に費やしていたことになる。
バスの様子は三者三様で、ぽん太はインスタで可愛い子に「いいね」を押す作業にいそしみ、ぼくは本を読もうとしてはたびたび襲ってくる車酔いと闘い、信楽くんは隣の偏屈なじじいに絡まれイライラしていた。他人の行動に人一倍敏感な彼なのに、わざわざ刺激してくる輩が、なぜか彼の周りにたびたび現れる。
サービスエリアで「あっっのじじいっ」と文句を垂れてると、当のじじいが悠然と目の前を素通りする。
「聞こえたかなぁ、ねぇ、いまじじいに聞こえちゃったかなぁ」と気にする敏感な彼をなだめるのも、旅の醍醐味なのだろう。
一同疲労に顔を歪めつつ、伊勢市駅に着くと今回の事業の担当者と、楽日の落語会を仕切ってくださる席亭ふたりでのお出迎え。
どことなくほっとされている顔付き。
それはそうで、連絡を取り始めてから顔を合わせるまで約二年半かかったのだ。
やっと会えましたと挨拶を交わした事業担当者の「三宅さん」は、イメージ通りの「三宅さん」で安心した。
挨拶もそこそこに観光協会に向かう。
落語会の会場にもなる「風餐亭(ふうさんてい)」は、木造の暖かみある造りで、落語との相性は抜群のようだ。一生書けないであろう「餐」の字をつけるに値する雅な建物を案内してもらい、「ここで落語を披露してもらいます」と言われたメインの座敷は、ふるさと納税の返礼品で使うダンボールで溢れかえっていた。年の瀬に向かう観光協会名物風景がなんともかわいらしい。
事業説明のため二階に通されると、観光協会の専務理事「西村さん」から一通りの案内を受ける。もともと海外経験もある専務は豪放磊落な方で、自信の落語との想い出を挟みつつ、ありがたい情報を矢継ぎ早に投げ込んでくれる。返事をすると、すぐに話題は次へ次へと入れ替わる。
亀田三兄弟が、父・史郎師の作ったパンチング棒を高速で交わしている、あの映像が近いかもしれない。
だとすると、信楽くんは二三発交わしきれず殴られながら必死に頷いていた。
「よろしく頼みますよ!お客様満員だからね」
豪快に笑いながら、ありがたいお言葉を頂戴する。
みんなが、それぞれの仕事をして、最終日の落語会を楽しみにしてくれている。感謝します。
「電動自転車が乗り放題で、近くの温泉施設が無料で使えてな、わしゃ笑福亭鶴光の大ファンやねん」
西村さんのおはなしの中から拾いきれたいくつかの情報を記憶に書き留め、一同宿に向かった。
文・橘家文吾
ちょちょら組 落語家
橘家文吾 (Tachibanaya Bungo)
https://www.tachibanayabungo.com/
柳亭信楽 (Ryutei Shigaraki)
https://www.shigalucky.com/
三遊亭ぽん太 (Sanyutei Ponta)
https://pontathe2nd.amebaownd.com/
立川かしめ (Tatekawa Kashime)
https://peraichi.com/landing_pages/view/tatekawakashime/
【滞在期間】2022年11月7日〜11月13日
※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)