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社内アイデアの種を芽吹かせる共創の機会「Creative☆Lab」スピリットを全社に伝えイノベーションに繋げる-【Innovation Quest】vol.7 積水化学工業株式会社

2021年度秋より、イノベーション現場のリアルを知るべく、i.school生がアクセラレーションプログラム/イノベーションセンターを展開する企業へインタビューを行う連載企画【Innovation Quest】連載をスタートしました!今回はvol.7として、積水化学工業株式会社さんにお邪魔しましたので、その様子をお届けします。

企画の趣旨はこちらのnote記事にてご覧いただけます。

目次
■水無瀬イノベーションセンターの設立のきっかけについて
■社内の取り組みの融合Creative☆Labとは
■技術の伝え方と連携の取り組み
■事業部間の足並みをいかに揃えていくか
■積水化学工業株式会社の目指す展望と課題

■プロフィール

青木 京介さん
積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所
開発戦略部 イノベーション推進グループ長
出身は営業畑で、海外駐在を経験した後に開発研の新企画創出の部門に異動。現職には2021年より携わり、現在に至る。

仁木 章博さん
積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 開発研究所
開発戦略部 イノベーション推進グループ
これまで、主に開発業務に従事。2016年から水無瀬イノベーションセンターの立ち上げに携わり、2020年に開設。現在はオープンイノベーション推進に注力する。

■水無瀬イノベーションセンターの設立のきっかけについて

ー最初に、この建物の設立のきっかけと理念についてお聞かせいただいてもいいですか。

青木さん
:この建物は水無瀬イノベーションセンターと言いまして、略してMICと呼んでいます。我々はずっと「挑戦」を謳い続けてきたのですが、特に「融合」というキーワードに着目して取り組んでいます。弊社は社内で取り扱う分野が広い会社なので、例えば住宅事業や環境ライフライン、高機能プラスチックスというカンパニーと、3つに分かれておりまして、それぞれがほぼ別会社のように自走している状況です。

それぞれの事業体は全く別の事業を展開しており、例えば高機能プラスチックスの中でもセラミックス用のバインダー樹脂を作る部署があれば、両面テープを作っている部署もあります。また自動車の合わせガラスのフィルムを作っているところもあります。

全く、製品の形も技術も違うので、この1つの会社の中にも、実は小さい企業が集まっているような状況です。その中に横串を通すという作業が非常に困難で、過去の取り組みではなかなか難しかったという経緯がありました。通常他社のイノベーションセンターでは、社外との技術の融合をコンセプトに挙げられると思うのですが、積水化学の場合は更に手前で、そもそも社内での融合ができていないのではないか、という仮説と問題意識を強く持っていました。その中で、社内で実施ができた場合、もしかすると社外でも可能になるかもしれないと考えています。

■社内の取り組みの融合Creative☆Labとは

ー設立の背景として社内の取り組みを融合することに、重きを置かれていたのですね。

青木さん:そうですね。やはり社内で融合できていないことに対して、課題感を持っている人が多かったので、設立当時のワーキンググループのメンバーも強い問題意識を持って実施していました。今のイノベーションセンターの運営は、イノベーション推進グループが主体的に行っており、メンバーは私を入れて4名で、それぞれが担当領域を持っています。

外部連携を担当するメンバーはもちろんのこと、内部で社内交流の推進に繋げるためのCreative☆Lab(以下、C☆Lab)という活動を担当する者が1名います。さらにMIC1Fの拡充や情報発信を担当するメンバーもいて、そのような形で分担をして業務を進めております。

その中で、この施設からオープンイノベーションを生み出すために、主にこの展示エリアを中心とした、我々の会社の技術の伝達に力を入れています。やはり、実際に来て頂くということに意味がありますので、ウェブやカタログベースでお話しできないような、実際の体験にこだわりを持って運営をしています。また、こちらの建物は研究所の横に位置することが、立地上重要なところでもあります。

施策に関して具体的に言えば、あるテーマでお客様がいらっしゃるとなると、製品と技術の紹介について、研究の最前線にいるメンバーがコミュニケーションをするかたちを取っています。やはり、一方的に技術を伝えるだけでなく、我々もコアの部分を理解して頂き、何が一緒にできるかという共創のきっかけを与えることがMICのあるべき姿だと感じています。

■技術の伝え方と連携の取り組み

ー普段のお客様はどのような経路で見学に来られるのでしょうか?

青木さん:ここにいらっしゃる8割の方々は、当社営業経由でご招待する他社の技術・開発担当の方々で、先様の優れた技術を持ち寄って来て頂くことが多いですね。先程申し上げたようなかたちで、この施設はコミュニケーションの場として使うことが多いので、どうしても会議室だと出てこないお話や、考えがこの場所で出てくることを期待して頂けるケースが多いと思います。残りの2割は、逆にこちらから狙い撃ちをする形で、注目している方々と一緒にやりませんかとお越しいただくケースもあります。

以前は、開発系と営業系の乖離が少なからずあったこともあり、単純に連れてきたとしても、何も見せるものがないという状態で終わっていたこともありました。ただ、この施設ができたことによって、人を連れて来て対話のきっかけを作るということが少しずつできるようになってきました。最初の頃は、営業部や事業部に対しても、センターを有効活用してほしいということで、社内での宣伝をしていました。地道に継続しながら、全般的な技術や施設の話を通して、お客様に感心を持って頂けるようになり、口コミでこの場所が使われて、広がってきています。

正直、当初想定していた広報戦略などもあったのですが、やはり運用していく中で「こうした方がいい、ああした方がいい」と思うところがあって、少しずつアップデートをしています。劇的ではないので、バージョン1.0から2.0の変化ではなく、0.1ずつですね(笑)今は3年目を迎え、バージョン2.0くらいまで来たと思っているのですが、さらに大きく変化をしたいと考えています。

仁木さん:やはり技術を見てもらいたいというのが根底にはあるのですが、見せ方自体は結構難しいところがあります。どうしても、技術の押し売りにはしたくないので、異なった分野の方々にも技術を直感的に理解頂けるような展示なども作っています。

(説明資料を手に取りながら)例えば、これは発泡体なのですが、作り方などをそのまま見せても頭にはなかなか残らないですよね。そこで私たちはその機能をお相撲さんのモチーフで表現しているんです。お相撲さんのフカフカとしてるけど強靭なイメージがまさしく積水の発泡体なんです。イラストも用いて、このような形で衝撃吸収、遮音、防水、断熱などの機能について、直感的に訴えるような見せ方をしています。

ーこの施設を立ち上げるに当たってベンチマークや参考にした例は今までありましたか。

仁木さん:実際に色々なところを見学させて頂きました。もちろん、一番先駆けの富士フィルムさんや、関西ではダイキンさん、サントリーさんも見学をさせて頂きました。その中で、MICでは、人がどのようにコミュニケーションをとるか、また交流するかに関する工夫に力を入れていく方針を決めました。例えば、明確にフロアーごとにコンセプトを分けており、その時の仕事内容や規模に応じて場所を変えてもらうことで、新しい発想に繋げていく狙いがあります。フリーコーヒーもありますし、コーヒーを持ちながら館内を移動できるように蓋付きのカップを用意しています。

小さいことの積み重ねではありますが、実は社員との議論を通して「こうしたい、こうなるとさらに良い」という声を吸い上げてきた背景があります。社員の声を反映させていくということと、交流を促す建築の設計に関しては意識をしていますね。

真ん中の螺旋階段でぐるぐる登ってフロアを行き来する形状は、効率性という意味では当初は反対もありましたが、どこでも広く立ち話ができ、歩き回れる作りにもしているんです。また、カフェテリアの食堂はあえて、5階にのみ設置して、一ヶ所に集めることによってお昼休みはみんなが自然と違う部署の方とも会話できる機会を作っています。

■事業部間の足並みをいかに揃えていくか

ー運用してきてみて、センターとしての役割や位置付けで変化してきた点はありますか。

仁木さん:社内の融合という観点に関しては大きく影響がありました。先ほどもお伝えした営業と研究所のコミュニケーションや事業部間の連携については、良い成果が出ていると思います。一方で、社外の融合という観点に関しては、まさしく今後の課題と捉えています。過去2年間で意識の醸成は出来てきましたが、それが成果となって身を結ぶ状況はまだ少ないと考えております。長期の視点で考えつつ、今後も発展させていきたいです。

また社内の足並みを揃えるにあたって、やはり事業部ごとにKPIが違っているため、なかなか意識の調整をするのは大変です。最終的には、どの部署も売り上げや利益への貢献に繋がるべきではありますが、その過程をKPIで調整するというのはなかなか難しい側面もあります。

私の理解では、どこの会社でも言われていることだと思っており、イノベーション文化の醸成や、マインドの変革などをどのように定量的に数値化するのかは難しく悩みどころです。来場者数や、見学して頂いた組織の数などの数字を記録していますが、イノベーションに繋げていく施設のKPIとして本質はどこにあるのかという点に関しては引き続き考えていく必要があります。一方で、物を作って、製品を売って、収益を上げる理念を大切にしていくことが肝要で、決して忘れないようにしたいと思っています。

ー今後MICを拠点に更に力を入れていきたい業務はありますか?

仁木さん:C☆Labという活動を、毎週定期的に実施しており、定着してきたかなと思っています。多様なパートナーを巻き込みながら、企画のネタ出しから高質化を目的としたイベントを各種開催しております。ここを起点として、共創のもととなるアイデアを生み出す場として活動しています。このC☆Labが至る所で自然発生する環境は、最終的に目指す姿のひとつかもしれません。理想は各部署の若手を含めて様々な方々が自発的に集まる状況ですね。極論を言えば、我々がやっているような運営部隊はなくなっていくことが目標とも言えるかもしれません。それが続いていくことで、開発部門もマーケティングの部門も垣根を超えてイノベーションに繋げていく土壌になっていくと思っています。

今はまだ少しずつテーマのかけらが生まれてきたような状況なので、それらが開発に進んで量産体制を取り、実際に事業化につながるというのはもう少し後だと思います。時間はかかりますが、少しずつ土壌は整ってきた状況です。一般的に、誰が何をしているかということは暗黙知として、オープンになっていないと思うのですが、そこから社内で誰もがいつでもテーマを掲げて、そこに人々が集まるという状況になっていくのが理想です。

ちなみに弊社の企画部隊は特徴的で、企画メンバー自体は50名ほどいます。2014年に開発企画部として設立したのですが、ミッションに向けて新たなテーマを作っていました。まず最初はいわゆる卓越した技術屋や、マーケターを集め、外部のヘッドハンティングもしてきました。そのため、企画部の半分以上の方々は多様なバッググラウンドを持っている人が多いです。また、2023年4月に企画部隊が分かれて、各事業領域ごとに設置された開発センターに統合しました。これは、企画から製品開発、量産化までを一気通貫で実行しようという狙いがあります。

少しずつ土壌作りが進んできた一方で、社内の融合とは違う観点としては、やはり、積水化学は自社で何とかやってみようという意識があり、意思統一はしやすいのですが、外部との融合、オープンイノベーションはまだ、緒についたばかりではないでしょうか。MICの活動に関しても、少しずつじわじわと全社、社外にも浸透してきていますのでこれからも様々な人々を巻き込んでいきたいと考えています。イノベーション推進グループ、開発戦略部としても、現場の方々も含めて、各部隊を束ねていく機能として位置づけている狙いがあります。

ーC☆Labに参加される人々の感想なども良かったらお聞かせください。

仁木さん:よくある話ではありますが、やはり2対6対2という分類で参加者は分かれている印象です。2割の方々は非常に良い印象を持って頂いていて盛り上がっております。また6割程度の方々は、ご賛同は頂けているくらいの状況です。一方で取り組みに対して、少し懐疑的な方々も2割程度いらっしゃいます。

私たちとしては、やはり盛り上げて頂いている方々に、そのまま継続的にチャレンジをして最終的に成果につなげて頂くことで、更に残りの方々も引っ張っていくことが可能になると考えています。そのため、可能性を感じてくださる方々への支援を続けたいと思っています。

全社でイノベーティブなマインドを醸成していくには、長い目で見て、時間をかけていかなければならないので、そう簡単にはできるものではないと思っています。C☆Labを含めた小さな活動を地道に実践していく必要があると感じているので、当たり前のことを、社内から一歩ずつ実践して、知らない方々にも少しずつ認知して頂いて、足を運んでくださるようになると信じて、我々自身も楽しんで実施することにしています。

■積水化学工業株式会社の目指す展望と課題

ー最後にMICの考えている展望と課題についてお聞かせください。

仁木さん:今後は、外部連携の更なる推進を検討していきたいと考えています。そのために、連携先の拡大や技術の拡張に力を入れていく方針です。また、小さなことかもしれませんが、空間や外観の統一感や、備品の整備といった小さな雰囲気作りも大切にしていこうと思っています。加えて我々が現在、中長期的な羅針盤としてまとめた戦略マップの詳細設計と運用を検討しています。

さらに、社内の取り組みとしてのC☆Labに関しましても、新テーマに繋げていくためのアイデア創出と情報共有、アイデアのブラッシュアップを続けていきます。また、社内の研修にもフォーカスして、イノベーションに繋げていくことができる人財の育成を行っていく取り組みも実施していきます。

ーこの度は、お時間を頂きましてありがとうございました!

左からi.schoolプロジェクトアシスタント安藤智博、積水化学工業株式会社青木京介さん、積水化学工業株式会社仁木章博さん、i.lab マネージングディレクター横田幸信


メインインタビュアー・ライター:安藤 智博(あんどう ちひろ)
2021年度 i.school 通年プログラム修了生
i.schoolプロジェクトアシスタント

デザイン:i.lab井上麻由(いのうえ まゆ)

<企画・運営>

【Innovation Quest】は、イノベーション教育プログラム「i.school」とイノベーション・デザインファーム「i.lab」の共同プロジェクトです。

i.schoolとは

i.schoolは、東京大学 社会基盤学専攻教授・堀井秀之が2009年に始めたイノベーション教育プログラムです。社会の価値観を塗り替えるイノベーションを本気で起こしたいと考える学生が、アイディア創出法を体系的に学びます。単位も学位も出ませんが、毎年優秀な学生が幅広く集まっています。修了生は200名以上にのぼります。

i.labとは

i.lab は、イノベーション創出・実現のためのコンサルティングファームです。東京大学i.school ディレクター陣によって2011 年に創業されました。i.lab は、東京大学i.school が世界中のイノベーション教育機関や専門機関の知見を発展的に活用しながら独自進化させてきたアイデア創出やマネジメントの方法論を活用して、コンサルティングサービスを提供します。


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