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都立中高一貫校合格!家庭学習マニュアル 24年3月改訂版

はじめに

“都立中高一貫校とは、都内在住者を対象とした都立校です。都はその狙いを次のように説明します;

「6年間の一貫教育の中で、社会の様々な場面、分野において人々の信頼を得て、将来のリーダーとなり得る人材を育成することを目的とする」

2024年現在、次のような学校があります。

小石川中等教育学校
桜修館中等教育学校
立川国際中等教育学校
南多摩中等教育学校
三鷹中等教育学校
白鷗高校附属中学校
両国高校附属中学校
武蔵高校附属中学校
富士高校附属中学校
大泉高校附属中学校

2022年4月から立川国際中等教育学校は附属小学校を開設し、都立で初めての小中高12年間一貫校になりました。経済的負担がほとんどないことに加えて、その設立趣旨から都立中高一貫校はいま、大人気となっています。

このnoteでは中学受験にあまり詳しくない保護者の方にも分かるように
・「家庭学習メーンにして、都立中高一貫校に合格できるか」
・「できるとしたら、どんな勉強をやればいいのか」
・「親は何をすればいいのか」
・「具体的な方法を知りたい」
---といった質問に答えます。

都立中高一貫校受験生の指導に当たっている個別指導塾塾長、現役講師の一つの意見、体験談としてご参考にしていただければ幸いです。

*タイトルに「都立」とうたっていますが基本的に他府県の中高一貫教育校の受検(受験)を検討の方にも役立ちます。

*章ごとに書いた時期、掲載場所が異なるため「ですます」調と「である」調が一部、混在しています。ご容赦いただければ幸いです。

*改訂版では主に参考書や問題集を新しいものを追加したり、入れ替えたりしました。


第一章 6年生6月入塾からでも合格


私の経営する個別指導塾に飛び込んできた小6の男の子の話だ。「クラスのお友達の影響で急に中学受験を思い立った」。近年、人気急上昇の都立中高一貫校の一つ「白鴎中を受験したい」という。

入会したのは6月。普通なら無理と思われる時期だったが結果は見事、合格した。ご参考までに、短期間でどのような勉強をして合格に至ったかを簡単に紹介する。

中高一貫校入試の答案用紙;ほとんどが記述式だ

まず、生徒の素質。進学塾への通塾経験は一切なし。公立小学校のテストで85-100点を取っていると言う程度。中学受験に向けての特別な訓練をしていない。これでは、難関中学を目指すには心許ない。だが、入試直前にはそれなりの答案を書けるようになっていたと言う結果から考えると、論理的に考える能力に優れていたようだ。

この子の事例だけからではないが、結論から言うと、
・「論理的に考える能力」
・「基礎的な(と言っても公立小の授業内容はほぼ100%理解している)学力」
ーーが備わっていれば(育っていれば)、短期的な訓練でも都立中高一貫高附属中学校に合格できる可能性があると言える。

答案を埋め尽くせ

ラッキーだったのは私の個別指導塾に白鴎高校を出たばかりで、国立大学在学中の優れた講師がいたこと。彼女が言うには「合格するためには答案をとにかく鉛筆で埋め尽くせ!それが合っていようがいまいと」とのこと。

彼女の言葉を信じて、とにかく答案を埋める練習を彼は始めた。授業は個別指導(1:2)80分授業を週2回。8月から週4日にしてもらった。トップ進学塾Sなどが6年生で週6日×5時間の授業を行っていることを考えるとこれでも慎ましい限りだ。

テキストとしてまず、用いたのは社会のグラフ系の問題集と算数の論理思考系の問題集の2冊。都立中高一貫校の問題は見たことのある人なら分かると思うが、有名大学生でも容易に解けるような問題ではない。市販の過去問題集の解説すら時に間違っているという難易度だ。小学生に「埋め尽くせ」と言っても、何をどう書いていいのかわからない。

問題条件の整理を答案に書く


そこで、正答にたどり着くことはさておいて、まずは
・「問題の趣旨を読み取ること」
・「整理して書き出すこと」
・「それを答案に書くこと」
ーーから始めた。それで少しは答案が埋められるというわけだ。

一部を除き、多くの進学塾ではいきなり問題を解かせようとする。この準備段階をなおざりにしている。それが彼らをして低い合格率に甘んじさせている理由の一つだと思う。3年前に始めたばかりの小さな個人塾(原稿執筆時)だから極めて慎ましい実績だが、この3年間で2人受験で2人合格させている。今年も来年、両国中を受験する女の子を抱え(こちらも小6入塾)、ほぼ100%合格させる自信がある。

答案を埋めよ、そのためにまずは複雑で長い問題文の求めるところを整理して書き出し、答案の一部にしてしまえという戦術は結構、うまくいっていると思う。

一読しただけでは大人でも何を言っているのか分からないような設問

例えば、上記のような算数系の問題。問題の条件自体が非常に複雑なことが多い。なので、問題の条件を箇条書きで書き出すこと。表や図(絵)にしてみること、そしてそれを答案に書くことを指導した。

実際はまだ何も問題を解いていないわけだが、図表や絵を多用した答案は、コンサルタントの分析のようで採点者からは頭が良さそうに見える。何よりも答案用紙が少し埋まることで、本人が無力感から開放されるのがいい。

社会のグラフ問題でも同じだが、初めのうちは解けなくても良い。1周目は、問題文の趣旨を箇条書きや図表で見栄えよく書き出すことをやり続けた。実際に解答に取り組んでみるのは2回目からだ。

不思議なもので、問題内容を箇条書きや図表にしていただけなのに、2回目では解答への取組みが始まるのである。考えてみると、これは何も不思議なことではなく、頭が整理されたから道筋が見えてきたのだ。

追記:結果的にこの年の両国中受験生は補欠5番(おそらく1点差!)で地元公立中に進学することになった。模試ではずっとA判定だったので私も油断して授業数を増やさなかった。くもん(算数・国語)しか通塾経験はなかったため、理社関係で知識と練習量が不足だったのではと反省している。

とはいえ、翌年にはまた白鴎中に合格させている(4年間で4人受けて3人合格1人補欠)。ほぼ同じ小学校の生徒を抱える近隣のEゼミナールが毎年20名近くを受験させて、ここ数年、合格者が0-2名であることを思えば、このやり方が間違っているとは現在も思っていない。

改訂版追記:両国中不合格の彼女はその後、地元の公立中進学後も当校への通塾を継続し、今春、日比谷高校に見事、合格した。一貫中受験への挑戦は超難関校合格に間違いなく役立った。

国語「主語と述語の発見」から


8月から週4回にしてもらったのは、理科と国語の論述問題に取り組んでもらうためである。理科への取り組みは、前述の算数思考問題や社会グラフ問題と同じやり方でよい。

理科を後回しにする理由は、社会のグラフ問題の方が少し取り組みやすいのではないか、というそれだけの理由だ。理科が先でも構わない。しかし、国語については明らかに後回しにしなければならない理由があった。

高校入試どころか大学入試レベルとも思える難解な「読解」問題。中高一貫校の国語問題は記述式長文なので、そのことに着目して難易度を訴える向きが多く、中高一貫校の国語問題は「作文問題」と呼ばれることも多い。

作文用紙⁉️

だが、前述の「物事を整理する思考」を身につければ、実は長い記述(作文)を書くことはさほど難しくない。箇条書きで書き出したことを文章にすれば容易に長い文章にできるからだ。しかも、重複がないのでとても良い答案だ。それ故「算数・グラフ問題などの問題条件整理」→「国語問題」という順番でやらせているのである。

改訂版追記:このやり方は、「共感力」よりも「論理的思考能力」長けていた彼だから上手く行った側面もあった、と今になっては思う。そもそも、論理系読解力がない場合は、問題条件の整理・書き出しすらおぼつかないだろう。そういう場合は、親御さんなりが寄り添って、まずは見本を見せることが必要だ。

親の面子から完璧にやろうなどと思う必要はない。「あれ?違うな。。こうか。。」などと言いながら、書いたり消したりしながらやれば良い。その問題に向き合う姿勢を見せることが実は一番、大切なのだ。親が解いている間、子どもは暇だからソファに寝っ転がっていても良い(笑)。

繰り返しになるが、中高一貫・国語の難しさはその記述式という形式にあるわけではなく、長文問題文の読み取りにある。つまり、箇条書きにすること(=読解)自体が算数の問題よりもずっと難解なのだ。では、どうすれば良いか? 私は、国語会のカリスマ、出口汪先生の「主語・述語・目的語」読み取り方式が現在でも最強だと思っている。

国語も初めから解答を書く必要はない。具体的にいうと、物語文であろうが説明文であろうが、それぞれの段落の要点をとらえること。そのためには段落の中の文について逐一

・「誰が何を言っているのか」
・「何が何をやったのか」
・「主語・述語・目的語」

ーーの発見に努めさせる。

こうすることによって「段落の要点」が見えてくる。すると「段落の役割」と「文章の構成」が見えてくるわけで、国語の長文問題でも「箇条書き」や「図表化」が可能になる。

追記:中学校の国語の先生がよく黒板に教科書の長文を整理していたのを覚えているだろうか。あれは「段落の役割と構成」を図にし、作者の言わんとするところを理解しようとしていたのである。

ここまで来れば、あとは「問題に答える(解く)」だけだ。算数系の問題と違って、そのこと自体は読み解きよりも難しくない。文章化するだけの「作業」であることが多い(と言っても、もちろんある程度の訓練が必要であり簡単とは言えないが)。

理屈で考えるタイプであれば1年で合格可能


スケジュール的なことを最後にまとめておく。前述のように、まずは算数系と社会のグラフ系の問題に取り組んだ。1周目を終えるのに週2回80分授業で約2ヶ月。家でやってくる問題(宿題)はそれぞれ1題くらいで、他の進学塾と比べると非常にゆるい。

今まで本格的な進学塾に通っていなかったので急には無理だろという配慮もあった。8月から週4回にしてもらって、算数と社会グラフ問題の2回目3回目に取り組んだ。同時に理科と国語系統の問題に取り組み始めた。

国語の作文問題集1回目を終えたのが10月末で、2回目終了が冬休みに入っていたと思う。過去問題に取り組んだのは年明けであり、さすがに今、思うとギリギリ過ぎた。

世間では都立中高一貫高校附属中の人気は非常に高い。多くの進学塾がニーズに応えて専門コースを設けて、2年以上かけて教育している。占有率(応募定員における塾の出身者数)などというものを売りにしている塾もある。だが、一部を除き、その合格「率」は驚くほど低い。それは従来の中学受験指導のノウハウでは、都立中高一貫校の問題が対応できないからだ。都立の方も受験ノウハウでは解けないことを狙って問題を作っている。

この合格率の低さをもって「もっと時間をかけるべき」という向きもいるが、私はそれは違うと思う。初めの方にも述べたが、理屈のわかる子で基礎学力のある子であれば、1年程度で合格も可能なのである。

追記:早期教育・過去問について


過去問題・解答は各校のH Pから入手できる

「もっと時間をかけるべき」というのも見方を変えれば正しい。「理屈のわかる子を作る」には幼児・低学年からの教育が大事だからだ。しかし、それは都立中高一貫コースに小3・小4から入れればいいという話とは違うだろう。この件については長くなるので別稿で述べたい。一言だけで言えば小学校低学年までの「親子の会話」が重要なのだ。勉強のできる子に育てないならば、特に外出した時など、話しかけてくる子どもを放っておいてスマホを見つめている場合ではない。

過去問について。最大手進学教室Sを始め、いくつかの中堅大手では秋冬になっても過去問をあまりやらせたがらない。「過去問は過去問であり、同じ問題は出ないから」「問題傾向が変わった時に対処できない」などと理屈をつける。

そんなことは当たり前であり、過去問をやらない理由にはならない。昨日の売れ筋は今日の売れ筋とは限らないなどと言って、POSデータを見ない小売り業があるだろうか。過去問で発見された弱点の補強には最低でも1ヶ月くらいはかかるので、志望校の過去問題には早期に取り組むべきである。

第二章 家庭学習が向いている生徒・家庭

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