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一人旅のノウハウをまとめてみた

花山法皇ゆかりの地をゆく」という、誰に頼まれたわけでもない、ましてや仕事でやっているわけでもないのに、結構なお金を使って仕事で疲れた休日を浪費して、勝手な一人旅をしては、大した閲覧数もなければめったにスキを付けてももらえない記事を、これまた好きなように書いている。

こんな旅でも、何度も一人旅をしていると、一人旅のノウハウがたまってくる。
なので、この記事に一人旅のノウハウを書いていこうと思う。

荷物の上手なまとめ方とか、上手なチケットの取り方、宿のさがし方みたいな、実践的な手法ではないので、そういう情報が欲しい方はブラウザバックを推奨する。


心得編

一人旅をしようとするのであれば、準備や計画よりも前にまず、一人旅の心得を確認しておきたい。

心得といっても、大層なものではない。
一人旅の動機は思いつきや感情的なもので構わないが、その前に、なぜ一人旅をするのか?何が必要か?何をやってはいけないのか?

後から後悔しないように、最低限として覚えておきたいことを確認しておきたいのだ。

①なぜ一人旅をするのか

なぜ一人旅をするのか?と聞かれれば、理由は「したいから」で十分だと思う。誰を説得する必要もない一人で完結するものに、それ以上の理由は不要。クヨクヨ考えても仕方ない。
行きたいと思ったのならば、行くと決めたのならば、ただ、行けば良い。

しかし、「なぜ?」に対する理由や目的は要らなくても、「何をしに?」という旅の目標だけははっきりさせておきたい。

というのは、旅をしようと決めると、色々と欲が出てくる。
最初はうっすらと○○に行ってみたいという欲求で旅を志すが、具体的に計画を立てるために情報を集めていると、あちらもこちらも行ってみたいとか、現地で美味いものを食いたいとか、もっと効率的に回りたいとか、ガイドブックやブログやYoutubeに載っているここも見てみたいとか、もう色々とやりたいことが出てくる。
そうして、実際に旅に出ると、そんなつもりではなかった、期待していたものと違った、思い通りに行かなかったということは多い。
だから、最初に「最低限、俺はこれだけを満たすために旅に出るんだ」という目標を決めておく。あとは、できたらいいな程度にしておく。

初心者は、ある一つの地点への到達のみを目標にするのが良い。あるいは、ホテルに無事にチェックインするとか。

本当にやるべき目標を絞れば、目標の到達は容易くなるし、ハプニングへの機転が効くようになる。
残りの目標は、運が良ければできたらいいな、程度にしておく。
意外と、慣れない土地での行動なんて、うまくいかないものだから。

②一人旅のメリデメを把握し、自分の一人旅適性を理解する

一人旅をするのであれば、そのメリットとデメリットは把握しておきたい。

メリットは、旅費の総額が安い、同行者に気を使わない、旅の恥は搔き捨てと思える、だろうか。
デメリットとかリスクは、一人当たりの旅費が高い、独りが寂しい、何かあっても自分で解決しないといけない、宿泊地の手配が取り辛い、不審者に間違えられやすい、あたりか。

これは一般的で不変なものだが、一人旅に何を求めるかも、何を愉快に思い不快に思うかは人それぞれだから、一人旅のメリットとデメリットとして感じるものも、人によって大きく異なる。
これは、自分で見つけていくしかない。
一人旅をよく「自分探しの旅」と暗喩するが、具体的には旅を通じて自分の性格や価値観を浮き彫りにしていくのを指すのだろう。
それをわからず、なんとなくカッコいいという理由で「自分探しの旅」なんて発する人間が多いから、バカにされる言葉になってしまった。
「意識高い系」と同じようなものだ。

これらのメリデメを受け入れたうえで、一人旅を楽しんでいきたい。
逆に一人旅のデメリットやリスクを受け入れられないとわかれば、一人旅をしないという判断もするべきだろう。

人には個性、得手不得手、持って生まれた宿命というものがある。

どうしたって旅にはお金がかかるから、ある程度の収入がないと一人旅はできないだろう。
街を歩いていて、しょっちゅう警察官に呼び止められて職質を受けるような人は、一人旅には向いていない。まずは人相や挙動を直すべきだ。
靴下を妻に履かせてもらっているような人も、一人旅は難しい。一人旅では自分の世話は自分でしないといけない。
ブツブツと独り言をいつも言っているような人も、あまり一人で旅をしない方が良い。過剰に外面や身だしなみに気を遣う必要はないが、行く先々のTPOは合わせるようにしたいし、周囲の人間を不快にする言動は慎みたい。
行きつけのラーメン屋で「いつもありがとうございます」と言われただけで気分を害してそのラーメン屋に行かなくなる人も、一人旅には向かない。一人旅では、どうしても周囲から余所者の奇特者という視線を受ける。他人とのコミュニケーションも必要になる。見知らぬ他人の視線が気になり、些細なコミュニケーションを円滑に取れない人は、一人旅をしても嫌な気分になるだけだろう。

黙って電車の中から車窓を何時間を眺めていられるとか、予定変更に動じないとか、夕食は一人で食べるのが好きとか、トラブル対応が得意と言う人の方が一人旅には向いていると思う。

別に一人旅に向いている人を持ち上げるつもりはないのだが、自分が一人旅に向いているかどうかは、冷静に判断をした方が良いだろう。

③自分で旅の計画を立てて、手配をできるようにする

私は小学生のころ、時刻表を読むのが好きだった。
しかし、時刻表を読む楽しさは、ほとんどの人にはわからないものらしい。

現代ではネットに乗換案内と言うサービスがあるので、とりあえずA地点からB地点まで、どのような交通手段を使えばたどり着けるかだけであれば、目的地の選択と出発時刻か到着時刻を間違えなければ、正しい情報を得ることができる。

しかし、旅の計画作成となると、乗換案内だけでは手に負えない場合もある。公共交通機関が及ばない地区の移動に徒歩やレンタカーを使ったり、ある乗換地点で長めの待ち合わせ時間を取りたかったり、わざと遠回りをしてみたかったり、とかとか。

そういう場合、乗換案内だけではなく、交通機関各社が公開している時刻表も見ることになる。GoogleMapでおよその移動時間を把握することもある。
そうして、どうにか自分なりの旅の計画ができあがる。

こういう作業が難しいと思ってしまう人であれば、もしかすると、他人の旅行記や旅行会社ツアーの旅程の丸パクリをするかもしれない。
これはあまりよろしくない。

他人の旅行記の丸パクリは、その人のスキルや特性や趣向が反映されているから、実績はあっても自分が同じようにその旅程を辿れる保証はない。
できたとしても、それが自分にとって楽しめるのかも、難しい問題だろう。
旅行会社ツアーはさらに問題で、旅行会社だからできるタクシーやバスを使ったり、観光施設の入場に旅行会社の裏口を使う場合だってあるから、個人旅行者ではどうやっても、同じようには辿れない可能性がある。

だから、他人の旅行記はせいぜい参考程度で見ておくべきだし、自分で旅の計画を立てられるようにするべきだ。
最初は下手で色々と思慮が足りないかもしれないが、慣れればよい計画を立てられるようになるはずだ。
上手くなるにはPDCAサイクルを回すしかない。トライアンドエラーだ。

また、交通機関や宿泊地の手配も同様だ。
最初のうちは旅行代理店に丸投げをしてもよいし、旅行代理店から自分の立てた計画の不具合を指摘してもらえるかもしれないから、初心者は有効に活用したい。
みどりの窓口での購入も同様だ。乗り継ぎ時間が合わない旅程で切符を注文すれば、大抵は窓口の人が指摘をしてくれる。

しかし、いずれは自分で計画通りに全てを手配できるようになりたい。
そうすれば、手配の手間が減る分、旅に出る精神的な障壁が下がるから、気軽に旅に出れるようになる。
ネットで予約内容の変更ができるようになれば、旅中のハプニングにも対応しやすい。

④力量に合わない無謀な旅をしない

はっきりとは覚えていないのだが、数年前、沖縄の若者が徒歩で冬の日本縦断を志して、ネット炎上した事件があったように思う。

これは極端な例だが、やはり自分の力量に合わない無謀な旅はやめておいた方が良い。
日本国内であれば、よほど無茶な旅をしたとしても死ぬような事態にはならないだろうけど、故意ではなくても他人に迷惑をかけるような事態は避けたいし、変なトラブルにも巻き込まれたくないし、後から後悔するようなこともしない方が良い。

一人旅が未経験であれば、最初は新幹線と在来線を乗り継いで、駅近くの旅館かビジネスホテルに一泊して帰ってくるだけでも、色々と新しい発見や成長があるはず。

例えば、新幹線の自動改札は入場方式が特殊だから、未経験だと無事に通過できてもストレスは確実に溜まる。そういう慣れない環境でのストレスが溜まると、旅がつまらなくなったり、些細なミスも出るようになる。些細なミスが出るとさらにストレスが溜まり、またミスを誘発する。悪循環だ。

いきなり夜行バスで何泊もしたり、相部屋の利用、ましてや野宿なんて初心者はやめた方が良いし、レンタカーで土地勘のない大都市を走るのも危ういし、本数の少ないバスの利用を計画に組み込むのも、ある程度経験を積んでからにしておいた方が良い。

一方で、旅の難易度は、単純に距離や交通手段や宿泊施設だけでは決まらない。
旅から帰宅した翌日には必ず仕事に出社しなければならない人と、長い休み期間中の学生の旅では、全く同じ旅程で旅をしても、その難易度は異なる。
旅から帰宅した翌日から普段通りに仕事をこなさなければならないのであれば、旅中もそれを意識した対応が必要になる。

登山ほどではないが、見知らぬ土地の訪問であれば地図読みの技術も身に着けておきたい。
見知らぬ街を歩き回るのであれば、スマホのGoogleMapで現在地と目的地を確認し、どういう経路を歩けばよいか判断できるようにしておくべきだ。
現地で入手したイラスト調の観光Mapを参考に歩くのも、意外と技術が必要であったりするので、こういうのも経験を重ねて身に着けておきたい。

体力的な問題もある。
私の旅行記をなぞって同じような旅をしようなんて人はいないだろうけど、私の旅行記では3〜4時間の徒歩が普通に発生する。しかも、途中に休憩ができる飲食店なんて全くない。こういうのは、普段の運動習慣がない人にはキツいだろうからやめておいた方が良い。
徒歩ではないけど、せっかく旅に出るのだからと予定を詰め込み過ぎて、早朝から深夜まで移動しっぱなしという旅程も関心しない。

体力を限界まで使い切るような旅は避けたいところだ。

⑤危険な場所と人を避ける

旅のリスクは様々だが、旅先で出会う人間もリスクの一つだ。

一人旅の旅人というのは、旅先の人間社会の中では圧倒的な弱者だ。
法と国家権力が守ってくれるのは被害者になった後で、被害者にならないようにするには、自分で身を守らなければならない。

守ると言っても鎧を着て歩くわけにはいかない。
旅先で防犯ブザーを鳴らして周囲の人間が助けてくれるだろうか。
違法だが熊スプレーや何らかの武器で応戦するのは最後の手段だが、日本においてはやめた方がいい場合も多い。

では、どのように守るのかというと、一人旅の旅人にとって危険な場所、治安が悪いとされる地域は訪問しないようにし、危害を与えようとしてくる人物の接触を避けるしかない。
危険というのは、その住民や関係者が危険というのではなく、強く旅行者の訪問が歓迎されない場所という意味で捉えてほしい。

治安の悪い地域といえば、有名どころで東京の山◯や大阪の西◯があるが、こういう場所は旅慣れていない人間が、興味本位で面白がって行くべき場所ではない。
外国人にとっては安宿街かもしれないが、日本人にとっては世間に敗れた人間が最後に流れ着く場所である。そこに入り込む覚悟がないなら、そっとしておくべきだ。

もう一つ具体的な地域を挙げるなら、日本海の沿岸部も、鉄道や自動車で通過したり少し車を止めて周囲を歩く程度であれば問題ないが、あまり一人で長時間歩いているのは避けたい。

宗教系の施設も観光客向けに公開されているものは問題ないが、外来者を拒んでいる施設や土地も多い。
そういった場所も、いくら法的には問題ないとしても、近づいたりあえて踏み込むような真似はしない方が良い。
軍事施設や政府関連施設も、立ち入り禁止の場所には立ち入ってはいけないし、外からカメラを向けるのもNGの場所もある。これは法も犯すので、絶対にやってはいけない。
そもそも、違法か合法かに関わらず、誰かが立ち入りを禁止した場所には、立ち入り禁止になった事情がある。事情を知らないよそ者は立ち入らない方が良い。

しかし、本当に怖いのはあまり一般には知られていない、無名で治安の悪い地域だ。治安が悪いと言っても、警察が公開している犯罪マップに現れるとは限らないから厄介だ。
こういう地域は、あまり情報は無いのだが、今の日本でも確実にある。
今では地域差別になるので禁止されたが、かつて不動産の情報で学区が優良であるとアピールされていたのは、優良ではない地域が確実にあるということだ。
そういう地域に住んでいる方々が皆悪いわけではないから、知らずに一人で踏み込んで、いきなり強盗に囲まれる事態にはならないだろうが、旅で訪れたのであればカメラを出したり住人に道を尋ねたりしたのをきっかけに、いらぬトラブルに発展するのは大いにあり得る。
やはり旅人にとってリスクの高い地域の訪問は避けたい。

とはいえ、そういう地域に「旅行者立入禁止」とか「ここから危険」みたいな看板があるわけではないから、よそ者としては、少ない情報から「察して」いくしかない。

日本国内に限った見分け方の例として、大通りへの見通しがきかなくなり、やたらと選挙ポスター(政党名はあえて書かないが察してほしい)の貼られている家屋の多い地域に入ったと気づいたら、慌てて走って逃げる必要はないが、立ち止まらずに最短で大通りまで脱出をしておきたい。
やたらとセコムがついていたり、庭で番犬を飼っている家の多い住宅街も、その地域自体は富裕層の住民が多いのだろうが、何かしらトラブルを抱えて住民が神経質になっている可能性は大いにある。よそ者としてはあまり長居をしたくない。
地元住民が何人も遠くから監視をしているなんて場所であれば、そこはもはや赤信号だ。速攻で逃げたい。
一時期話題になった新宿のトー横や大久保公園のような場所が、現在でも潜在的にあるかもしれない。特に大都市であればストリートガールのメッカは常に遅れて情報が回るから、現在のホットスポットというのは、知らないところで遭遇する。そういう場所もできれば近寄りたくないし、危ないと思ったらすぐに立ち去るようにしたい。
外国語の看板やポスターが多い地域も、積極的に観光客を迎え入れようとしている地域でなければ、近づかない方が良いだろう。
それ以外でも、直感的に嫌な雰囲気、怖い雰囲気、不気味さを感じるような場所は、直感を信じて立ち去った方が良い。そういう時に、無理に旅を計画通りに進めようなんて思ってはいけない。

繁華街や風俗街は一般客も受け入れる場所だから、外観の異様さに反して思ったよりは安全だが、特に風俗街はやむを得ない事情で身分を隠して働いている人も多いから、キョロキョロしたり、カメラを出したりしてはいけない。
裏風俗街は21世紀になって日本から大幅に減少し、コロナ渦で一部の有名な場所を除いてほぼ壊滅したと見てよいから、知らずに迷い込むことはほぼありえないと思う。
それでも、今の日本では強引な呼び込みや客引きは違法だが、繁華街ではいまだにゼロではない。怪しい客引きには十分注意したい。

日本の暴力団も21世紀に入って大幅に減少したが、危険な人間というのは、いつの時代にもいる。
危なそうな人には接触しない、近づいてしまったらなるべく早く離れるのも心掛けておきたい。
うっかり付きまとわれそうになったら、タクシーに飛び乗ってそのままその地域を脱出するくらいの、行動の柔軟性が欲しいところだ。

平和で治安のよい日本を旅するのに、無闇におどおど怯える必要はないが、よそ者にはわからない地域の事情というものもある。
この世のすべての知識を入手できない以上、見知らぬ土地を訪問するのに、そういう場所や人がどこかにはあるのだと、頭の隅には入れておきたい。

⑥犯罪をしない・他人に迷惑をかけない

当たり前すぎるのだが、旅先ではとくに犯罪をしないようにするべきだ。

犯罪と言うと重犯罪ばかりが思いつくが、自動車の違法駐車やスピード違反だって犯罪だし、ホテルで備品を盗んだり壊したり、購入した切符の経由地と異なる経路で移動したり、風俗店の利用だってサービス内容によっては犯罪なのだから、そういうのもやってはいけないのは当然であるが、一人旅の旅先では特に注意をして避けておくべきだ。

特に一人旅では、自分の行動は自分一人で決めるし、周囲に自分を知っている人はいない。
そういう環境では、タガが緩んでしまう人だっているだろう。
自分は犯罪なんて絶対に起こさないなんて思いこまずに、旅中は自分を常に律してほしい。

犯罪ではなくても、なるべく他人に迷惑をかける行為はおこしたくない。
とはいえ、独りの見知らぬ旅人にウロウロされるのは、地元住民からすればあまり気分の良いものではないだろうけど、それを気にしてダメだと思うくらいならば、一人旅なんてしない方が良い。

これは常識の範囲内で気を付けよう、としか言いようがない。

ただし、俺は犯罪をしていないんだから何をしても自由だ、なんて傲慢な思想だけは持ってはいけない。
一人旅をするのであれば、謙虚であるべきだし、他人の視線や心情には最大限の配慮をするべきだ。

計画編

旅の計画は目的を達成するために立てるのが基本ではあるが、旅は基本的にハプニングがあるものと想定した上で計画を立てるべきだと思う。
だから、ここでのノウハウは、ハプニングを想定してどのように計画を立てるべきかに集約される。

①訪問地を挙げて優先度をつける

旅をする以上、訪問したい場所があるはずだ。
旅の計画を立てるのあれば、まずは行くべき場所を列挙したい。

さらに、訪問予定地はあくまで予定なので、行くか行かないかのゼロイチで考えるのではなく、優先度をつけておきたい。
そのうえで計画を立てれば、優先度の低い訪問地は計画の段階で日程が合わなければ落とせるし、行動中に計画が狂えばスキップすることもできる。

②計画は条件ごとに立てる

旅で行きたい場所、やりたいことが決まれば、次は具体的な旅の計画を立てるだろう。
しかし、計画を1パターンだけ立てて終わりというのは、あまりよろしくない。

全天候型の旅をできれば良いのだが、天候が悪いと行きたくない場所、使いたくない交通手段というものがある。
天候ばかりは事前に用意も予測できないから、天候に応じて現地で次善策を取れるように、計画を何通りか用意しておいて、当日の条件に合わせて予定を実行するようにしたい。

計画が狂うのは天候ばかりではない。現地を訪れてみて初めて行きたくなる場所というのもある。なるべく、そういう場所も行けるように余裕を持たせるのが好ましい。
ただし、余裕を持たせすぎると、現地で暇を持て余す羽目になるので、塩梅は微妙だし、正解もない。

これは、自分の性格や要望、経験などからほどよい程度をみつけていくしかない。

③帰りの便に最終便を使わない

これは、旅から帰った翌日も仕事が休みであれば、気にしなくてよい。

しかし、帰宅の翌日が必ず出社せねばならなず、かつ旅での移動には公共交通機関を使うとする。
その場合に、帰宅便に最終便を使う計画になっていて、旅中に帰宅便の乗り過ごしを意識しだすと落ち着かなくなる。

仮に予定の帰宅便に乗り遅れたとしても、お金さえ出せばその後の便でも帰れると思えば、旅中の心に余裕ができる。

東海道・山陽新幹線は、博多発東京行きの最終のぞみ64号というのが時刻表上最速であるらしいが、計画段階でそんな便を使うような計画を立てるべきではない。
速い新幹線に乗りたいのならば、東海道新幹線はしょっちゅう遅れるので、遅延回復運転に期待したい方が良い。

飛行機も、週末の最終便は高額なのであまり使いたくないところだ。

旅は常にゆとりとバッファを持っておきたい。
最終便を使わないというのは、言い換えれば最終便の利用はバッファとして残しておくべきだということだ。

④重要な土地、遠い土地から先に訪問する

旅程上で後半に訪れる計画とした場所は、前の行程がおして時間がなくなれば、訪問できなくなる。

であれば、早めに優先度の高い目的地の訪問を済ませておきたい。
だから、訪問地には優先度をつける必要がある。
また、遠い土地を先に訪問して、帰宅地に近づくように計画を組めば、計画から遅れた際に現地でのリカバリープランを立てやすい。

「遠い土地」というのは、自宅に対して遠い土地かもしれないし、帰宅便に乗る空港や新幹線駅かもしれない。これは、旅の交通手段によって変わるので、慎重に判断すべきだ。

要点は、何かあった時でもリカバリーしやすいプラン、無事に帰宅できるプランになっているかどうかだ。
帰りの飛行機や新幹線の出発時間に間に合うか、やきもきして移動をするのは避けたい。

⑤お金をかけ過ぎない

旅にはお金がかかる。

これはどうしても避けようがない。貧乏旅行だって、貧乏旅行なりにお金がかかかる。
しかも、お金をかけて旅をしても、旅の後には物理的に何も残らない。
お金をかければ、それだけ快適になるかというと、そうもいかない場合だってある。
だから、旅にお金をかけ過ぎないように計画したい。

これはケチになれ、というわけではない。
むしろ、後に何も残らなくても、後悔しない程度には旅には最大限お金をかけるべきだと思う。
お金をケチって、旅先で惨めな思いをするのも馬鹿々々しい。

自分が満足できるのであれば、飛行機はファーストクラス、鉄道はグリーン車、旅館は一泊数十万円、食事は一食数万円のレストラン、現地の移動はタクシーを貸し切りで使っても良い。
それで数日の旅で数十万円、数百万円と浪費をしても後悔が無ければ、そうした方が良い。
やはり、高額なサービスには高額なりの理由がある。人生は短いのだから、そういうサービスを受ける経験もしておいた方が良い。

しかし、高額で高級なサービスの良さを知るには、悪いサービスも知っておく必要がある。
むしろ、こういう高額なサービスを個人の余暇で使うのは、たまに使うからこそのありがたさがある。
普段は、多少の我慢を強いられるくらいのサービスが丁度良いように思う。

逆に、長距離移動は4列シートの夜行バス、宿泊は相部屋のドミトリーで済せるような最低料金の旅行であっても、その出費ですら後で後悔をするようならば、そもそも旅なんてしない方が良い。

旅に使うお金は、捨てても良いと思える程度のお金でするべきだ。

旅は自分自身の金銭感覚がシビアに問われる。
だから、宿や交通手段のクラス選択には、慎重になりたい。
旅が終わった後に、こんなことに金を使うんじゃなかった、という後悔だけは避けたい。

⑥無理な乗り継ぎをしない

これも公共交通機関の利用に限った計画の注意点だが、無理な乗り継ぎ計画を立てない方が良い。

乗り継ぎ先の路線の頻度は1時間に2本3本、あるいはそれ以上あるようであれば気にすることはない。
しかし、地方に行くと乗りたい路線は一日数本、予定の便を逃すと次は4時間後とか最終便だったとかなんて、普通にあり得る。
そこまで酷くなくても、予定の便に乗り遅れたために、1時間ロスをしたとしても、週末二日の短い旅であればかなりの計画が狂うはずだ。

ネットには乗換案内という便利なサービスがあり、これを使えば目的地までの経路を乗り継ぎ時間も含めて適切な情報を簡単に得られる。
乗換案内の乗り継ぎ時間は多少の余裕は取っているのだが、それでも所詮はシステムなので、個人の都合には合わせてくれない。
しかし、この経路と便に従って実際に移動をするのは自分の責任だ。ジョルダンや乗換案内に責任はない。
だから、乗換案内の結果は鵜呑みにせず、できる限り乗り継ぎ時間には余裕を持たせた計画を立てたい。

日本の鉄道は時間に正確だと言っても、新幹線は日常的に5分10分の遅延が発生するし、在来線だって地方の単線区間になればさらに酷い遅延が普通に発生する。
飛行機の到着時刻なんて参考程度にしかならない。

鉄道の優等列車同士の乗り継ぎや、地方空港から発車するバスであれば、遅延を待ってくれることもあるが、何でもかんでも期待通りになると思ってはいけない。

あと、乗り継ぎとは関係ないが、レンタカーを乗り捨てで利用する場合も気を付けたい。
レンタカーは返却予定地以外で返却することはできない。
乗り捨てにした場合、基本的には何があっても返却地までたどり着かないといけないが、その移動の予定をタイトなものにしてしまうと、トラブルに遭った際のリカバリーが効かなくなる。

⑦日程は繁忙期か?閑散期か?

計画を立てた日程は、交通機関や訪問地の繁忙期なのか、閑散期なのかも重要な要素だ。

繁忙期の交通機関や宿泊地の予約は取りづらくなるし、所々で混雑で思うように移動ができなかったり、入場券などの購入で時間がかかったりもする。

では、閑散期であればよいかというとそうでもない。使うつもりだったバスが運休になったり、飲食店がどこも営業していない可能性もある。

繁忙期も盆正月や祭日の連休など日本国内で一般的なものもあれば、訪問地固有の祭事や学会やイベントの開催などの要因もある。
青春18きっぷの期間であれば、特定の普通列車にきっぱーが殺到して、ローカル線の普通列車が満員電車並みに混むこともある。

上手く旅をするコツは、連休やお盆正月休みは、人気の観光地を避けて不人気の場所を訪問し、通常の週末に人気の訪問地を訪れるようにする。

ただし、混雑に巻き込まれても、繁忙期には繁忙期の良さもある。
寺社の繁忙期は露店で賑わうし、博物館などは特別なイベント展示を開催している場合もある。
祭事を眺めるのは楽しいし、普段は見れないものだから新たな発見もある。
そういったにぎやかな時期の訪問も、旅の楽しみ方の一つだと思う。

繁忙期に旅をするのであれば、いつも以上に計画に余裕を持たせることも肝要だ。

⑧急な帰宅や帰宅路不通に対応できるかを調べておく

旅中に家族が不慮の事故に遭った、病気になった連絡が来た場合、どれだけ早く帰宅できるだろうか。
旅中で体調が悪くなって、旅を中止して帰りたくなる場合だってある。
トラブルで宿に泊まれず、他に泊まる場所が見つからなければ、野宿という手段もあるが、基本は帰宅をするしかない。
あるいは、帰宅時に予定していた交通手段が不通になる場合だってあり得る。その場合に代替手段はあるだろうか。

全ての万一のケースを想定するなんてできないだろうが、何かあった際に最速で帰宅する手段は事前に把握しておきたい。

飛行機が悪天候で欠航になるのはよくあることだし、鉄道でもサンライズ号なんてよく止まるし、新幹線も季節によっては良く止まる。
新幹線が不通になって駅や車両で夜を明かした乗客のニュースや、航空機が欠航となって空港ロビーで夜を明かしたなんてニュースは、度々きこえる。
最速の帰宅手段というのは時間的な速さもあるが、ストレスの少なさや現実的に払える金銭も考えたい。
いくら最速といっても、長距離のタクシーや飛行機の当日券は高額になるから、どんな非常時でも選択肢に入らない人もいるだろう。

例えば、東海道新幹線が東京駅と新大阪駅間で不通になっても、特急サンダーバードと北陸新幹線を乗り継げば帰れるし、名古屋から東京方面であれば特急しなのと特急あずさの乗り継ぎで帰れる。
北海道の札幌で飛行機が欠航しても、特急北斗と東北新幹線を乗り継げば東京まで帰れる。
上記は幹線ルートだから代替ルートがあるが、そういう場所ではなくても、レンタカー屋に飛び込みで入って乗り捨てで借りてしまうのも、非常時であれば一か八かで交渉してみる価値はある。
こういうのは早いもの順だから、いざという時にとっさに動けるように事前の想定と調査が重要になる。
それでも、一人旅では一人分の移動手段の確保さえできれば代替ルートへの変更ができるので、身軽に変更やリカバリーが効くことも覚えておきたい。

訪問先でトラブルが発生した場合にどのように対応するか、どのくらいの時間で帰宅できるか、正確ではなくても大体で良いから事前に調べておくのは損ではない。

準備編

計画も旅の準備の一つではあるが、計画だけが準備ではない。

交通機関のチケットや宿泊施設の手配、持ち物の整理なども旅の準備にあたる。
準備はなるべく時間をかけずに行うのと、絶対に起こしてはいけない不備は起こさないようにして、それ以外の不備はリカバリーできるようにしておきたい。

①宿と交通手段の手配は日にちを間違えない

ネットで宿も交通手段も予約できるようになって、便利にはなったのだが、私の場合、ネットで手配をすると日にちを間違えて入力することが稀にある。
予約をしたら必ず日にちを誤っていないか、何度も確認しておきたい。

他の事項、例えば列車の座席は窓際かどうかとか、宿の朝食はついているかなどは、間違っていてもどうにでもなるので、どうでもよい。
とにかく、日にちと時刻を間違えてはいけない。
交通機関の予約でいえば、出発地と目的地の入れ違いも注意したい。

どうしても不安であれば、慣れないうちはネットではなく旅行代理店などの窓口で、係の人と確認をしながら購入したい。

もちろん、予約をした直後もそうだが、出発前にも最後の確認をしておきたい。
手配の日にちを誤っていても出発前に気付ければ、キャンセル料のお金をどぶに捨てるだけで済む。

現地に到着して、ホテルでチェックインをしようとしたら、お客様の予約は明日です、今日は満室ですなんて言われたら、目も当てられない。
日曜日の夜に、自宅からはるか遠方の地で、帰宅の飛行機の予約が取れていませんでした、満席なので今日の便では帰れません、なんて事態だけは絶対に避けたい。

②本当に必要なものは一つにまとめておく

旅で本当に必要な持ち物って何だろうか?

現代ではスマホがチケットやお金替わりになる場合も多いから必須だろうし、スマホの充電器も同様だろう。
自動車やレンタカーを使うのであれば免許証は絶対に忘れられないけど、レンタカーに限らず身分証明書と保険証は必ず持っておいた方が良い。
現金やクレジットカードは言うまでもなく必須だろう。

しかし、これらは旅でというより、日常生活においても肌身離さず持っておくべきものだから、さほど注意をする必要はないように思える。
むしろ、要注意は旅でしか必要ないものだ。
着替えの下着?洗面用具?常備薬?カメラ?
このように挙げていくと、持っていくものは全部必要なものなのだが、それでも現地購入で済ませられたり、スマホで代替できたり、持って行っても実際には使わずに帰ってくるものも意外に多い。

だから、旅先で代替が効かないもの、入手が難しいものを厳選して、一つにまとめて忘れないようにバッグに必ず入れておくようにしておきたい。
そこに予備の現金や保険証のコピーも入れておくとなお良い。

③不要なものでも安心が得られるのであれば持っていく

私は旅には必ずパタゴニアの防寒着を持っていく。
ザックのかなりの容積を占めるくせにめったに使わないのだが、私の旅にはなぜか徒歩が多いから、特に冬の旅には持っていないと不安になる。

持っていて安心を得られるものであれば、使うことは無くても、旅には持っていくべきだと思う。

そもそも、旅とは自宅と日常から離れるものだ。
それらから離れるのであれば、持ち物は必要であるかどうか、使うかどうか以上に、持っていて安心を得られるかどうかが、重要な要素であるように思える。
モノに依存し過ぎるのは好ましくないが、安心を持ち歩くという考え方自体はあっても良いと思う。

特に国内旅行であれば、余程のものでなければ、大抵は現地でも入手できる。入手できなければ、その場で帰ることもできる。
だからこそ、必要なもの、使うものより、安心できるものを持ち歩くようにしたい。

④天気は数日前からチェックしておく

どんな旅でも、天気は旅に大きく影響する。
だから、天気予報は旅の数日前からチェックしておきたい。

台風や大雪の予報があれば、旅を中止する決断だって必要になる。

そこまで酷くなくても、雨の予報が出ていたとして、この旅は雨でも決行するべき旅なのだろうか。
晴れでも真夏の猛暑であれば同様だろう。

改めて、旅の価値と天候を考え直してみるのも良いだろう。

⑤様々な支払方法に対応できるようにしておく

交通系ICカードやPayPayなどは、今や全国で使えるペイメントサービスになっているから、オートチャージ機能をつけていないなら事前にある程度まとまった金額を入れておきたい。

クレジットカードも、旅先でいざ使おうとしたら限度額を超えていたなんて事態は避けたいから、できれば限度額を引き上げておくか、旅に行く月のクレジットカード使用は抑えておきたい。

とはいえ、地方のバスやローカル線では、現金払いにしか対応しておらず、おまけに両替も不便であったりするので、小額紙幣と小銭もある程度用意しておきたい。

旅先での支払方法は選択肢が多い方が良いし、スマートに支払いを済ませられるようにしておきたい。

⑥旅先の服装を考える

旅の服装は何が良いのだろうか。

普段の服だって選ぶのはめんどいのに、旅に着ていく服となるとさらにめんどくさい。

とはいえ、一人旅の旅行者は、少しの行き違いで不審者に間違えられる可能性もあるのだから、外見には注意を払っておきたい。

どんな旅でも軽くて動きやすい服装が理想だが、それなりのホテルや旅館に泊まるのであれば、一人であればジャージ姿などはやめて、襟付きのこぎれいな恰好にはしておきたい。
夏でもTシャツ半ズボンにサンダルという恰好は止めておいた方が良い。
観光客があまり訪れない場所へ行くのであれば、地元住民の目があるから、あまり目立つ格好や奇抜な恰好は止めておきたい。

当たり前だが、落ちない汚れやほつれや破れがあるような服を着てはいけない。

交通機関や自動車に座っている時間が長いのであれば、しわの付きやすい服は避けたい。
徒歩が多ければ頑丈で歩きやすい靴を選びたいし、雨に降られる可能性もあるから、ジーンズやダウンのような濡れに弱い素材の服は避けたい。

朝寝坊をする可能性もあるから、寝癖を直す時間を惜しむのであれば、帽子をかぶっておくのも良い。
そもそも、旅では日差しにあたる時間も長いから、やっぱりつば付き帽子は用意しておきたい。

こうして書いてみると、旅の服装は色々考慮することがありそうだが、これについては私も無頓着な方に近いので、あまり偉そうなことは言えない。

しかし、若いうちは多少変な恰好をしていても大して気にならないが、年を取って変な恰好をしているとかなり悲惨な風貌になる。
いっそ、和服が一番無難なのではないかとすら思える。
また、着ている服の快適性は、想像以上に旅全体の快適度にも影響を与える。
旅を日常的にするならば、旅の服も真剣に選ぶようにしたい。

⑦訪問先の知識をつけておく

一人旅に限っては特に訪問先の歴史でも地理でも良いので、事前にある程度の知識を得ておいた方が良い。

一人旅だと特に公共交通機関を利用する場合はそうなのだが、ひたすら景色を眺めることになる。もう、ただひたすら。
それでも地理を知っていれば、ただの山や川や海岸にも何かしらの個人的な解釈を入れられる。
さらに歴史を知っていれば、ただの田んぼや家屋や道路からでも感想がうまれる。
宮脇俊三はこれに加えて、対向列車が時刻表通りに運行されているかまでチェックしていたようだが、これはさすがにやり過ぎだと思う。
それでも、こういう知識がないと、ただ漫然と風景を眺めているだけになる。
そんなのはすぐに飽きる。

まあ、移動中は酒を飲みながら本を読んでいても良いのだが、せっかく旅でしか見れない景色を見ているのだから、見た景色を楽しむ知識を事前に仕入れておいた方が良いと思う。

出発編

旅の出発時は、準備の最終段階であると同時に、帰宅後の不安要素を取り除くための行動もしておきたい。
帰宅後の不快要素を取り除くのは、次の旅のモチベーションにもつながる。

①帰宅後の宿題は残さない

家事、仕事などの帰宅後にやらなくちゃいけないことは、なるべく残さずに出発前に終わらせておきたい。

旅というのは思った以上に疲れるし、帰るときはただでさえ憂鬱になるのに、帰った後にやらなきゃいけないことがあると思うと、さらに憂鬱になる。

②体調が悪ければ旅を中止する

2024年になってコロナ渦がおさまったとはいえ、発熱があるのに旅に出るのは止めておきたい。
そうでなくても、疲労がたまっていたり体調が悪いのであれば、いくらキャンセル料が発生するにせよ、潔く旅の中止を決断しよう。
体調が悪いのに旅に出ても、面白くないし辛いだけだ。

むしろ、ある程度旅慣れてきたら、体調が悪い時や疲労がたまっている時に思い切って、一度、旅のキャンセルをしてみてほしい。
そういう時に旅に行かなくて良いとおもうと、思わぬ解放感がある。家でのんびり寝ててよいという解放感に浸るのも、ある種の快感であり旅の楽しみだ。

予約のキャンセルは褒めれらることではないが、キャンセル料を惜しんで苦しい旅を強行するのも良くない。

③予約内容の最終確認をする

とにかく、予約内容に間違いが無かったか、出発前に最後の確認をしておきたい。
行きの飛行機や新幹線の予約が間違っていたなら、空港や駅から家へ引き返せば済むが、遠地の旅先で宿がないとか、帰りの便の予約が取れていなかったなどは最悪だ。

④留守前の電源OFFと戸締りを確実にする

家に誰も残さず旅に出るのであれば、家の戸締り、冷暖房器具の電源、ガスの元栓、冷蔵庫の扉など、抜かりなくしておきたい。
旅から帰ってきたら、冷凍庫の扉が開きっぱなしで、冷蔵庫が停止して中身が全滅していたなんて最悪だ。
暖房器具を切り忘れてい、家に帰ったら火災で全焼していたなんて、もうどうにもならない。
戸締りを忘れたような気がして、旅中ずっと気になってしまったら、せっかくの旅が台無しになる。

馬鹿々々しいかもしれないが、出発前に確認事項を指さし確認で確認するくらい、慎重に出発前の家の確認はしておきたい。

⑤家には食料を残しておく

家に帰って来て、特に食料に関して何もないというのは結構つらい。

旅から帰って来て落ち着いてしまうと、近所にコンビニがあっても、中々買いに行くのも面倒になってしまう。
家に着いたら、軽いつまみを添えてビールで乾杯くらいはできるように、出発前に帰宅時の晩酌用の飲食を残しておくのはどうだろう。

晩酌はしないにせよ、実際の要否に関わらず帰宅時の夕食と翌日の朝食くらいは、事前に出発前に用意しておきたいところだ。

食料に限らず、旅から帰宅後に通常の生活に戻れるように、準備をしておくのも旅の準備だ。

旅中編

旅が始まったら、それなりのお金を使って、貴重な余暇を消費して旅をするわけだから、できる限り楽しみたい。
旅の楽しみ方は人それぞれ自由だが、楽しむコツというものはある。なるべく万人に適用できる表現で、それらを挙げていきたい。

①自由を享受する

一人旅のメリットは何といっても自由ということだ。

計画を立ててその通りに旅をこなすのも自由だが、旅先で新しい興味を見つけて計画を変更して訪問先を変えてしまうのも自由だ。
旅がめんどくさくなったら、さっさと宿泊地にチェックインをしてゴロゴロしたってよい。
それを咎める同行者はいない。

であれば、一人旅の自由をできる限り享受すべきだ。

とはいえ自由を享受するには能力と準備がいる、計画編で色々書いたのは、要は旅先で自由になるためだ。
自由であっても、好き勝手やってよいわけではない。
そこには、かならず倫理と制約が付きまとう。
それでも、自分の由で行動をするのだから、旅中に自分には何ができるのかを調べて把握するのが自由への道だ。

ただ一本道の計画を立てるだけが、旅の計画ではないはずだ。

②体調を崩さないようにする

旅行中に体調を崩す事態はどうしても避けたい。
どうしてもと言っても、どうにもならないことも多いのだが、防げるものは防ぎたい。

移動中に暑かったり寒かったりを感じていないだろうか。
疲労はたまっていないか。
宿泊地の部屋に入ったら、手洗いうがいをしているか。
宿泊先の部屋の冷暖房の効きは適切か。
食べ過ぎたり吞みすぎたりしていないか。

体調を確実に維持する方法はなくても、なるべく体調を崩さないようにできることはある。
それらは確実にやっておきたいところだ。

③小さなことに感動する

ぶっちゃけると、旅なんてものは疲れるしつまらない。
はっきり言えば、家でテレビやYoutubeを見ている方が、楽しいしお金もかからない。
おまけに一人旅となれば、尚更、話し相手もいないし、自分で何もかも世話をしないといけないしで、普通に考えれば厄介なだけで面白いわけがない。

それでも一人で旅をするのであれば、小さいことにも感動する心持ちでいたい。

座った電車のシートがふかふかだった。天気が良かった。朝の目覚めが良かった。無事に家に帰ってこれた。etc
どんな些細なことでもいいから、下らないなんて思わずに旅中は良かったと思えることを拾って、良かったと感じてほしい。

これはうつ病状態の人が一人旅なんてしてはいけないとも言える。
うつ病の時は、とにかく些細なことでもネガティブに捕えるし、ポジティブなことは目に入らないか、下らないと思ってしまう。
そういう精神状態の時には、一人旅なんてしない方が良い。

うつ病に限らず、一人旅は心身が健康で、近辺の環境がある程度順調な時に限って実行するべきだ。
あまり調子が良くないとき、大きな失敗をして気持ちが沈んでいる時なんて、ただでさえ注意力が散漫になって慣れない環境への適応能力が落ちているのに、一人旅で気分転換を図るのはあまり良い手とはいえない。
失恋の一人旅行というのは、何も気持ちが収まらないどころか、ただただ疲労を重ねて傷口を広げるだけだ。
そういう時は一人旅ではなく、予約から旅中の各種手続きまで全部まかせられる世話好きの同行者におんぶにだっこで旅行をするべきだ。

④トイレ管理はしっかりする

旅先では、意外とトイレが無かったり、自由に入れなかったりする。

旅のトイレで困るのは、自動車で高速道路の渋滞にはまった時だけではない。
繁忙期の観光地や駅、混雑した列車では、異常に待たされることもある。
飛行機は気流が乱れれば立ち席が禁止になるから、国内線では飛行機内のトイレはあまりあてにしない方が良い。
一般のバスや通勤型電車にトイレは無いから、長時間乗車をする際は要注意だ。
地方の高速道路では何十kmもPAがなかったりする。
男性より女性はさらにトイレ状況が厳しいから深刻な問題だろう。

であるから、トイレ管理はしっかりしておきたい。
昨今の日本では、道端や駅のホーム端で用を足すのは、法律的にも常識的にも許される行為ではない。

今トイレに入らないと、次にトイレに入れるのはいつなのか。
ここで飲み物を飲んだら、いつごろ用を足したくなるか。
大きい方はどれくらいたまっているのか。

これらは旅の行動中は、必ず忘れず漏らさず把握しておきたい。

飲酒はもちろん、寒い場所に長時間居たり、汗をかかない程度に長時間身体を動かしているとトイレが近くなるのも、経験して把握しておきたい。
こういうのは自分の身体のことだから、自分にしかわからない。

他の失敗は大抵のことはリカバリが効くものだが、トイレで失敗すると、旅は台無しになる。
二度と旅なんてしたくなること請け合いだろう。

だから、旅のトイレ管理は絶対に怠ってはいけない。

⑤計画通りにならないのを怒らない

交通機関が遅れる、自動車で渋滞にはまる、観光地で混雑に巻き込まれる、予定のルートが通行止めで通れず遠回りをさせられる、トイレに行っていて予定の交通機関に乗り遅れた、予約したはずの宿に泊まれなかった、指定席を譲れと言ってくる図々しい親子や老人に出くわした、etc
これらは旅をしていれば、起こる可能性は必ずあるものだ。

こうした計画どおりに旅を進めるのを阻害する要因たちを、一介の旅行者が取り除くのは不可能だ。
であれば、一人旅をするのであれば、これらのトラブルは受け入れていくしかない。
だから、計画時に予定外の事態を想定せよということでもある。

とはいえ、計画時には想定できないトラブルもたくさんあるし、それらが襲ってくることは十分にある。
であれば、想定外の事態に遭遇した時は、まず怒らないで冷静になることだ。
つまり、癇癪持ちに一人旅は向かない。

日常生活では、自分の思い通りにならなかった場合に、あなたは怒鳴り散らすなり理詰めで追い詰めるなりすれば、裏でパワハラ野郎と影口を叩かれていたとしても、周りの誰かが何とかしてくれていたかもしれない。
しかし、旅先で一人のあなたには、周囲の誰もそこまで面倒をかけてやる義理なんてないのだから、いかにあなたに正義があろうが感情任せに動けば動くほど事態は悪化する可能性がある。

トラブルに会ったらどうするか。
そのまま旅を続ける?帰宅する?本日の宿泊地に直行する?警察や病院に飛び込む?相手が折れるまでクレームを言い続ける?
冷静にとはいっても不測の事態に遭えば動揺はするだろうから、挙げられる選択肢はこれまでの準備と経験がものをいう。
トラブルの種類や置かれた状況によって最善手は異なるが、それらを選択して実行する必要がある。
状況を分析して、とり得る選択肢を挙げて、その中から選択をして実行する、この思考を正常に行うためには、やはりまず冷静でなければならない。
冷静に対処できずに選択を失敗すれば、さらに傷口を広げるだけだ。

また、交通機関の特に鉄道の遅延、運行停止であれば、駅や車内のアナウンスを冷静に注意して聞いておきたい。かつて、東北新幹線が不通になった際は、在来線で臨時の快速が運行されたこともある。
こういう情報は、現地でしか得られない。

一人旅では、何があっても怒ってはいけないのだ。

⑥食べ物に期待をしない

旅先での食べ物は旅行のだいご味の一つだ。

しかし、事前に情報を調べ上げて、どうしてもこの場所のこの店という指定をして行く飲食店でもない限り、旅先でふらりと見つけて入った飲食店の食べ物がおいしかった、なんてことはまず無いと思っておいた方が良い。
かといって、旅先で全国展開のチェーン店やコンビニ飯で済ますのも味気ない。

であれば、旅先ではぜひともまずい食べ物を楽しんでほしい。
値段の割に量の少ない駅弁に落胆し、観光地の屋台の値段の高さに驚愕し、夜の繁華街でまずい料理に舌鼓を打つのは、一人旅ならではの楽しみ方ではなかろうか。
美味しいものを食べる旅は、恋人や家族を連れた旅行にとっておきたい。

そもそも、サービス提供側だって、リピーター客になりようがない一見の旅行客に、懇切丁寧なサービスを提供する義理なんて無いのだ。
せいぜい、Googleや食べログの評価に悪いことを書かれない程度にしておればよいのだから、こちらもあまり期待などしてはいけない。

⑦危険から逃げる

旅行者にとって旅先というのは完全アウェイなのだから、とにかく危険な場所、ヒト、モノには近づかないようにし、うっかり接近したら即座に逃げるべきだ。
危険に遭遇したとしても、立ち向かおうとか戦おうなんて思ってはいけない。

危険とはいえ理不尽なものに屈して逃げるのは、不愉快かもしれない。
しかし、そもそもを考えれば、一人旅をしている時点で、その旅人はすでに何かに敗れて負けているのではないか。

であれば、今さら旅先で逃げること事体、大したことではないだろう。

⑧旅に仕事を持ち込まない

コロナ渦で在宅勤務が一般的になってから、ワーケーションと言う言葉が流行っている。
ワーク+バケーションだそうだ。

ノートPC一つで在宅で仕事ができるようになると、いきおい、旅先でも仕事をしたくなる。しなくちゃいけないと思うようになる、と言った方が正確か。
しかし、旅先でも仕事ができると思って旅に出ると、旅中で仕事を忘れることができない。
これは精神衛生上、あまりよろしい状態ではない。

旅先で仕事をするならする、しないならしないをはっきりさせておきたい。

できれば、仕事をできる環境を旅中に持ち運んでも、緊急時でもなければ仕事はしないと、はっきり割り切っておくのが良い。

⑨紙チケットの保管場所を決めておく

ペーパーレス化が進んだとはいえ、まだまだ旅先では紙のチケットのやり取りは多い。
飛行機はチェックイン後のレシートを持っていなければならないし、鉄道も全てがペーパレス化はされていない。バスでは相変わらず整理券制を用いているバスも多いし、観光地の入場券はいまだにほとんど紙チケットだ。

受け取ったチケットを、おもむろにポケットに突っ込んで、あとでどこへしまったか忘れたり、ポケットに他にもいろいろなものを出し入れしているうちに落としてしまったなんて事態は避けたい。

チケットの保管場所は決めておき、チケット以外は入れないようにしておきたい。

これは恰好悪いが、サコッシュやポシェットのような首から下げて手の自由がきく小物入れを使うのが、今のところベターだと思う。
チケットレスの新幹線に乗って駅からは送迎を使って旅館に入り、旅館でのんびりしたら翌日は帰るだけという旅であれば、こんな気を使う必要はない。
しかし、訪問先が多かったり地方で多数の交通機関を乗り継ぐのであれば、やはり旅中のチケット管理の問題もいい加減にはしておきたくない。

⑩「旅の恥は掻き捨て」ではない

「旅の恥は掻き捨て」ということわざは、どこから出てきたのだろう。
これは、日本だけのことわざであるらしい。

庶民が旅をできるようになったのは江戸時代かららしいが、江戸時代は主要な街道は関所で区切られて自由な旅はできなかった。
できたのは、寺院から許可をもらった宗教的な参拝巡礼だった。
すると「精進落とし」という風習が現れた。葬儀の後の食事ではない。
参拝後の遊郭や宿場での買春行為である。
現代に置き換えると、有名な寺社仏閣の門前町やその道中の宿場町が風俗街になっていたのだから、それは異様な光景だったろうが、当時はそれが普通だった。
元々旅慣れていない巡礼者が、慣れない場所で商売人相手に濃厚接触を行えば、不本意であっても恥のある行為となってしまうのは、それは多かったことであろう。
それを誤魔化し慰めるためのことわざではなかっただろうか。

本来は宗教的で神聖であるはずの巡礼行為に、「精進落とし」が公然と付いて流行ってしまったのには、西国三十三所の中興の祖とされる花山法皇が好色だったという伝承が影響したのかもしれない。
江戸時代に至るまでの仏教の歴史を調べると、花山法皇一人にその責任を押し付けるのは、大いに違う気もするが。

とにかく、現代において「旅の恥は掻き捨て」で旅をするのは、あまり褒められた行為ではないように思う。
現代の日本では「精進落とし」の風習も、その残滓のような文化もほぼ完全に無くなったからでもあるが、下の話だけではない。

旅先で出会う人との再会の可能性はほとんど無いにせよ、やはり礼節は守っていきたい。
マナーの悪い旅行者が観光地を訪れれば、そこに住む人たちは観光客を拒絶するようになる。
一人旅であれば、そばに誰も咎める人はいないから、自分を律せるのは自分自身だけである。
そこに「旅の恥は掻き捨て」なんてことわざが頭の片隅にでもあれば、無秩序、無道徳に行動をしてしまうのは目に見えている。

それであれば、先人が残した貴重なことわざではあるが、「旅の恥は掻き捨て」という言葉は完全に忘れてしまおう。

旅の恥も捨てられない。
恥のある旅はしないようにするべきなのだ。

帰宅編

旅が終わって帰宅する。
もうこの旅について、することは何もないのかもしれないが、次の旅がある。未来になって、この旅を思い出したくなることだってあるかもしれない。
そういう準備を帰宅後にはしておいた方が良いだろう。

①記録を残す

旅をしたら、記録を残しておきたい。

別に詳細な旅行記を書く必要はない。
いつどのような交通機関に乗って、どの場所に宿泊したか、お金はいくらかかかったかという情報だけでもよい。
感想や詳細な描写などなくて良い。
これらの記録が、未来において貴重な情報になるかもしれない。

しかも、現代であればスマホがあるのだから、宿泊先や電車の時刻表や切符の写真を残しておくだけでも良い。

②後悔はしないで反省をする

旅では必ず、とは言い過ぎかもしれないが、大抵は大なり小なりの失敗をする。
せっかく失敗をしたのだから、次に生かしていきたい。
であれば、やはり反省はしておきたい。

反省と後悔は違う。
失敗を悔いるのではない。これは後悔。
同じことはしないと誓うのでもない。これも後悔。

事前に何ができたか、本当に失敗だったのか、当時他にとり得る選択肢は無かったか、なぜその選択肢を選ばなかったのか、等々を検証してみるのだ。
すると、新たな視点やスキルが生まれるかもしれない。

さいごに

「またか!」と思われそうだが、太宰治が記した「『井伏鱒二選集』後記」に、以下のような記述があるので、引用する。

 重ねて言う。井伏さんは旅の名人である。目立たない旅をする。旅の服装も、お粗末である。
 いつか、井伏さんが釣竿をかついで、南伊豆の或る旅館に行き、そこの女将から、
「お部屋は一つしか空いて居りませんが、それは、きょう、東京から井伏先生という方がおいでになるから、よろしく頼むと或る人からお電話でしたからすみませんけど。」
 と断わられたことがある。その南伊豆の温泉に達するには、東京から五時間ちかくかかるようだったが、井伏さんは女将にそう言われて、ただ、
「はあ。」
 とおっしゃっただけで、またも釣竿をかつぎ、そのまま真直に東京の荻窪のお宅に帰られたことがある。
 なかなか出来ないことである。いや、私などには、一生、どんなに所謂「修行」をしても出来っこない。

『井伏鱒二選集』後記 第四巻より

このエピソードは、一人旅を志す者にとっては中々に示唆に富む内容である。
そもそも、太宰治の言うように本当に井伏鱒二は旅の名人なのか、という問題もある。

旅先の理不尽なトラブルに対して、感情的にならずに受け入れて引き下がれば、それが名人なのだろうか。

20年も前の話だから現代では通用しないと思うが、エア・インディアを使ってインドを訪問した際、行きは8時間、帰りは10時間飛行機の出発が遅れた。
行きは成田空港のロビーで待ちぼうけを食らったが、帰りは他の搭乗客のクレームに便乗して、豪華なホテルの一部屋で待機することができた。
二ヶ月以上旅をしていたとはいえ、他国の空港で10時間近くも待たされるのはキツい。ホテルの部屋で待機できたのは、本当にありがたかった。
当時は、エコノミーでも成田とデリーの往復に18万円くらいしたし、発展途上国の航空会社の母国の空港だからできた対応だっただろうと思われるが、航空運賃が当時よりすっかり安くなった現代では無理な応対だろう。
※一時期の成田デリー間の往復運賃は10万円程度まで落ちたが、ここ数年でまた18万円前後まで戻ったようだ。とはいえ、これは円安と世界的な物価高騰の影響であろうから、やはり、当時と同等のサービスやフォローは期待できないだろう。

何でもかんでも、黙って引き下がれば良いというわけでもない。

一方で、これも昔話だが、15年くらい前だろうか、当時の欧州では鉄道が遅れて駅員や係員に猛抗議をするのは日本人観光客だけだったらしい。
現地の人にとっては、鉄道が遅れること自体当たり前だし、駅員に抗議をしてもどうにもならないこともわかっているのだ。
やはり、旅において感情的にならないのは鉄則だろうし、やっても無駄な抗議はするべきではない。
自分も相手も、お互いに無駄な時間を浪費し、いたずらに消耗するだけだ。

どういう場面で、自己主張をして自分の権利を主張して抗議すべきか、あるいは大人しく引き下がるべきかの判断は、本当に難しい。
人格的な成熟も必要だが、知識や経験もいる。
一朝一夕で旅上手、旅名人になろうなんて思ってはいけない。最初は誰もが初心者で未熟者なのだ。

太宰治が紹介した、井伏鱒二のエピソードについて考えてみる。

5時間かけてやってきた南伊豆の旅館で、宿泊を断られた。
井伏自身は予約をせずに飛び込みだったようだが、知り合いか編集者が気を利かせて予約をしたのだろう。
当然、井伏は自分が井伏だと名乗れば済んだ話だから、抗議というほどの交渉をせずとも、難なくこの旅館に泊まれたはずだ。
しかし、事前に予約をしていなかった旅館であるから、当日訪れてみて宿泊を断られる可能性は、飛び込み宿泊が当たり前の当時でも大いにあったはずだ。
現代では信じられないが、昭和の中頃までは、温泉地の駅前では遠方からの列車が到着すると、飛び込み客狙いの旅館の旗を持った客引きが待機していた。
旅館が恭しく待っている井伏先生が、自分のような粗末な格好をしたおっさんだとがっかりさせるだろうからと、彼なりに気を利かせて黙って引き下がったのだろうか。
初見の旅館で訪れてみたら思いのほか粗末だったから、宿泊を断られたのを幸いと、そのまま帰宅した可能性もある。少なくとも、旅館側は井伏先生の顔を知らない。
そもそも、自分が井伏先生だと証明するものを何も持っていなかったのならば、説明も交渉も抗議もできなかっただろうから、引き下がるしかなかったのかもしれない。

井伏がおとなしく引き下がった理由はわからないし、本当に旅館に抗議をしないのが良かったのかもわからないが、取り乱さずに旅の計画をすんなり変更して対応できたという点においては、やはり上手の類には入るのだろう。
少なくとも、井伏は本来の予定になくても当日中に東京に帰れることも把握していから、冷静に引き下がれたはずである。

これを太宰がわざわざ書いたのだから、当時の日本でも、こんな対応ができる日本人は奇特であったのだろう。

自分に過失の無い原因で、突然5時間の道のりの帰宅を強いられるのは、精神的にも体力的にもかなり辛いかもしれないが、それが起こり得るのもまた、一人旅というものである。
再度断るが、何でもかんでも黙って引き下がるだけが、旅上手、旅名人というわけではない。
この当時の井伏だって、南伊豆までの移動で疲れ切っていたり、帰りの列車の手配の見込みがなければ、どうにか旅館に泊まれるように手を尽くしたはずだ。

しかし、不測の事態に対して、柔軟に計画を変更し、冷静に対応できるようになるのは、一人旅において目指すべき到達点の一つなのだろう。


一人旅のノウハウを書くつもりが、説教臭い内容になってしまった。

しかし、日本国内の旅行であれば、自動車であればカーナビを使いこなせれば目的地へ行けるし、公共交通機関だって一般的な社会生活をしている人であれば大過なく使えるはずである。
宿泊施設での宿泊だって、よほどひどい宿でなければ慣れない客には親切にフォローをしてくれるだろうし、昨今の日本なら手ぶらで旅に出ても、持病持ちでなければお金さえあれば数日はどうにかなる。

だから、普通に旅をするのであればノウハウらしいノウハウなんて知らなくても良いし、むしろ、どういう心掛けが必要か、非常時の対策はできているかの方が重要だと思うから、この記事も無駄ではないと思いたい。

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