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無観客が全く似合わないアーティストの、無観客ライブ。音楽業界は、ネット配信で生き返ることができる?

2020年6月13日、白崎映美&白ばらボーイズ「白ばらキャバレーナイトショー!!」

白崎映美&白ばらボーイズを、ご存知だろうか?
私が今、最もオススメするライブバンドのひとつだ。

かつて、この記事でベタ褒めさせていただいたが、シンガーの白崎映美さんは、その場に居合わせた観客が誰であっても、その心を開き、笑顔にしてしまう天性のエンタテイナー。

今はPerfumeのような、高度に計算されたデジタルプログラムを走らせるライブ芸術もある。

これに対して、この「白崎映美&白ばらボーイズ」は、完全アナログ。ステージ上の生身の人間のパフォーマンスだけで盛り上げるタイプのアーティスト集団である。その独特のスタイルは、言わばキャバレーのショーで、楽しいトークや大道芸を織り交ぜて、単なる楽曲の演奏を聴くだけの体験に留まらない上質なエンタテインメントを提供してくれる。まさに会場に出向いて生で観るべきバンドだ。

私が今プロデューサーだったら、そのままラスベガスのホテルに輸出したいくらいだ。

そのバンドが代官山から無観客ライブをすると言う情報が入った。
コロナの影響で多くの興行が中止に追い込まれた長い期間を経て、やっと規制緩和の動きが出てきたタイミング。

大丈夫なのか。

なにしろ、無観客が全く似合わないバンドである。
来週になれば、2メートルずつ離れているにしても、生の観客の前でできるではないか。

好きなバンドだけに、おそるおそる心配しながら観ていたが、あら不思議、だんだんと画面の向こうに引き込まれてしまった。

WOWOWで、さまざまなアーティストのライブの生中継を観てきたものの、何かこう、DVDを観ているようで、感動が薄いのはなぜかと思っていたが、なるほどその理由がわかった気がした。

アーティストの気持ちや、ステージの演出が、客席だけを意識したものだと、どうしてもライブDVD映像のようになってしまう。お茶の間の視聴者は、その場に溶け込めないのだ。

いっぽう、配信で観ているお客さんに向けたサービス精神があると、ちゃんとパワーが届くのだ、という気づきが今回あった。

この日の白崎映美さんには、手探りながらも、ネットの向こうのあなたに、何かを呼び掛けようという、気迫があった。

考えてみれば人気ユーチューバーだって、これまでずっと無観客でパフォーマンスをしてきたじゃないか。それでも、ネットの向こうの人たちの心を動かすことができている。

これからのライブパフォーマンスの可能性を感じた一夜だった。

ライブハウスは、どうなるの?

それでも、今回の新型コロナウイルスで最も痛手を受けた業界のひとつである、ライブハウスの将来には不安が残る。

昔ながらの電話帳があったとしたら、最もページ数を割かないはずの少数派の施設が、日本で初期のコロナ感染源として「名指し」されたために、クラスターを起こす象徴的な存在にもなってしまった。

仕事でも自分自身の活動でも、数えきれないほど足を運んだ大好きな場所が、閉鎖や営業自粛に追い込まれたのには、とても心が痛む。
自分で経営をしたことはないので勝手な想像だが、ライブハウス事業は、そんなにラクな金儲けではないはず。
騒音だのお客や出演者のマナーなどの懸念から入居させてくれる建物も少ない。それにキャパが狭ければ売上には限度があり、広ければ維持費がかさむ。
それに何しろ、出演アーティストが集客してくれなければ、商売にならない。

そんななかでも、ライブハウスのオヤジやオカミの中には「このバンドはモノになる」と信じれば、ある時期は赤字でも眼をつむって演者を育てる気概のある人物もいるんだ。

そう、音楽やライブのよさを愛し、ひとつの信念を持った人たちによる私営の文化施設なんだ。

ただでさえ、そんなに美味しい商売でもないのに、今回のコロナの一撃は相当なものだったはず。

新型コロナについては、「空気感染しない」「致死率が低い」「若い人は大丈夫」などと言う、今となってはデマと言える情報が飛び交い、しかも「マスクは不要」「いや、やっぱりマスクは必要」と、情報のブレにも振り回されてきた。ただ、2020年6月現在の世界の報道を見る限りでは、空気中に声を出すことによって起こる飛沫感染は無視できないようだ。
つまり、密閉空間で、近接した人々が大声を出すライブハウスでは、かつてと同じような客席を満席にした状態に、まだまだ多少のリスクが伴う。

しかも、大小問わず、ホール公演でキャパの半分以下の集客でペイするのは不可能に近い。ほぼ満員になって初めて利益が出るモデルなのだ。

だったら、ネット配信で補えばいいじゃないか、という意見が、自粛要請してきた行政から出そうだ。
いやいや、そんな簡単なもんじゃないよ、というのが業界の意見だろう。

ライブってのは、その場にお客がいるからいいんだ。
満員で盛り上がるからいいんだ。
アーティストが直接、至近距離でファンと交流できるからいいんだ。
全国ツアーで自分の街にも来てくれるのがいいんだ。

それは、そのとおりだ。

でも、5000円のチケットで100人で満員の小屋でやる興行は、一晩で50万円の売上だ。
ただ、チケット代を2万円にして会場のお客さんは20人限り。でも、1000円で配信を観てくれる人が1000人いたら、合計の売上は140万円だ、という計算も成立するのである。

そんなの無理だろ。
100人しか客を呼べないアーティストが、なぜ配信で1000人を確保できるのさ?

確かにそうかも知れない。

でも、仕事の関係で開演の時刻に現場に着けない人もいる。住まいが遠くて行けない人もいる。
そして、観たいけど、会場まで行くのはめんどくさいな、という多くの人もいるんだ。

別の例をあげよう。

私は、かつて、ジーコが監督をしていたころのサッカー日本代表のワールドカップ予選をバーレーンまで観に行ったことがある。いわゆるチャーター便によるゼロ泊弾丸ツアーだ。料金は忘れたが、おそらく10万〜20万円くらいはしたはずだ。

誘ったけれど、誰も一緒に行ってくれなかった。まあ、当然だ。

でも、確かに生で観た。
そして、日本が勝った。
ただし、たった1点しか入らなかった試合の、小笠原満男の貴重なゴールが、私には、よく見えなかった。

見落としてしまった。

初めて訪れた、その中東のスタジアムには、大型スクリーンの設備もなく、プレイバックもなかった。
何百万、いや何千万人の、お茶の間のテレビでその試合を観戦した人たちは、中村俊輔が、自分へのパスでなく小笠原が自ら打つことを促して、そのまま振り抜いたシュートが鮮やかにゴールネットを揺らしたのをしかと見たはずだ。

でも、私には見えなかった。

ただ、試合は生で観た。海外アウエーの洗礼も実感した。わざわざ行った価値は確かにあった。お金はかかったけどね。

さて、もうひとつの例として、あなたが、数万人キャパのドームにコンサートを観に行ったとする。
そのときに、ステージの両側に映るスクリーン映像を観ずに、豆粒のようなアーティストをずっと観ているだろうか?
ついつい、見やすいほうのスクリーンを見てしまうのではないか?

でも、スクリーン観てるなら、家でWOWOWで観たほうが快適だろう。

そういうことだ。

その場を共有するというよさは、もちろんある。

ただ、その場に行かずにできるバーチャル体験でも、楽しめる要素は十分にある。それに、現場よりも見やすく聴きやすくすることもできるのだ。

それに、音楽アーティストのライブは、1曲目からアンコールまでセットリストが決まっていて、ツアーが始まったら、ルーチンをこなしているだけのような側面がある。
追っかけをやったことがある人ならわかるだろう。
それぞれの公演で、少しの違いがあるにしても、アーティストはどこに行っても決められたメニューをこなしているだけだ。

だったら、わざわざ全国をまわらなくてもいいんじゃないか?
地方に行くには交通費も宿泊費もかかるし、なおかつ人口の多い東京と違ってお客さんが少ないから儲かりにくい(コストがかかるのに売上が少ない)というのが、悲しいけれど地方公演の現実だ。

であれば、どこで実際にやってるかはわからなくても、お茶の間ですぐに観ることができて、チケットの売り切れもないし、当日券でも必ず手に入ることができて、その場でグッズを買うこともできる配信って、結構ステキじゃないだろうか。

私は、もし明日、ビリー・アイリッシュがロスの小さいライブハウスからネット配信してくれたら、1〜2万円くらいなら払うかもね。パフォーマンスがよかったらさらに投げ銭するかも知れないし、その場で売ってたらグッズを買うだろう。

もはや外タレが「来日」なんかしなくてもいい日が来るかもよ。

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